表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

逆行


「お嬢様……? ……失礼いたしますね」


小さなノックのあと、そっと扉が開いた。

顔を覗かせたのは侍女のサラ。

控えめにまとめられた淡い栗色の髪に、同じ色を映したような瞳。

その表情には、驚きと戸惑いが浮かんでいた。


「……あ……もう、お目覚めに……?」


サラは戸惑ったように目を瞬かせている。

(……どうしてそんな顔をしているのかしら)

不思議に思った瞬間、エリスはふと気づいた。


思い返せば、いつもの自分は布団にくるまり、起こされても不機嫌に言い返すばかりだった。

無理に起こそうとすれば甲高い声で叱りつけるのが常。


(わたくしが先に起きていたなんて、サラにとっては予想外だったのね)


納得すると同時に、サラの困惑が腑に落ちた。


「……お嬢様?」


怯えるように問いかけるその声音。

普段からビクビクしている侍女の態度は変わらないけれど――その顔立ちは、エリスの記憶よりもずっと幼く見えた。


(サラが……若い? よくわからないけれど、本当に時間が巻き戻ったのね…)

胸の奥に確信めいた感覚が広がっていく。


あの悪夢のような出来事があった日の頃。

エリスに常に従順に従い、すでに何かを諦めているような表情だった彼女。


「……サラ」


名を呼ばれただけで、サラはびくりと肩を揺らす。

その怯えように、エリスは思わず小さく息を吐いた。


(……これまで、わたくしはどれほど傲慢だったのかしら)

怯えさせて当然のように振る舞っていた自分を思い出し、胸の奥がじくりと痛む。

いつもビクビクしていたのは、この子が臆病だからではない。

わたくし自身が――そうさせていたのだ。


紅い瞳を伏せ、かすかに唇が震える。

「……ごめんなさいね」

エリスはそっと呟いた。


「えっ……?」


思わず漏れたサラの声に、エリスはすぐ顔を上げた。

先ほどまでの沈んだ空気を振り払うように、

にこりと微笑む。


「朝食に行く支度を手伝ってくださる?」


その柔らかな口調と微笑みに、サラは呆然と立ち尽くした。

しばらくの沈黙のあと。


「はっ……はい!」


弾むような声が部屋に響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ