(旅の始まり編)国の陰謀、セシルの欲望
天馬――名はフリィと言うらしい――の速度は結構早いらしく、十分もかからずに王都を肉眼で確認できるところまで移動した。
「セ……くん……まりょ……良い」
「えっ? なんて言った?」
セシルが何か話しかけてきたが風をきる音で良く聞こえない。
その後も何回か話しかけてきたがやっぱりよく聞こえない、そのことをじれったく思ったのかセシルがフリィの動きを止め振り返った。
「セイヤくん、その魔力隠しておいたほうが良いよ」
「魔力? 隠すってどうやって?」
魔力って言うのは何となく分かるが隠すというのはどういう事だろう?
素直に疑問を口に出すとセシルは驚いたように数秒俺の顔を凝視する。
「異世界から来たのなら、知らないのが普通なのかな? まぁ、良いや説明、面倒くさいし僕がしてあげるよ」
そう言って、セシルが俺の額に触れると周りのざわめいたものが落ち着いたような気がした。
気がしただけというのも十分にありえるけれど。
「まぁ、これで大丈夫でしょ。……一気に城まで行くからそのつもりでね」
「オッケー、了解」
セシルはそれにニコッと笑って頷く、男にこんな事を言うのもあれだが普通に可愛く見える。
世界には男にも可愛いという形容詞が似合う奴もいるんだと感心した……まぁ、異世界だが。
そのあと、ゆっくりと前を向きなおしたセシルがフリィの背を撫でると再び景色が流れていった。緑、赤や茶色など色々な色が模様のように見える。
特にやることも無いので、それを見続けていると途中から、灰色ばかりになったかと思うと流れが止まりふわっとエレベーターが止まるときのような感触がした。
「着いたよ」
「わかった」
セシルがストンと降りたのをおって自分もフリィから降りた。
さっと辺りを見てみると兵士がちらほらと立っていた、そのうちの一人がセシルへと駆けて来る。
「討伐ご苦労様です、将軍殿」
「う~ん、僕は働かなかったんだけどね」
ちなみに俺が働きましたとセシルの言葉の後に続ける。
もちろん心の中でだ。実際に言う勇気なんてあるわけが無い……どうせチキン野郎さ。
つうか、セシルって将軍様かよ、ギャップありすぎだろ。
失礼だが威厳とかあんまり感じられないし強いようにも見えない。
まぁ、マンガでは美少女が最強だったりするし特に問題は無いと思う。
当然俺の考えなんて伝わるはずも無く会話は続く。
「どういう、事でしょうか?」
「ううん、何でも無い。少し頼みがあるんだけど良い?」
「勿論です」
「後で王様に伝えたい事があるから、そう伝えてもらえる?」
「了解」
兵士は、セシルに敬礼すると駆け足でどこかへと行った。
「で、だ」
「なに?」
セシルがくるりと俺を振り返る。
「とりあえず、ついて来て」
「って、おい転ぶって」
セシルがさっと、俺の腕を掴むとこちらの意見を無視して、ダッシュで引っ張られる。
階段を、上ったり降りたり。廊下を、右行ったり左に行ったり。ここは迷路か! と突っ込みたくなるほどぐるぐる歩き回され、やっと止まった頃には目が回って世界が傾いて見えた。
「ここが僕の自室の前……どうしたのセイヤくん?」
お前のせいだろっ!! と突っ込みたかったが目の前の疑問そうに小首を傾げるセシルにはとても言えそうに無かった。
異常にかわいく見える小動物を想像してみて欲しい、そんなものが可愛らしい仕草をしているのだ、怒れるか?
無論、無理だ、これはもう相手が男だとか言う問題じゃない、可愛いものを俺には怒鳴れない。
「いやっ、大丈夫だ」
「そう? まぁ、良いやとりあえず中に入ろう」
セシルが扉を開けて入ったので続いて自分も入ろうとした瞬間一瞬からだが一時停止した。
「ちょっ、広すぎね? 自室だよな」
いや、人一人が生活するのには十分すぎるだろう、下手すると高級マンションの一番良い部屋よりも広いのではないか。
俺が、驚きの言葉を漏らすとセシルが何言ってるのと言う調子で返す。
「将軍が城の一室に住んでるって言うのも結構遠慮してるほうだよ? ホントなら城下にでっかい豪邸建てて貰っても良いぐらいなんだから。まぁ、面倒だし、メイドとか執事に面倒見られるのも嫌だったから拒否ったけど」
「でも、すごいな」
「そう? まぁ、一応将軍だし?」
「なんだよ、それ」
そう言って顔を見合わせるとどちらからとも無くクスクスと笑いあう
しばらく、笑い合うとセシルがそう言えばと口を開く。
「これから、僕ね、王様に会いに行かなきゃいけないの、しばらくの間ここで待っててくれる?」
「分かった、待ってるよ」
「うん」
軽く手を振るとセシルも振り返してくれた。
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自分は、王に会いに行く道中セイヤのことを考えていた。
思ったよりも良い収穫だったと思う。
見た目なかなか良いし――別にそんな趣味がある訳じゃないけど見た目は良いほうが良いでしょ?――服装も変わっていて興味が引かれた。
それに、あの膨大な魔力あれには流石の自分も驚いた、異世界から来たとも言うし一緒に居ると退屈しなさそうだ。
「性格も良いしね」
さっぱりとしている、ああいう態度もかなりの高感度アップだ。
そんな彼を自分としては、そういう彼を国に秘密にしておきたかったのだがそういうわけにも行かないだろう。
偵察兵が彼をもう見てしまっている。おそらく自分に報告する前に誰かに喋っているだろうと予測した。
それなら、こちらから報告をしたほうが良い、こちらの都合が良いように話を進めるためにも。
そこまで考えると頭を切り替えた。目的の部屋の扉が見えたからだ。
「セシル・クラフトです、よろしいでしょうか」
よろしいでしょうかというのは勿論入っても良いかという意味だ。
「……入れ」
しばらく間をあけてから返事が返ってくる。毎回思うのだが無駄に間を空けずにさっさと返事をすれば良いと思う。時間の無駄だ。
「失礼します……」
一応そう声をかけてから中へと入った。
居ない事を期待していたのだが、期待もむなしく王のほかに元老院の腐った連中どもが沢山居た。
気にしていても仕方が無いのでさっさと報告する事にする。
「王、報告したい事がありまして、実は「クイーンパラサイトを倒した青年が現われたのだろう? それも無傷で」
自分が言おうとしたことを遮って元老院の一人が続きを奪う。
それに内心歯軋りして、上唇と下唇を縫い付けてやろうかと悪態をついた。
もちろん、そんな事は表面にはけっして出さない。
あくまで人当たりの良い笑顔で。
「えぇ、その通りです」
「それで、それがどうした?」
お前と話したいんじゃないの王と話したいんだけどっ!!
そんな、うざったい元老院には、今夜、僕のお気に入りの精霊、悪夢を送ってあげよう。
この子の良いところは、死なない程度に相手に最高の恐怖を与えてくれる。それに相手にも気づかれにくい。
そんな想像をしながら、今すぐ目の前の、剥げ爺を切り裂きたい、という危ない衝動を抑える。
「その方を今こちらで預かっています。どの様にすれば宜しいでしょうか、王」
さり気なく王を強調して言う、また元老院が話しに参加してもらっても困るからだ。
「そうか、それは丁度良かった。われも早く会いたいと思うておったのだ。勇者かも知れぬと言う話もあることじゃし、謁見の準備を直ぐにでも整えようそなたからもその者に伝えてくれるか?」
「そうですか……了解しました。では、私はこれで失礼しますが宜しいですか?」
「あぁ、構わぬ」
王がそう言ってくれたことに感謝してさっさとその場を離れさせてもらった。
扉を開いて早足で移動する。
十分離れた事を確認すると、溜息混じりに呟いた。
「あの人達、セイヤくんを欲しがっているな……でも渡さない」
今のところ、好感度マックスの彼を国の犬にするつもりは無い。
彼には、注意を呼びかけていたほうが良いだろう。
なんだか、ぐちゃぐちゃですね。
セシル君は基本的に自分一番です。
さて、次は王との謁見さてどうなるのでしょう?