(世界の色々編)騎士・聖職者堕ちる
「肝心の呼び出した相手が見当たらないんだけど」
「すぐに現れると思うわよ」
「そういうものか?」
「そういうものよ」
ミカルが首を捻る様子に内心歓声を上げていると空気が揺れるのを感じた。
間もなくして、かつ、かつと地を靴で踏みつける音が聞こえてくる。
ミカルのショタ振りを堪能するのを中止してそちらに視線を動かす。
「あなたが私たちをこんな素敵な遺跡に招待してくださったのかしら」
「そうだよ。気に入ってもらえた?」
「珍しいものは見せてもらえたかしら」
男の人ね、それも成人男性。
背丈は高いほうね、ミカルはともかく私やセシルより頭二つ分くらい大きいんじゃないかしら。
暗がりでよく見えないけれど、顔もかなり整っているわね。
もう少し早く私を呼んでくれたら良かったのに、ショタ姿を拝めなくて残念。
――そんな個人的趣味はともかく、人間味のない人間ね。
笑っているし言葉もどことなく軽めだけど、中身がないように感じる。
こういうタイプは慣れないわね、私の周りの人間は私を含めかなり個性的だと自負しているけれど。みんな飛びぬけて人間らしいのよね。
「お前何のつもりだよ、戦争起こしたくなかったら来いとか何とか書いてあったみたいだけど。お前が全部仕組んでんのか!?」
「そう言えばそうだし、そうじゃないといえばそうじゃない」
「意味分かんねぇこと言うな!」
「まぁ、落ち着きなさいなミカル」
小動物のように噛み付くミカルを愛しく思いながら自分の後ろへと下がらせる。
ミカルに言えば怒られるでしょうけど、見た目どおり中身も子供っぽいところがあるから口喧嘩になって話が進まないもの。
「何のつもりであんな物を寄越したの?」
「育てるのと壊すのとどっちが楽しいと思う」
「人の話を聞かない人ね」
ふっと一息ついてから言葉を続ける。
「そうね、私は育てるほうが楽しいと思うわ」
「そうなんだ」
男がさして興味もなさそうにそう返事をした。
そんな、反応をするのなら質問しなくても良いのに、あんまり、素っ気無いと私も気分が沈むわね。
「ラウル」
「……それが?」
「これの名前」
これってなに?
俺を噛んだのかしら? ――それなら、可愛いところもあるのだと思えるけど。
「私はレティシアよ。こっちはミカル」
それにしてもこの人は脈絡がないわね、さっきから脱線してばかりで会話が続かないわ。
わざわざ、ミカルを後ろに下がらせた努力が無意味になってるじゃない。
今からでも会話に参加させて、噛み付いている様子でも見て幸せな気分にでも浸ろうかしら。
先ほどから会話を進ませようとしない張本人を見ると――遺跡の天井が割れでもしたのだろう。唯一光が差している場所で光の入り口を見上げていた。
日向ぼっこでもしていると考えていいのかしら? だとしたら随分とマイペースな人間ねラウルさんは。
「自分は、破壊のほうが良いな。全てを破壊して終わらせれば悲しみも憎しみもない」
「でも、喜びも幸せ何もいわよ?」
「何も無いほうが一番平和で安全だよ……」
上を見上げていたラウルがこちらに目を向けた、睨むようでもなくただこちらを向いた。
意思も感情もなにも感じられない瞳。
「無駄話が多いかったかな。目的教えてあげるよ」
その言葉を聞いた瞬間にラウルの周囲に変化が起きる、目に見えるわけではないけれど――これは。
視界が白く染まる。音は何もなかった、気がついたときには光に飲み込まれたそんな感じだ。
「とりあえず眠ってもらいたかったんだけど……一撃じゃだめか」
「今までで、一番脈絡がない行動ね」
ふっとため息をつくと勢いよくミカルが飛び出した。
「仕掛けるからサポートお願い」
背負っていた剣を振り抜きミカルが勢いよく叩きつける。
同じくこちらも一撃で仕留めることはできず簡単にかわされる。
続けて、振り下ろした時の勢いを利用して縦に回転をして再び剣を振り下ろす。
今度は何か見えない壁のようなものに受け止められる。
うーん、そろそろ手伝わなかったらミカルの機嫌を損ねちゃいそうね。
手にしていた杖を握り高く掲げ、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「神聖なる光よ。彼の者を封じる鎖となれ」
言葉を唱え終えると待っていたようにミカルが身を引く。
直後に光がラウルの周囲に溢れ形を成した光の鎖が絡みつく。
あら? あっさり捕まっちゃった。おかしいわね……あっさり避けられると思ったんだけど。
「光の鎖ね……」
くすっと空気が震える音がラウルの口からこぼれる。
もしかして、笑ってるのかしら?
「属性をもう少し考えたほうがいいよ? それと時間無いから覚悟して」
「負け惜しみかよっ!」
口の端を吊り上げてそういうミカルが怒鳴ると同時に鎖がちぎれ光が散った。
くっ、やっぱりそう簡単にはいかないわよね。
急いで周りを見回すがどこにも姿が見当たらない。一体どこに隠れちゃったのかしら。
「ぐっ……」
「ミカル!?」
ミカルがうめき声を上げて不自然な方向へ飛んでそのまま動かなくなる。
気絶しちゃったみたいね、僅かに胸が動いてるし。止めを刺されないようにミカルの周囲に結界を張る。
それにしても、姿が見えないのに攻撃だけはしてくるなんて。魔力の流れを読んで居場所つかもうとしても、流れが複雑すぎて読めない、その上一撃まともに食らうとミカルですら気絶しちゃうみたいだし、どうしろって言うのかしら?
心の中で盛大に弱音を吐いていると周囲に張った結界に重い衝撃を感じた。
弱音を吐いてるのがばれちゃったのかしら?
まあ、弱音は吐いても負ける気は無いということを教えてあげるとしましょうか。
「聖なる守護の力よ、我を護り仇名す者達に捌きを!」
見た目に変化が現れる事は無いけれど、周囲が守護の力に収まるのを感じた。
すぐに守護の力に反応が起こる。
姿は見えないが何かを追うように閃光放たれた。
なるほど、隠れたのではなくて姿を消したのね。
原理が分かれば反撃もできるかしら。
「神聖なる槍よ、不可視なるもの――」
刹那、結界が崩れる音が響いた。詠唱を中断して杖を構える。
どういうことかしら、守護の力はまだ発動しているはずなのに。
今度は杖が金属音を響かせて宙を舞った。
それを見ながらやけに冷静に考える。
相手が見えないのだもの構えたところで意味が意味が無いに決まってるわよね……。
何も無いはずの場所から囁くような声が聞こえた。
「おやすみ……」
鳩尾に強い衝撃を感じて、意識が遮断された。
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「へ~、意外と強いのね。ちゃんと二人ともオネムになってるわぁ」
絡みつくような声を響かせて背後に何者かの気配が現れる。
後ろ振り返らずに命令をする。
「目覚めた時に最初に見た相手が自分を襲った相手だと思い込むようにしておいて」
「えぇ、分かったわぁ」
了解の言葉を聞き、遺跡の奥へと向かう。
「ちょっと、待ってよぉ」
「どうかした?」
「ねぇ、貴方何をするつもりなの?」
「……聞く必要があるのかい? セレステ」
「いいえ、無いわね。いってらっしゃぁい」
今度こそ遺跡の奥へと足を進ませた。
さぁさぁ、超展開の嵐ですよぉぉぉぉ!!!
どうかついてきてくださいね。
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