(ヘルメイア編)ナイフとフォークが宙を舞う
背中が痛い……、なんか固い感触をを感じる。
「ふ~ん、魔国の王城でもおいしいもの食べられるんだね~」
「いくら働く人たちが戦闘能力優先でも一人二人は料理上手が混じっていても不思議じゃないけどね」
若干、失礼さを感じる話し声が耳に届いた。
この声は、セシルとリオネル……?
目を開くと石造りの屋根が見えた、寝かされているのかな?
床に手を着いて体を起こした、視界がはっきりしないので目をこする。
「起きたのか?」
「うん……? ブラッドか」
ブラッドが片膝をついて、俺の顔を覗き込んでいた。
なんとなく、心配しているように見える。
どうしたのだろうと首をかしげる。
「お風呂でのぼせた勇者さんはお目覚めみたいだよ」
「セイヤくんって、強いのか弱いのか分からないよね~。平気で僕たち飛ばすことあるのに、貧血起こして倒れたり。今日は、お風呂でのぼせて倒れたし~」
「まぁ、確かにそうだよね」
声がしたほうに目を向けるとセシルとリオネルが豪華な椅子に腰をかけ、同じく豪華な机の上に並べられた料理をつついていた。
さっきの話からして、俺はまた倒れたらしい。
それなら多少は、心配してくれてもいいような気がするのに、その様子がまったくない。
今まで一緒に旅をしてきたのに薄情なやつらだ。
「そう言えば僕セイヤくんに勝ったことないんだよね~、セイヤくんが倒れてるときにグサッと一突きしてみたら、勝てるかな~?」
「やってみたら?」
うん? なんだかものすごく不吉なワードが多数混じっていたような気がするのだけど?
「て言うか、セイヤくんって死ぬのかな~?」
「なんか不死身っぽいよね、色々と」
「そうそう、初めて会ったときセイヤくんってこの王城の天辺の何十倍も高いところから落ちて生きてたんだよ~、しかもクレーター作ってたし」
「ブラッドに普通だったら死ぬ量の血を飲まれても貧血で終わったしね」
「どうやったら、死ぬんだろうね~」
「不意打ちで、地獄の火炎に身をさらすとか?」
「僕と契約している数匹のドラゴン達に食べてもらうとか?」
「「あぁ、それ良いかもね」」
お互いのことを指差して、セシルとブラッドが頷き合う。
て言うかこいつ等、いったい何を話しているのかな?
「セシル、リオネル?」
「あっ、おはようセイヤくん」
「なんか、用事?」
まるで今存在に気がついたかの用にセシルがこちらを振り返って首をかしげた。
リオネルは目線だけこちらに向ける。
出来るだけ、声を低くして問いかけた。
「……さっきから何の話してるの?」
「あれ? 聞いてて分からなかったの?」
「そのまま、お前が何をしたら死ぬのかなって話だけど」
セシルは本当に分からないという様子で首をかしげて、リオネルは何でも無いように爽やかに告げた。
こいつらに罪悪感というものは存在しないのだろうか?
いや、存在していたら。そもそも、本人のいる前でどうやったら死ぬだなんて話はしないよな……。
うぅ、何だろう視界が歪んできた。
「……急にどうした?」
戸惑っているものの、優しさを感じる声が聞こえて人って優しいんだなと顔を上げようとする。
「ふわ~。セイヤくんの泣いてる姿ってなんか良いかも。何かに目覚める予感がするかも」
「お前、危ないな……」
……やっぱり、人なんて大嫌いだ。
「お前が変なこと言うから、端でお山座りしてるぞ」
「う~ん? あぁ、確かに。まぁ、ここは僕に任せなさい」
軽い足音を立てながらセシル近づいてくるのを感じる。
「セイヤックン♪ 顔を背けてないでこっち見て?」
言われたので仕方なしに顔をそちらへ向けた。
「いやね? そんな涙目でにらまれても怖くないよ? いくら自分より背が高くて、筋肉ついてて強くても、怖くないぞ?」
無言で顔を背ける。
「いや、顔を背けるのはやめてね? こっちをむこうね~」
再びそちらに顔を向けると口の中に何かを入れられた。
ゆっくりと咀嚼して。
「おっ、これおいしいな!」
「でしょ~?」
なんか、単純だなとか言う声が聞こえたけど、それはほめ言葉だよな?
うん、そういうことにしておこう。
「じゃあ、机の上にたくさん並んでるから、食べなよ~」
早速いすに座って食べ物をかきこんでいると、セシルがそういえばと言葉を発した。
「セイヤくん僕の時にはかなり騒いだのに今回はあんまり、騒がないんだね?」
「何が……?」
なんだか、いやな予感がする。
「うん? セイヤくんは浴場で倒れたんだよ? 今裸でいないんだから分かるでしょ?」
「今回は、俺が着せたな……」
えっと? つまり、それって……
「ギャァァァァァ!! がが、うがががが」
「はうっ!? セイヤくんが壊れた!?」
「ナイフやフォークが浮いてるし」
「来るぞ……」
中に舞ったナイフとフォークが銀色に閃いた。
作「はふぅ、今回は作者一人でお届けしま~す。うん、やっぱりカオス状況にしたいんですよね~、作者は。えっと、次回予告は、特にありません。それでは」