(旅の始まり編)夜の雑談
その日の晩、俺たちは適当な場所で野宿をしていた。
薪の火がゆらゆら揺れながら自分たちを照らす。
セシルは、どこから出したのか、食料セットだよ、とか騒いで干し肉を焼いていた。
肉の焼ける香りに食欲をそそられる。
「ほ~い、肉焼けたよっと」
「おっ、ありがとう、ってブラッドの分をなにナチュラルにスルーして焼いてないんだよ」
「え~、僕には魔王さんの分の料理は準備して上げられないよ、用意してあげたいなら、セイヤくんが服の襟元を肌蹴させて、無防備な首筋を魔王さんの前にさらせば良いじゃん」
「ふざけるな」
ペシッとセシルの後頭部を叩く、セシルのサラサラの髪は手触りが良いじゃなくて、こいつはこういうふざけた所を直すべきだと毎回思う。
コイツはどういう食事をブラッドにさせるつもりなんだ。一部のお姉さまを喜ばせる趣味は無いぞ。
セシルは、心外だとばかりに講義の声を上げる。
「僕ふざけてなんていないよっ!! ねぇ、魔王さん僕ふざけてないよね!?」
「まぁ、事実だろうが、俺は一応普通の食事も食べれるぞ?」
「何、言ってるんだ?」
まさか、ブラッドにはそんな趣味があると言うのだろうか、若干引いているとセシルがふざけるなと言われたのが余程癇に障ったのかイライラを隠さずにでもきちんと説明してくれた。
「魔王さんは吸血族なの、血を飲む種族なの!! 妖精族の血は飲めないの!! そして、僕は妖精族なの!!!」
「まぁ、そういう事だ」
ブラッドがそう言った後もセシルはブツブツとふざけていないとか確かに魔王さんが普通の食事も出来るのは知らなかったしとかそういう系統のことをエンドレスに言い続けている。
ふざけてばかりのセシルだが、だからって理由も確認せずに叩いたりしたのは、理不尽かもしれない。
「悪かった、セシル」
「本当に思ってる?」
ムッとした表情をしながらもちゃんとこちらを向いてくれた。
「本当に思ってるから……なっ?」
「ふむ、なら許してあげよう、まぁ、そこまで気にしても無かったし、ある程度経ったらこちらから話しかけようと思ってたし~」
「あはは~そうか」
なら自分が謝ったのは意味があったのかと疑問に思ったがまぁ、良しとしよう。
ニコニコモードに戻ったセシルは、もぐもぐと干し肉を食べ始める。
自分も最初はそうして食べていたのだが、ボーっと薪の火を見ているブラッドを見てなんだか悪い気分になってくる。
「えっと、食うか?」
「必要ない、必要になれば自分から言う」
「て言われてもなぁ」
食っていない奴の前で、堂々と食べるのは気がひける。
食べるのを躊躇っているとブラッドが話掛けてきた。
「食べないのか?」
「いや、なにも食べてない奴の前で食うのはな~何ていうか……俺の飲むか?」
「うわっ、最後だけ聞くとエロイかも」
「お前は、黙ってろ」
今回は、明らかにふざけていたので思いっきりセシルの後頭部を叩いた。
叩かれたセシルは、涙ぐんでいる。そんなに強かったのか。
「別に必要ないといってるが」
ブラッドは、頭をさすっているセシルを眺めていたがこちらに視線を戻すとそう返した。
「でも、なんか食べづらいんだよ。飲んでくれないか?」
「やっぱ、最後だけ、えr」
懲りずにまた言おうとしたので最後まで言う前に叩く。
叩かれたセシルは、なんか僕の扱いが急激に酷くなってる気がすると言いながら再び頭をさする。
そんな、セシルは放っておきブラッドへと向き直った。
「えっと、それでだめか?」
「別に断る理由は無いが……」
「なら、思う存分、飲んでくれ」
セシルが何かを言いたいようにこちらを見たが流石にこれ以上は炊かれるの嫌だったらしく、おとなしく食事をしていた。
要領がよく分からないのだが、とりあえず襟元を肌蹴させて首筋を露出させる。
「えっと、これで吸えるか?」
「あぁ、言っておくが途中でやめろといわれてもやめないかもしれないぞ」
「おぉ、どんと来い」
いよいよ見た目までエロくなってきたよ~っという、ひそひそ声が聞こえたような気がするが取り合えずスルーしよう。
ブラッドがならと小さく呟いて、顔を寄せ首筋に顔を埋めた。
痛いのかと思っていたがそんな事は特に無く少しチクッとしただけだった。
ちょっとの間そうしていると直ぐにブラッドが離れた。
「どうかしたか?」
ブラッドを見ていたら視線に気づいたらしくこちらを向いた。
「いや、ブラッドってなんか良い匂いがするな~って思っただけ」
変に思われるかもしれないがブラッドに血を吸われている間、ずっと良い香りがしていた。
ブラッドが離れた瞬間消えたのでおそらくブラッドの香りだろう。
「獲物を寄せ付けるための者だ、同属ならばみんなこんな匂いがする」
「ふ~ん、そうなんだ」
所謂、ブラッドの種族の特殊スキルのようなものかと納得した。
そこで、ふと疑問に思う、他の種族にもそんな物があるのかと。例えば、セシルは自分が妖精族だと言っていたが同じような物があるのだろうか?
疑問を口にすると即座にセシルが対応した会話に交じりたくてうずうずしていたのだろうと思う。
「えっとね、妖精族は基本的にみんな自然に関する特殊な力を持ってるよ。まぁ、役に立たないようなのも多いけど……」
「例えば、どんなの?」
「うんと、じゃあちょっと見ててね」
セシルがポケットから種のような物を出すと地面に植えた。
そして、手をかざすと芽が出てきて蕾がつき、花が咲いた。花の成長のビデオを早送りにしたような感じだ。
そして、素直な感想を述べる。
「なんか、可愛らしい能力だな」
「あんまり、破壊的なのもあれでしょ? ちなみに草木と会話も出来ちゃったりします」
「……召喚術や強化魔術についてはかなり強力な割りに妖精としての能力は弱いんだな」
「人が気にしてることをよくも平気で……」
ブラッドが言った言葉にふんだとセシルがそっぽを向く。
「セシルのこれって弱いの?」
素直に疑問に思ったことを口にする。
「そうだな、能力が強力なら……例えば魔術とか関係なしに冷気を自在に操ったり、荒地を一瞬で生命溢れる緑で埋め尽くしたりな」
「それは、凄いな……」
それは、冗談抜きで凄いだろう。魔術を使うのと使わないのでどう違うかは分からないが凄いと思う。
一方、能力が弱いと言われたセシルはいじけている。
「それと、俺の種族についてもう少し詳しく言うと血を飲むことで身体能力が飛躍的に上がる」
「へ~」
「ちなみにお前のような人間は一人ずつバラバラで特殊な力を必ず持っているらしいぞ。血筋に強く影響されるらしいが」
「あっ、そうなんだ」
てっきり、人間は特に何もないかと思っていたので驚きだ。
「あぁ、それと――」
「種族の話はもう良いよ!!!」
ブラッドが口を開こうとするとセシルが大声で遮った。
自分の能力は弱いといわれ、他の種族の能力とか聞くのが嫌になったのだろうか。
「そんなことよりさ、目的地を決めよっ」
「お前たちどこに行くかも決めていなかったのか?」
「いや、俺はてっきりセシルが決めてくれてると思ってたんだが」
いや、普通はそうだろこっちに詳しいんだし、そもそも俺が決められるわけが無い。だってこちらの事を殆ど知らないのだから。
「で、どこいく?」
「っていわれてもな」
普通に困るだろ、そもそも、なにがあるか分からない。
「それなら、とりあえずフィーリアへ行けばどうだ?」
「そっか、フィーリアか、一番近いしね~、セイヤくんも良い?」
「良いも何も、どういうところか知らないし、別に良いよ」
という事で俺たちの目的地はフィーリアに決定した。
一体どういうところなのだろう?
ちょっと、種族の話が出せて良かったです。
フィーリアでは、ちょっと問題に巻き込まれてもらおうと思います。