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国王陛下の嫉妬

再び、国王陛下の小話です。

新婚旅行から帰還してからの話になります。

 最近、ナディアはテミスととても仲が良いらしい。そのことを私が知ったのは、夜にナディアが話してくれる内容からだった。


「今日はブルーベリーのタルトを頂きましたの。本当にテミス様のお菓子は美味しいですわ」

「・・・そうか・・・」


 顔を綻ばせて、その日にあった事を報告してくれるナディアを見ているのはとても楽しい。しかし、その話題の多くがテミスとしているお茶であるというのはいかがなものか。

 私は努めて溢れ出てくる感情を外に出さないようにした。こういうとき、感情を表に出さないことに慣れているととても便利だ。何を考えているか、相手に気づかれずに済む。

 だが、テミスには通じないし、ナディアにも最近は気づかれやすいから注意しておかないとな。


「次はアプリコットパイを持ってきて下さるって仰ってましたわ。今から楽しみです」


 本当に嬉しそうな様子と内容に、私は少し眉が顰められるのを抑えられなかった。

 ナディアとテミスの仲が良いのはとても喜ばしいことだ。ナディアは私の大切な妃であるし、テミスは腹違いではあるが可愛い弟である。互いにとっても義理の姉弟であるのだから、仲が良いのは好ましい。しかし、日を置かず、ほぼ毎日のように会っていると察してしまえば、色々と思うところがある。


「(私は政務で夜しか会えないのに・・・)」


 最近は、忙しくて会えない日もある。なのに、お預けを喰らっている私を差し置いて、テミスがナディアと会っているのはずるい。


「(ナディアは私の妃なのに・・・)」


 3日ぶりの逢瀬なのに、他の男の話をされるのは嫌だ。例え弟であっても。

 私はこっそりと息を吐いた。

 私の苛苛した様子に気づいたのか、ナディアが小首を傾げてこちらを見ている・・・可愛い。


「もしかしてエルディック様、パイはお嫌いですの?」

「・・・・・・いや」


 あまりに見当違いな問いに、私は顔が綻びそうになるのを何とか抑えた。

 最初から、ナディアとテミスの間に親愛以上のものを疑ってはいない。しかし、全く後ろめたさの感じられない問いは、きょとんとしたナディアの愛らしさとともに私の心を軽くした。

 こんなちょっと抜けているナディアが私は好きだ。


「でしたら、次の訪れの際はエルディック様の分を残しておきますわね」

「ありがとう」


 手を胸元で軽く合わせ、ニッコリと笑ったナディアの姿に、私も口元に笑みを乗せた。




「・・・テミス」

「はい?」


 私の声に、目の前でお茶の準備をしているテミスが不思議そうにこちらを見返した。その目の前にはクッキーやパウンドケーキなどの焼き菓子が盛られた器がある。


「お前、ナディアと毎日のようにお茶をしているらしいな」


 器の中からビターチョコのクッキーを摘みつつ言うと、テミスは少し困ったように笑った。


「丁寧なご招待を頂いているのに、お断りするのは申し訳ありませんから。他意はありません」

「別に疑っているわけではない」


 そう言いつつも、渋面になっていたのだろう。テミスは眉を顰めた。


「兄上がお嫌でしたら、お断りしますよ?」

「・・・・・・そうではない」


 ナディアと毎日のように会えるのは羨ましいが、テミスの方から会いに行っている訳ではないことはナディアから聞いているし、そこまで心は狭くない。

 この気持ちは別の理由だ。


「・・・今日は、ブルーベリータルトだそうだな」

「は・・・?」

「次はアプリコットパイなのだろう。ナディアが言っていた」

「えぇ、まあ・・・」


 テミスがどう答えていいのか分からないのか、当惑の色を顔にのせる。私は溜息をつき、目の前に出された紅茶に口をつけた。


「・・・ずるい」

「え・・・・・・」

「私にはいつもクッキーやマドレーヌなのに、ナディアにはパイやタルトなのか」


 クッキーを齧りながら、私はテミスを軽く睨んだ。

 ほろ苦さと甘さが程よく混ざり合ったクッキーは紅茶と良く合う。ナディアが絶賛するのも分かる。私もテミスの菓子は好きだからな。

 だが、私は今までテミスから軽い焼き菓子以外のものを出してもらったことが無い。

 10年以上一緒にいるというのに、だ。


「えぇと・・・兄上?」

「考えてみれば、父上もシェーラ様も誕生日ケーキをもらったと言っていたのに、私にはくれなかったな」

「・・・気にしてらしたのですか」


 そりゃあ気にもするだろう。家族全員もらってて、私にだけくれないのは酷い。眉間に皺を寄せ、睨みつけていると、溜息をこぼされた。


「兄上は皇太子でいらっしゃいましたし、贈るわけにもいかないでしょう。父上でさえ、身内ということで何とか許していただけましたのに」

「私とて身内だ」

「同腹ではないのですから、周囲が許しません」


 ・・・こういうところは、テミスは硬いのだ。別にこっそりくれてもいいではないか。


「・・・まあ、それは置いといて、だ。毎日来ているのだから、偶には夜の菓子にケーキやパイを出してくれてもいいではないか」

「夕方以降は焼けないので、どうしても作り置きのものになってしまいますから。それに、パイはともかく、ケーキのような生菓子は無理ですよ。傷んでしまいます」

「・・・・・・」


 私がテミスのケーキを食べたのは、ナディアと結ばれる前にナディアの部屋で食べたものが最初で最後だ。

 あの味が一回きりなのは惜しい。


「(ナディアが羨ましい)」


 招待する度に、私には食べさせてもらえない手の込んだ菓子を相伴しているなんてずるい。

 ・・・恥かしくて、流石にナディアには言えないがな。


「・・・多少味が落ちていても良いのでしたら、今度はパイを用意しておきます」


 よほど飢えた目をしているように見えたのか、テミスが溜息をついて私の意を汲むことを言ってくれる。

 テミスはいつもは結構厳しいのに、こういうときは甘い。嬉しいことだ。


「では、楽しみにしている」


 ナディアも茶会で出たパイを残しておいてくれると言っていたし、これでとりあえず2種類は食べれるな。

 甘いものは好きだから、楽しみだ。




 後日、同じ日にナディアとテミスからアプリコットパイを夜食として出され、私は凹んだ。

 ・・・・・・美味しかったけどな!

読んでくださり、ありがとうございます。

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