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神様のご褒美〜『悪役令嬢に転生したいです!』とお願いしたら叶えてもらえました〜

作者: 青木薫

目にとめていただき、どうもありがとうございます!短い、さらっと読める異世界転生ものです。どうぞよろしくお願いいたします。

 山崎美玖17歳は人に親切にしたいと考えながら生きていた。

 

 人生の座右の銘は『誠実』と『体力』だ。


 駅のコンコースに傘が落ちていれば拾って近くの手すりに掛けたし、バスでは席を譲った。もちろん立っている乗客がいない時は座っている。なぜなら立っている人がいると運転士さんが安全上気になることがあると聞いたから。


 友達の悪口は言わないし、他の人が始めるとそっと席を立った。


 友人たちは美玖は真面目すぎると思いながらも、一人でもこんな清廉な友人がいる自分を『あたしって実はすごくイイコなんじゃない?だってこんなに心がキレイな子が友達になりたいって思ってくれてるワケだし?』と心のどこかで誇りに感じていた。


 こんな美玖なのでいろんな人からいろんなことに誘われた。


 地域のボランティア、学校の文化祭の委員、親戚のお姉さんの家での子守。いつの間にか勉強はできるようになったし、世の中の事も覚えた。人脈も広がって、高校生にしたらびっくりするほどエライ人に街で声を掛けられるなんてこともあった。


 だけど、ある朝、起きてこない美玖を起こしに部屋に入った母親が見たのは既に息をしていない娘の姿だった。忙しすぎて体が耐えきれなかったのだろうということだったが、両親も兄妹も、友人も、先生も知り合いも涙を拭きつつ


「善人すぎて、この世の中では息苦しかったかもしれない」

「善いことをやり切ったのだろう」

「きっと悔いはないわ」

「美玖、天国で幸せにね」


といった言葉を口にした。


 『お別れの会』には一高校生とは思えないほどの弔問客が押し寄せた。



****



「お疲れ様じゃった、山崎美玖よ。お前の生前の善行を称え、第二の人生を歩むことを許そう」


 美玖は気がつくと真っ白い場所にいた。どちらが上か下かわからなくてキョロキョロし、ちょっと気持ちが悪くなったところに、長い杖をついた、白い長髪白いヒゲの老人が現れたので、ようやく上下がはっきりして胃が落ち着いた。


「ええと、こんにちは。そのお話からすると、私は死んでしまって、ここは所謂あの世かその手前。そして、あなたは神様ですか?」


 美玖の言葉に老人は『いかにも!』とカッと目を見開き、杖で見えない床をトンと突いた。


「お主は若いのに世のため人のために立派な行いをした。神様連合では全員一致で、お主に第二の人生を歩ませること、そして、何に生まれ変わるかの選択権を与えることを決めた。さあ、山崎美玖よ、次は何になりたいのじゃ?」


 美玖は『本当に神様なのかな?イメージ通りすぎるから、私の妄想かも。でも死んじゃったのは本当のような気もするし…』と思いながらも、もし本当に選べるのなら、と考えて結論を出した。


「あの、神様、本当に私が次の人生を選べるのなら」


「うむ、選べるのなら?」


「『悪役令嬢』になりたいです!」


「なんと?」


 神様だという老人はびっくり仰天したが、何度聞いても美玖の答えは同じだったので、とうとうその願いを叶えることにした。老人は本当に神様だったので。


「しかし…善の塊のようだったお主が『悪役令嬢』になりたいなど…本当は前世もあの生活が嫌で、何かを恨んでいるのか?いや、それならばわしら神様連合がこんな決断をするわけがないし…騙されていた?いや、そんなはずは…」


 くよくよ悩んでいるような神様が気の毒になって、美玖は正直に話した。


「私、前世を恨んだりしてません。けど、友達が読んでいた小説や漫画で『異世界転生』とか『悪役令嬢』とか『聖女』ものっていうのが流行っているのを聞いて、ちょっと読んでみたかったんです。結局忙しくて読めなかったから、残念で。だから、もし転生できるなら読むよりもそれになって体験してみたいなって。だってみんなすごく面白いって言ってたんです。そんな役、やってみたい!」


 そんなことを嬉しそうに話す美玖が何だか不憫で、神様は生まれ変わる前にいろいろなことを教えておくことにした。


「良いか、まず『悪役令嬢』は身分を笠に着て、他のものを圧迫する。『あれが欲しい、これが欲しい、それでは嫌だ』とな」


「ええっ?なんて我儘な!」


「そうじゃ、それに人のものを欲しがるのじゃが、その最たるものが『友人やヒロインの恋人や婚約者』での」


「酷い!そんなことをしたら友達やヒロインが困るじゃない!」


「そうじゃ、そしてそれは最後には大体うまくいかなくなり、『断罪』されるのじゃ!」


「断罪?」


「うむ、断罪じゃ。それまでの悪行を皆の前で明らかにされ、責任を取らされる。酷いときには罰として『処刑』されることもあるのじゃ!」


「しょ、処刑?ヒー怖い!!」


「だから、お主は『悪役令嬢』になっても『断罪』されないように気をつけねばならぬ!良いな?」


「は、はいっ!気をつけます!」


 『悪役令嬢』なのに悪事に手を染めてはいけないというのは矛盾しているが、美玖は設定そのものをよく理解していないので、『断罪』はされないようにするべきだというところだけは強くインプットされた。


 その後も細々と神様の注意を受けて、晴れて美玖は『トゥルーランドのアクロイド公爵家の長女セリーナ』として、黒髪はそのままだが、紅い大きな瞳の美しい子どもに転生した。美玖は読んだことがないので知らないが、まあまあ有名な『ざまぁ』もの?で、深夜にアニメ化もされていたらしい。


 美玖が気がついた時には5歳のセリーナとしての転生だったので、まだ断罪されるようなことはしておらずホッとしたが、これからが人生の本番で油断してはならない、とセリーナである美玖は我儘を言わないよう、勝手をしないよう気をつけながら暮らした。


 高位貴族の令嬢のため、誘惑は多く、気を抜くとすぐに、おやつやお出かけ、家の者によるチヤホヤが襲いかかってきたが、果敢に立ち向かって怠惰にならないように気をつけた。


 10歳の時に家に引き取られた8歳の義弟のノエルの可愛らしさには悶絶した。ノエルは自分の出自のこともあり、血の繋がりのない黒髪に紅い瞳のセリーナを怖がっていたので、断罪されないように笑顔でおやつをあげたり勉強を教えたり、一緒に遊んだりした。


 12歳で学校に入って、3年後に高等部に平民のマリアが特待生として編入して来た時は、そのピンク色の髪を見て


『こ、これが神様の言っていたヒロイン!しょ、処刑されるっ…』


と慄いた。そしてとにかく恨まれないように親切にした。


 何でもないところで転びセリーナのせいにすることが多いヒロインに自前でこっそり護衛をつけて守らせたりもした。実は周りにはバレていたらしいことが後からわかったが。


 時々、やたらとカッコいい人たちとヒロインが自分の周りで行ったり来たりしたが、邪魔にならないように気をつけた。神様が


「『ヒロイン』には親切に、でもそこまで深く関わらないことが肝心じゃ。邪魔などしてはいかんのじゃ」


と言っていたからだ。


 また、神様の言いつけを守って、お金持ちの悪役令嬢たる自分は散財すべきと、たくさんお金を使った。高笑いしながらお金を使うことは悪役令嬢の大切な役目だと言われたのだから。でも裏庭で高笑いの練習をしていると、遠くの鶏舎の鶏が鳴くのは困りものだった。


 そうしているうちにヒロインは、『本命』とやらのニコラス王子と良い仲になった。幸せそうで何よりだと思った。


 その他の、勉強したり、奉仕活動をしたり、友人を助けたりすることは特に問題ないと言われていたので、前世と同じようにしていた。


 ある時は


「セリーナ様、先日は我が孤児院へのご寄付をどうもありがとうございました」


「おーほっほっ、寄付で受け取った布に刺繍をして売るといいわ!刺繍の練習は決してさぼらず真剣にしなくてはダメよ!甘い考えでは売れるものは作れないし、買ってくれた人に失礼よ!」


 またある時は


「勉強することが自立への第一歩よ!身分や性別が違っても、人の中身は皆同じ。よく学び努力することが自分を助け、自由を得るための力となるの。よくって?しっかり学びなさい!」


「身体を動かすことが好きならとことんやりなさい!中途半端な努力ではダメよ?自分を追い込み、限界を突破しなさい!筋◯は裏切らない!」


 と悪役令嬢らしさは発しながらも、自ら子どもたちに勉強を教え、また週に数回教師を派遣した。しかも一つの孤児院だけではなく、いくつにも、だ。


 そんなセリーナでも、誘惑に負けて、時々たくさんおやつを食べてしまったり、どうしても欲しい本を買ってしまったりした時があった。前世よりも魔力・体力、そして時間もあったからだ。


 でもそういう時は深く反省して、罪滅ぼしのつもりで弟を何時にも増して可愛がった。『こんなの罪滅ぼしにはならないってわかってるけど…でもノエルは可愛いし、反省とは別に可愛がってもいいわよね』と一緒にピアノを弾いたり、勉強を見てあげたりした。


 この頃にはノエルは姉のセリーナに良く懐き、どこへ行くにもついてくるようになっていた。年頃だというのに、


「お姉様を守れるように、僕は頑張ります!」


 と張り切っているノエルは愛らしく、つい


「嬉しいわ!私もノエルに負けないように頑張るわね」


 と自分までますます張り切った。



 そんな風に熱心に勉強をしているうちに魔法が上達し、神様が『心配だからチート能力つけておくのじゃ』と言ってくれた『治癒』の力が使えるようになったので、なるべく困っている人にかけて助けた。


 どうせ寝ればまた力は溜まるからと、どんどん使っているうちに魔力も上がった。『前世もこうだったら体力もついて、疲れて死んじゃったりしなかったのかもしれないな』と思うとちょっと残念だった。座右の銘の『体力』は叶わなかったのだ。


 こうして、断罪されないままようやく学園も卒業し、前世の美玖の年齢を越えたセリーナは、自分は立派に『悪役令嬢』として学校生活を満喫したのだと達成感を覚えた。まあこの時すでに周りはただの公爵令嬢だと思っていたわけだが。


 さて、セリーナが、家のことは立派に育っているノエルに任せて、自分は何かしようと考えていた時だった。


 隣国で悪い病気が流行し始めたかと思うと、一気に広がり、とうとうトゥルーランドにも患者が出始めた。噂では隣国では魔物の姿も見られるようになっているとのことだった。


 セリーナはこれはいけないと治癒の力を惜しみなく使い、人々を癒やし、元気にした。毎日毎日倒れるほど頑張って、魔力はますます増えていった。


 必死なセリーナの様子を見て人々は『公爵家の御令嬢でさえこんなにも必死なのだ。しかも自分たちのような身分の者も平等に命を救おうとしてくれている』と感激し、悲嘆している場合ではない、と奮起した。


 ありがたいことに一度罹ったものは免疫がついて二度は罹らないか、罹っても軽症だったため、徐々に混乱していた国は平常に戻っていった。


 人々が落ち着きを取り戻し、元気になった頃には、人々の間には、身分の差を越えて同じ国に生きるものとして力を合わせていこうという気運が高まった。


 そして、人々が国づくりに尽力している間に魔法使いたちは、王室お抱えとか市井とか学園とか関係なくとにかく協力して研究を進め、今回の病気と魔物の発生の原因は復活した『魔王』と彼が発する瘴気であることを突き止めた。


 それを知った軍隊と騎士団はこれまた力を合わせて魔王の討伐に向かった。いつの間にか所属を越えて国のため民のために頑張ろうという協力体制が取られるようになっていた。


「観念するがいい魔王よ!我らはトゥルーランドの民、お前を倒してこの世界に安寧と平和を取り戻す!」


「グワァ…私とて好きで魔王となったわけではない…気が付いたらこのような存在だったのだ…あああ…」


 勇敢に戦った民と断末魔の叫びをあげて消えた魔王の戦いは、戦った者たちの証言から演劇や物語となって国中で流行した。そこにはいつしか献身的に治癒の力を使い、率先して働くセリーナが『聖女』として描かれるようになっていった。


 セリーナは


「『悪役令嬢』のはずなのに、あまり嫌われていないような気がするわね?」


 と不思議に思いながらも、それでも自分のできることを全力でしよう、わくわくする人生を楽しもう、と自由にのびのびと生きた。


 数十年後、セリーナは然るべき時に良き伴侶と結ばれ、子どもたちに囲まれながら幸せな人生を送り、そして、彼女を愛する人々に見守られながらこの世を去った。



****


 今回は天寿を全うしたはずのセリーナが気が付くと、そこは何時ぞやの真っ白な空間だった。どちらが上か下かわからなくてキョロキョロし、ちょっと気持ちが悪くなったところに、またもや長い杖をついた、白い長髪白いヒゲの老人が現れた


「お疲れ様じゃった、セリーナ・アクロイドよ。お前の生前の善行を称え、第三の人生を歩むことを許そう」


 懐かしいことを言ってくれる神様にセリーナは言った。


「神様!お久しぶりでございます。楽しい人生を与えてくださりどうもありがとうございました。第三の人生とおっしゃいますが、今回は私もそれなりに長く生き、そこまで清廉潔白ではございませんでしたよ?長生きもできて幸せでしたし。ですから、そのようなお気遣いはなさらないでください」


 しかし神様は続けた。


「あれくらい、他の転生した者たちのハッチャケぶりに比べれば微々たるものじゃ。神様連合はまたお主に次の人生をプレゼントしたいと思っておるのじゃ!どうか断らんでくれ!!」


 白い髪とヒゲを揺らしながら必死に話す神様の様子に、セリーナはうう〜んと唸ってしまった。そして、ハッとした顔をした。


「おお、思いついたようじゃの?」


「はい!神様、私、今度は『魔王』になりたいです!」


「なんと?」


 神様はまたもびっくり仰天したが、セリーナが


「魔王は討伐される時に『私とて好きで魔王となったわけではない、気が付いたらこのような存在だったのだ』と言ったと伝えられていました。私、急に魔王と呼ばれる存在になったそのモノはどんな気持ちでいたのかとずっと考えていたのです。それなら、自分で魔王になってみればよくわかるかなと」


「うう〜む…」


 今回も神様の想像を超えてきたセリーナの返事に神様も困ってしまったが、なんてことのないように話す彼女の姿に、とうとう仕方がないなぁという微笑みを浮かべ、


「よし、ではセリーナ、お前を『魔王』に転生させよう。しかし、何の準備もせずに転生するのは前回同様危険じゃ。今から説明することをよく聞くのじゃぞ!」


「はい!」


 こうして神様の長いレクチャーの後、セリーナは『魔王』に転生するのだった。神様は、彼女を見送りつつ、


「全く、いつの間にか『悪役令嬢』ものから『聖女』ものにしてしまった人物だけのことはある。次も『魔王』から何か別のものになってしまうかもしれんのう」


 とひとりごちた。そして『神様連合の仲間たちとまた彼女の人生を見守ろう』とその場から姿を消したのだった。

お読みくださりどうもありがとうございました。あまりにバタバタしている時に楽しい気持ちになりたくて書いたものです。いかがでしたでしょうか。

ところで神様、面倒見の良いおじいちゃんポジでしたが、我ながら『神様連合』ってなんだろう…と思いました。

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