(ヘルメイア編)勇者と魔王と大浴場
レイはこの城に長い間住んでるかのようにまったく迷うことなく、足を進めていく。
何回目かの階段を上り終えるとレイが足を止めた。
「うん? どうかしたの?」
「ここで、待っていたらすぐにでも現れるはずです。……私はこれで」
「あっ、うんありがとう」
レイが軽く一礼をすると次の瞬間には、空気に溶けた。
「じゃあ、言われたとおり待ちますか」
近くにあった壁に背中を預けて、腕を組む。
程なくして、カツ、カツと足音が聞こえた。
足音がする方へと視線を動かす。
音の主は、すぐに俺に気がついて足を止めた。
「どうしたんだ、こんな所で?」
「お前を待ってたんだよ」
「俺を……?」
すっと、ブラッドが目を細めた。
う~ん、若干視線が上にあるのが気になる……。
「そう、風呂入るのにな?」
「風呂? ……あぁ、分かったそういう事か」
どうやら、それだけで全部理解してくれたらしい。肯定するために軽く頷いた。
「なら行こうか」
「あぁ、早く行こう。実を言うと汗流したかったしな」
「そうか」
呟くと、ブラッドは無言で歩き始めた。
当然、その後を自分がついていく。
今日は、人の後をついてばかりだな~。……いつもか。
でも、迷うし仕方が無いよな……?
ブラッドは、脱衣所に入るなり、その場にいた執事やメイドに下がるよう命令した。
どうやら、ちゃんと意味を理解していてくれたらしい。
二人きりになるとブラッドが躊躇いなく服を脱いでいく。
いくら、男同士だからって恥ずかしがりもしないのにどうなってんだと思いつつ自分も服を脱ぐ。
セシルが用意した服は何かと凝っていて、脱ぐのに手間取いながらもどうにか脱ぎ終える。
ブラッドも脱いだのかなとちらりと視線を向けた。
そして、見なければ良かったと後悔した。
細身かと思っていた、ブラッドの体には筋肉がしっかりついていて、それでなんかもう色々……負けた。
俺がブラッドを見たままフリーズしていると、気づいたらしいブラッドが俺をみた。
「どうかしたのか?」
「……ブラッドの馬鹿野郎! 男のプライドズタボロだぁぁ!!!」
内心白旗を揚げて、浴場へと逃げる。
くそぉ、天は一人の人間に二物も三物も与えやがってぇ!!!
しかし、撤退行動もそう長くは続かず浴場の扉を開けるとともに止まった。
「……は?」
ナンナンデスカコレハ?
いや、浴場に決まってるんだけど……。
広すぎるだろう、俺が行ったことのある銭湯より遥かに大きいぞ。
「どうした? 入らないのか?」
スッとブラッドが横を通り過ぎて、なんどか湯で体を流すと湯船に身を沈めた。
その間もじっと浴場の中を見たままフリーズする。
そして、二三分経過してからゆっくりと肩の力を抜いた。
「大丈夫、もう慣れたぞ」
そう自分に言い聞かせて、ブラッドがしたようになんどか体を湯で流してから湯船に使った。
「う~ん、やっぱ風呂はいいなぁ~」
広すぎるのが若干気になるが、風呂やっぱりいいと思う。
今までの疲れが吹っ飛んでいくな~、精神的ダメージとか精神的ダメージとか精神的ダメージとか。
……精神的ダメージしかないな。
当然かな? こっちに来てから、異常に体が丈夫なったので傷はつかないし、息切れはしてもすぐに直るし、筋肉痛に悩まされることもなくったから。
周りの連中は、俺を凹ませたり、疲れさせたりする達人だし。
まぁ、退屈する暇が無いと言う所もあるし、悪くは無いよな? たぶん。
もしかして、毒されたかな俺?
そんなことを考えながらくつろいでいると、水の音が聞こえた。
ブラッドが湯から出て、近くにあったいすに腰をかけて体を洗っていく。
それを湯船の縁に頭を乗せて、ボーっと眺める。
「どうした?」
「いや、別に……」
う~ん、何だろ頭がハッキリしなくて眠気と似たような感覚を感じる。
顔の熱が上がっていくごとに段々と眠気に似た感覚が強くなる。
眠たいような苦しいような……徐々に視界が霞む。
そして、ピチャンと水の音が響くとやけに息苦しいなと感じた。
作「はふぅ~、疲れたぞ~」
エリ「その割には短かったと思うけど?」
作「ふわわ、エリーズさんじゃないですかぁ。あぁ、疲れたのは寝不足でして~」
エリ「あら、そうなの? 大変ね?」
作「はい~、寝る前にラノベ二冊ほど読むのはなかなか」
エリ「前言撤回、自業自得ね」
作「はう!? そんな、ひどいです!!」
エリ「あら、でもそういうものは節度を持って読むものよ? 今度からは気をつけなさい?」
作「は~い」
エリ「分かったら良いのよ。それじゃあ、次回予告」
作「セイヤくん入浴中にいったい何があった!? 次の話で全容が明らかに」
エリ&作「次回も見てね☆」