表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

断罪

王城の大広間は、ざわめきに揺れていた。

煌めくシャンデリアの下、列をなす貴族たちの視線は冷たく、好奇の色さえ帯びている。


その中心に立たされるのは――エリス・フォン・リュミエール。


深い闇を思わせる髪は、無理に巻かれすぎたロールで形を崩し、

本来なら凛とした輝きを宿す瞳も、厚化粧に縁取られて陰りを帯びていた。

黒に近い濃色のドレスは、胸元や裾にフリルを過剰にあしらわれ、

華美さよりも“重苦しさ”を際立たせている。

それはまるで、彼女の本質を覆い隠す檻のようだった。


「エリス・フォン・リュミエール。

そなたの悪行の数々、もはや弁解の余地はない。

聖女を妬み、陥れようとする者を……婚約者として傍らに置くことはできぬ!」


第一王子セドリックの冷ややかな声が響きわたる。

陽光を思わせる金の髪、澄み渡る蒼の瞳。

誰もが憧れる“理想の王子”の姿のまま、彼は己の婚約者を断罪し、破棄を宣告した。


その瞬間、エリスの世界から音が消えた。

大理石の床が氷のように冷たく、足が吸い込まれるように沈んでいく。

喉は焼けつくほど乾き、声を出そうとしても息がつかえる。

頭の中は真っ白で、ただ胸を叩く心臓の音だけがやけに大きく響いていた。

(……婚約……破棄……? 殿下が……私に……?)

理解が追いつかない。

現実感は遠のき、視界さえも焦点を失ってぼやけていく。


「聖女様を妬み、陥れようとするとは!」

「なんと浅ましい……」

「リュミエール家も地に堕ちたものだ」


群衆の声は容赦なく降り注ぐ。

けれどエリスの耳には、もはや遠い水底のざわめきのようにしか届かなかった。

世界から一つずつ音が剥がれ落ち、残るのは己の呼吸と心音だけ――。


そんな中でも、人々の視線はセドリックの隣に立つ“聖女”へと注がれていた。


白金の髪に純白の衣。

震える肩を寄せ、潤んだ瞳を伏せるその姿は、か弱き少女そのもの。

涙に濡れた睫毛が零れ落ちそうに揺れるたび、

「なんとおいたわしい……」「聖女様を守らねば」

――会場の空気はさらに傾いていく。


(……殿下……なぜ……?)


ぼやける視界の中で、ふと目が合った。

その瞬間――。


フィオナの白金の瞳が、涙に濡れながら変じていく。

血に塗れたようなどす黒い赤。

慈悲深き“聖女”のはずの彼女が、周囲には見えぬ角度で――。


――にやり、と。


(……っ!?)


心臓が跳ね上がった。

けれど周囲は誰ひとり気づかず、

ただ“聖女”の涙に共感し、憐れみの視線を注ぎ続けていた。


――この地獄を見ているのは、自分だけ。


「連れて行け!」


騎士たちの手に両腕を掴まれ、引きずられる。

貴族たちの嘲りと哀れみの声はもう遠い。

エリスの視界に焼き付いたのは――“聖女”の微笑と、血に染まった瞳。


そして――。

闇が、彼女を呑み込んだ。





7日間で累計1000PV突破!!

皆様本当にありがとうございます!

少しでもお楽しみいただけましたら、ブクマ、感想、評価是非よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ