(パニック編)ヘルメイアへ
「h¥fklfh!!?? ちょ、やめっ!!!」
なぜかくすぐられて目を覚ましました、今日この頃。
なんて言うか、腹筋崩壊する。
こんな、悪戯をするのはただ一人、金髪碧眼の度が過ぎる将軍。
「おっはよ~、セイヤくん。いい夢見れた?」
「お前のせいで忘れた」
まだ、布団になってくれてるウルの背をなでながら。寝起きで少し、はっきりしない頭で周りを見渡した。
どうやら、俺以外は皆起きているようだ。
リオネルは、朝食らしい干し肉をかじっていて、ブラッドは、なにやら空を見上げていた。
確認し終えて、そのままボーっとしていると開いていた口の中に何かを突っ込まれた。
肉の香りが口の中に広がったので食べ物だと判断し、ゆっくりと咀嚼する。
「う~ん、じゃあウルはもう、良いよ~」
セシルがそう呼びかけると自分を包んでいた温もりが消えた。
気持ちが良かったから、もうちょっとそのままでいたかったのにな~。
そう思っていると不意に髪を触られる感触がした。
振り返るとセシルがボサボサになっていた髪をくしで梳いている。
「うわぁ、セイヤくんの髪手触り良いな~、抜いて、ブレスレットにでもしようかな?」
なんか、セシルが悦に入っていた。
手触り良いなと褒められるのは嬉しいが抜かれるのはできればごめんだぞ?
セシルが悦に入っている間に、口の中にあった肉を飲み込んだ。
「そう言えばさ、この肉、この前のと味が違うよな? なんの肉だ?」
「おっ、そこに気づいたんだ~。ほら、リオネルくん美味しいって食べてみない?」
声をかけられたリオネルは、干し肉をかじるのを一旦やめて、セシルの方を向くと一言。
「いらない」
「え~、なんで?」
「この肉があるからいらない」
「えっと、じゃあ――」
「この前、セイヤの血を飲んだから十分だ」
「言う前に遠慮しないでよ~」
セシルがリオネルに断られて、ブラッドに声をかけようとすると言う前に遠慮されていた。
何で、遠慮するんだろうこんなに美味しいのに。それに、セシルは何で急に二人に話を振ったりしたんだ? 何の肉かも聞いてないし。
む~っと唸りながら頬を膨らませている、セシルに声をかけた。
「なぁ、これって何の肉なわけ?」
「うん? あぁ、それね――ドラゴンの肉」
「ふ~ん、そっ。…………はっ!?」
ちょっと待て、こいつ今なんていった? セシルの顔をじっと覗き込む。
「ふえ? 聞こえなかったの? ドラゴンの肉だって~」
「って、お前なに食わせてんだぁ!!」
セシルの後頭部に狙いをつけ、振り上げた手を思い切り振り下ろす。
「おっと、危ない」
当たる、直前でセシルがひらりと身をかわして、そのまま、リオネルのほうへと逃げる。
同時に轟音が響いた。
「って、あれ?」
なぜか、地面が割れていた。自分が先ほど振るった手を見つめる。
「ふわわ、拳圧だけで地割れが起きちゃうなんて、避けててよかったぁ~」
「朝から、元気だね。勇者様は」
セシルの危ないと言う声とリオネルの少しからかい口調な声、ブラッドからちらりと向けられた視線を受けて、いたたまれない気持ちになってくる。
「いや~、なっ? うんうん、今日はいい天気だな~」
「誤魔化した~」
「誤魔化したな」
セシルとリオネルに同時に突っ込まれて、うっ、と詰まるとすぐさま言い返す。
「わざとじゃ、ないんだから仕方ないだろ!」
「開き直ったな」
「でも、わざとじゃなくてあれって、うっかりでその内殺されそう~」
「お前だけには、言われたくはないわ!!」
開き直ったのは、本当だがうっかり人殺しは俺よりもセシルのほうがやりそうだ。
……そうだよな? 俺、そんなことしないよな!?
「あれ? セイヤくんがそわそわし始めた」
「少し不安げだな」
「あっ、頭かきむしってる」
「なにかの考えと闘ってるんだろうな」
「あっ、セイヤくんが真っ赤な顔してこっちにらんでるよ?」
「追いかけられるかもな」
「逃げる?」
「逃げようか」
そう言って、とうざかっていく二人の背を無意識のうちに足が追いかけていく。
「人を散々虐めて逃げ出すな!!!」
「はぁはぁ……」
「大丈夫か?」
「たぶん、大丈夫……」
ブラッドの言葉にうんとうなずいてそう返した。
俺が、こうやって息切れしてる諸悪の根源は、いたって元気そうだが。
「セイヤくん、すぐに息上がっちゃうんだね~」
「ただの追いかけっこで、それ程度で大丈夫なの?」
「なにがすぐだ、なにがただの追いかけっこだ。お前たちの基準だったら、朝から昼までがちょっとなのか? 追いかけっこに殺傷能力抜群の力を使うのが普通なのかよ!!」
そうだ、こいつら遠慮なしに能力使いやがった。
下手したら死ぬぞ、普通に。
「う~ん、前に一回やっちゃったから。もうなにやっても良いや的な気分なんだよね~。死なないって確信があるし」
「まぁ、そうだよね、抵抗無くなっちゃったってやつ?」
「……俺殺されるかも」
「「だれに?」」
真顔で聞いてきた、二人にはぁ~と溜息をついた。
て言うか、前の一回だって襲い掛かってきた女の人が原因で俺が情緒不安定になってたんだろ?
俺のせいじゃないはずなのに、なんでこんなに虐められるんだよ。俺。
「まぁ、、そんなどうでもいいことはともかく」
「……ぜんぜん、よくねぇよ」
「旅に向けて、レッツラゴ~で」
スルーされた。完全にスルーされた!? しかも、セシルに!!
うわ~、もう泣きそうかも。つか、泣いてやる。
ゆっくりと端のほうへと歩いていきしゃがみ込む。
もう、人間なんか大嫌いだ。
そんなことをしていると強風が押し寄せてきた。なんだと思って顔を上げるといつかの白く輝いてるドラゴンがいた。
「と言うことで、今回はこの子に乗っていきましょう~」
「なんで? 歩いていくんじゃないんだ?」
「う~ん、旅といえば徒歩って言う気分だったんだけど。時間かかるし面倒だから、乗ってくの~」
今回は、発言がスルーされなかった。取りあえず、安心だ。
「じゃあ、早く乗っちゃおう。善は急げってね」
なんか、違うだろうと思いつつドラゴンの背へと飛び乗った。
う~ん、なんか調子が悪い……