(ヘルメイア編)ホラーは嫌だ
「もう無理……」
「そんな謙遜しなくても良いのだぞ? 本当はまだまだどんとこいだろう?」
徹夜で剣術について徹底的に指導されボロボロになった俺に向かって剣(名前は未定)が笑顔でそんなことを言ってきた。
体がブルッと震えてきて鳥肌が立つ。
「どう見たらドンとこいに見えんの!? 死ぬよ? これ以上やったら俺死ぬからね!!」
「なるほど、そんなにしたいか。しかし、夜も明けてきたしな、このままでは私の姿が他のものに見られるだろうしな」
これって、もしかするとあれか? もう修行終了的な?
「よし、修行の方法を変えるか」
「…………」
「どうした、泣くほどうれしいか? そうかそうか」
剣が笑顔で俺の肩を叩く。
別に俺、期待していなかったからな……
やっと修行終わるバンザーイ、とか思ってなかったからな……
「それで、今度の修行だが……」
「もう、どんなもんでもドンと来い!!」
俺の言葉に笑顔で剣が頷き、パチッと指を鳴らした。
魔力が机に向かって流れ始め一つの形を作っていく。
「これって? ボードゲーム?」
「まぁ、そんな物だ」
「で、これでどうするの?」
「修行だが?」
「修行だがって……」
ボードゲームで修行ってどういう修行?
頭をひねっていると腕をつかまれた。
そちらを向くと相変わらず笑顔の剣がいるわけで。
「まぁ、修行の内容はすぐ分かるとりあえずゲームの世界へ、レッツラゴーだ」
「意味分からないし――って、ちょ!!」
剣が俺の腕をグイグイ引っ張っていき、ボードゲームに触れた瞬間、世界が白く染まった。
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「おっはよ~、セイヤくん。目覚めはいい気分――?」
「どうしたのセシル?」
「セイヤくんが居ない」
部屋の中に入って色んな所を探してみるけどやっぱり居ない。
どこに行っちゃったんだろう、セイヤくん?
「確かに居ないね、セイヤ」
「どこに行っちゃったのかな?」
「さぁ、城下に出て買い物してるとか?」
「う~ん、分かんないな~」
部屋に合ったベッドに飛び込んでゴロンゴロン転がる。
魔王さんはどこかに用事があるって行ってたから、リオくん起こしてセイヤくんで暇つぶしをしようと思ってたのに、肝心のセイヤくんが居ないなんて……ついてないな~。
「セシル、これで暇つぶししない?」
「これって、どれ~?」
暇つぶしできるならとベッドから身を起こす。
「これで暇つぶししないって言ってるんだけど」
「ボードゲーム?」
「みたいだよ」
近くまで行ってみると確かに机の上にあったそれはボードゲームのようだった。
今まで、見たことの無いボードゲームだったけど。
「これって、どうやって遊ぶの?」
「さぁ、これ見れば分かるんじゃない?」
そう言ってリオくんに説明書らしき物を渡された。
パラパラとめくってみるととてつもなくアバウトなルールが手作り感溢れる感じで書かれてあった。
「え~、要約すると。カードゲームぽいかな? カードをプレイヤーに同じ数だけ配って、カードを交代でフィールド――盤面のことかな?――に置いていく。それで中央にドーム状の中に人が居るのが見える?」
「あぁ、居るな。若干、セイヤに似てるかも」
「うん? あぁ、確かに似てる……。じゃなくて、続けるよ?」
「どうぞ」
「その人を倒したほうが勝ち、倒し方は、カードに描かれている効果を使って倒すだって」
「ふ~ん、このモンスターが描かれていて群れって書いてあるやつとか?」
「うん、置いたらカードに書かれていることがドームの中で起きるみたい、中の人は必死で抵抗するらしいからカードを組み合わせて倒せだって。ちなみに組み合わせられるのは三枚まで、それとカードが切れたら使ったカードをシャッフルして配るんだって」
「倒すまでエンドレスに続くって事か?」
「うん」
なんか、このカードゲームよく分かんないけど楽しそう、倒す人の駒がセイヤくんそっくりだって言うのが特に……。
「じゃあ、やるか」
「良いよ~、だけど……」
「だけど?」
「折角だから、勝ったほうが今日セイヤくんを自由に出来るって言うのどう?」
「あぁ、それ良いね、楽しそう」
そう言うとリオくんが感情の読めない、けれどそこら辺の女の子が見たら落ちること確実の爽やかな笑顔を浮かべた。
こちらも相手を挑発的に最大限努力して表情を作る。
「じゃあ……」
「「勝負!!」」
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急に悪寒を感じてブルッと体を振るわせる。
「どうした主よ、武者震いか?」
「そんなんじゃないって、少しいやな感じがしただけ。それより、どうやって修行するかいまだに俺分かってないんだけど?」
なぜか俺は真っ白い空間の中に居た、いつかの世界の狭間のようだ。
まぁ、絶対に違うところだってなんとなくだけど断言できる。
「まぁ、それはすぐに分かる。それよりも今のうちに私を構えていろ」
そう言って剣が手を差し出したのでその手のひらを握ると白い綺麗な光に包まれた。
手の中には、文字通り剣の形をした剣が手の中に納まっていた。
『ふふ~ん、やはり剣の姿のほうが落ち着くな』
「って、お前その形でも喋れたのかよ」
『主が、魔力を与えてくれたおかげだ』
頭の中に直接響くように声が聞こえる。
テレパシーとかの一種かな?
「それよりも何にも起こらないぞ? 本当に修行とかできるのか?」
『その筈なんだがな、こちらの予測が外れたか?』
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「じゃあ、リオくん。どっちが先攻する?」
「俺はどっちでも良いけど」
「じゃあ、僕の先攻ね」
「好きにして」
リオくんから許可もらっちゃったし~、どうしようかな。
手札にあるカードがどれも面白そうだからとてつもなく迷うってしまう。
「ヨシッ、最初はやっぱり攻めまくらなきゃね。この群れのカードとクイックのカードと良く分かんない恐怖のカードっと」
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「えっ!? ちょっと、これなんですか?」
『ゾンビの大群だな~』
「ヒッ!? そんな、あっさり言うなよ!!」
『どうした怖いのか? 主よ?』
「怖いに決まってんだろ!! ホラーとかマジでだめなんだって!!!」
腐臭を撒き散らしながら大量のゾンビがこちらへと向かってくる。
しかも、ノロノロゆっくり来るんじゃなくてかなりのスピードでこちらに迫ってくる。
こういうのはゆっくりやって来るものだと相場が決まってるって言うのに!!!
「クソォォ!!」
早速目の前までやってきたゾンビを真っ二つに切り裂く、続けてやってきたゾンビもまとめて引き裂く。
徹夜の修行のおかげか剣の扱いが上達した。
『主よ、こいつ等切り裂いたときの感触が気持ち悪い』
「知るかっ!!!」
そんな、こと言っていられる状況じゃない恐怖の大群が迫ってきているのだ。
とにかくがむしゃらに切り裂く、切ったときに感じる気持ちの悪い感触と腐臭に耐えながらひたすら振り回す。
横に薙いで勢いをつけたまま取り囲んでいたゾンビを引き裂き、と同時に上へと高く跳躍する。
地上に居る大群を見据え、言葉をつむいだ。
「炎槍、衝突時爆発、数は五!」
炎の槍が五本、大群へと突き刺さり爆発音とともに地上が炎の海と化す。
ちなみにさっき叫んだ言葉はイメージを具現化させる補助の役割をする言葉だ。
剣の徹夜指導の中に含まれていたのを早速実践してみた。
炎が静まるまで空中にとどまり熱風が静まると地面に着地する。
「これで取り合えず一掃できたのか?」
『残念だが後一匹、残っているようだ』
「えっどこに? ――ヒッ!!!」
なんか撫でられた、首筋をなんか冷たいものに撫でられたのですが……
硬直気味に後ろを振り返るとそれはそれはグロテスクな物体があってそこから伸びる触手が首筋を――
「ばっ、化け物ゾンビおばけぇぇ!?!?」
『おっ、おい、主よ?』
目の前にあるグロ物体を引き裂いて砕いてまた引き裂いてつぶしてミンチにして、グチャッといやな音がしてほほに何かがかすめて……
消し炭になれ、消えろ……滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅滅
「ばっけもん……ほっほっ、ホラー、嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い……」
『お~い、主よぉ~、何を泣いているのだ? もっどてこい~』
あはははは、作者ですよー。
主人公いじめって楽しいな~
怯えてる勇者を見て、ぐっときた人は同志ですよーww