(パニック編)棺桶へ入れられる勇者様
「う~、難しい……」
さっきから、ずっと抉れた地面の補修に励んでいるのだが、全然うまくいかない。
イメージがしっかり固まらなくて、山になったり壁になったり、挙句の果てには、剣山みたいになってしまう。
ちなみに、エリーズさんとは、さっき別れた。何でも、人探しの途中だったらしい。
「あぁ、やっぱりあきらめようかな~、抉れていたときよりも通りにくそうになってるし」
こんな、剣山状態の道を通ったりすれば、血まみれになること間違いなしだろう。
にしてもこの力、便利なのか不便なのかよく分からない。
イメージしたことを具現化できるんだけど、その、イメージがきちんとできなかったら何かとずれる。
しかも、ずれる方向が攻撃的なんだよな~。元々、戦うための力だからなのかな?
「考えても、仕方がないしもう一度やるか」
平たくなるのをしっかり頭の中でイメージして、それを実行しようとした。
とその時、急に押し倒されて、金属音が聞こえると共に、視界が真っ暗になった。ふわりと花の香りがする。
何がおきたのかと思っていると聞き覚えのある、悪戯っぽい声が聞こえた。
「だ~れ、でしょう?」
そういった後に、クスクスと笑い声が続いた。
心の中で、はぁ~とため息をつくと、声の主の名前を当てる。
「セシルだろ? つか、こういう時は、両手で目を塞いでやるもんだ。箱なんかに閉じ込めてやるもんじゃない」
「箱なんかじゃくて、棺桶ね。……だって、普通じゃつまんないでしょ?」
「棺桶とか、余計に質が悪いわ。それより前にどこから出したんだ? それとこういう時は、普通にしとけ。そして最後に、今すぐここら出せ!!」
「要望多いし、短気だな~」
どこがだよと突っ込みを心の中で入れて、開けられた棺桶から身を起こす。
まず最初に、自分の入れられていた棺桶を見て、一言。
「妙にリアルだな」
棺桶の中には白い花が敷き詰められ、端に置かれた蓋には、セシルの着ている服にも描かれている銀色の十字架とそれを彩るように模様が描かれている。
「実際に、リナリアで使われてる実用品だからね」
「そんな、実用品に入れるなよ。ホントに縁起が悪い」
「失礼な。これから、天へと旅立つ人ために作られた縁起のいいものだよ。ご冥福をお祈りしちゃうんだよ」
「お祈りするなよ、まだ、死なないから」
セイヤくんは永遠に死を迎えないようなという、呟きが聞こえたような気がしたが取り合えずスルーして棺桶から出る。入ってて、気持ちが良いようなものでもないしな。
そういえば、リオネルとブラッドはどうしたのかなと思っていると。
丁度崖から、二人が現れる。
「あっ、勇者のセイヤはちゃんと無事だったわけね」
「うん、まぁ、無事かな? 心配させちゃった?」
「すっごく心配したよ。だから、百回ぐらい僕の言うこと聞いて」
イキナリ会話の中に割り込んだ。セシルの頭をパシッと叩く。
「今回は、お前が主な原因だろ。むしろ、お前が言うこと聞け」
「じゃあ、僕は棺桶の片付けを~」
俺の言葉を聞くなり、セシルは棺桶の方へと去っていった。
ブラッドが何かに気がついたような顔をして、口を開いた。
「あれは何だ? これから、処刑でもするつもりか?」
「あぁ、そう言えば……。なに、あれ?」
ブラッドが剣山状態の道を指差し疑問を口にして、リオネルもそれを見て、首をかしげている。
ビクッと肩が震えた。
やばい…やばいぞ、ブラッドやリオネルも多分、俺がしたって言っても、流してくれそうだが。
セシルは絶対に食いつくぞ、これでもかと食いついてくる。間違いない。
「あぁ~、それ?」
「うん? なに、セシルは知ってるわけ?」
リオネルがセシルを振り返った。自分もさっと、セシルを振り返る。
セシルは、棺桶を宙にある、真っ黒な穴の中に突っ込んでいた。次元がゆがんでる?
いや、そんな事はいい。こいつ、もしかして知ってる?
セシルが言葉を続けた。
「セイヤくんが地面を補修しようとして大失敗したんだよ~」
「っ!? なんで、知ってんだ!!」
「あ、ホントにそうだったんだ~」
って、え? はったりか? ……墓穴ほったぁ!!
「って、本当に補修して、針の筵って」
棺桶を穴の中に入れ終えた、セシルが馬鹿笑いを始めた。
全く持って、その通りなので突込みができない……。
諦めモードに入っていると以外に早くセシルの笑いが止まった。
「まぁ、今回は自分も道を滅茶苦茶にしたわけだし。これぐらいにしておこう。それじゃ、セイヤくんが出来なかった道の補修をこの、僕が」
くるりとセシルが道のほうを見るとパチッと手を鳴らした。
すると、綺麗に道が補修されていく。
「すごいな、あっという間に綺麗になった」
「ふふ~ん、もっと褒めてくれても良いぞ?」
「褒めないけどな」
「な~んだ、残念」
人のことを馬鹿笑いしたんだ。当然だ。
俺たちがそんな話をしていると不意にブラッドが声をあげた。
「もう、暗くなるな。今日はこの辺りで野営をするか……」
「そうだね、暗くなると危ないし」
リオネルも同意の声を出した。
「じゃあ、僕も賛成。もう、疲れちゃったし」
「うん、じゃあ俺もそれでいい」
続けて、セシル、俺と同意の声を出して、その場所での野営が決定した。
「なぁ、セシル。お前いったい何やってんだ?」
「う~ん、気にしないで~」
セシルが薪から、離れて暗闇の中でごそごそ何やらやっているので声をかけた。
なにも、してないとか言ってるけど。絶対何かやってるよな。
その証拠に時折、何かを引き裂くような声が聞こえる。
気にしていても、仕方がないので、ブラッドとリオネルの方へと向き直った。
逸れた後のお互いの様子を話していたのだ。
「じゃあ、その剣が神様からの授かり物ってわけ?」
「うん、そうみたいだけど」
今更だが、普通に神様のことを話すのって良いのだろうか? でも、いけないとは言われてないし大丈夫だよな?
剣の事について、ブラッドが口を出す。
「確かに、その剣普通じゃないな。自ら、魔力を発している」
「でも、とても実用的には見えないけどね。飾り物みたいに綺麗だし」
「でも、これドラゴンばらばらにしたんだよなぁ~」
その時のことを思い出してみた。
なんか、すれ違いざまに軽くきって、そしたら爆発した。
「まぁ、セイヤ自体が結構規格外だから、扱う武器も規格外で当然か」
「……そうだな」
なんか、二人ともこちらが納得できない方向で納得している。
「それを言うなら、ブラッドやリオネルそれにセシルだって、規格外だろう。どう考えても、普通のやつはあんな力使えないだろうし」
「まぁ、確かにそうだけど。一番はどう考えても――」
「お前だな」
「そういうこと」
コンビネーションばっちりで突っ込まれてしまった。
なんか、超人的扱いをされ……実際そうなんだろうけど。
いじけているとセシルがふらりと薪の方へと戻ってきた。
「あれ? 珍しく、セイヤくんがいじけてる……」
「いやっ、別にいじけてねーよ」
「セイヤくんがツンしてる?」
「だから、そんなんじゃねーって」
「どうしたの~?」
「別に、……超人的な扱いされていじけてるとかじゃねーぞ」
「大丈夫、セイヤくんは至って普通の子だよ」
「うっ、うれしいとか思ってないからな!!」
「セイヤくんがデレた」
「……あぁ! これいじましい。やめだ!!」
なんか、なれないことに挑戦しようとしたのがだめだったな。
もう、やってて痒くなってくる。
「もう、やめちゃうの? やってて、楽しかったのに~」
「やってると痒くなってくるし、無理。やっぱ素が一番だよ」
「まぁ、素が一番って言うのは同感だね」
そう言いながら、セシルが俺の隣へと座った。
リオネルがそう言えばとセシルに声をかけた。
「そう言えば、セシルはなにしてたわけ?」
「う~ん、秘密」
「そっ、なら良いや」
そこから、特に会話が始まるでもなく、静かになった。
ボーっと揺ら揺らゆれる炎を見つめた。
「ふわぁぁ~」
欠伸が出て、涙が少し出たので目を擦る。
「……眠いのか?」
「うん、ちょっとな」
「なら、寝れば良いだろう」
「あぁ、でもな~」
ポンポンと地面をたたく。
「硬くて痛いんだよなぁ~」
「そうか……」
ブラッドが納得して、会話が終わろうとするとセシルが声を上げた。
「それなら、いい考えがあるよ、セイヤくん!!」
「……どんな」
眠たい目を擦りながら、セシルに返事をする。
セシルがうんと頷いてすっと立ち上がって、パチパチと二回手を鳴らした。
すると虚空から、銀色の毛並みをした、巨大な狼が現れた。
「ウルに布団になってもらえば良いよ。ふわふわのもふもふで気持ちが良いよ」
「ふ~ん、そうなんだ」
いよいよ、意識が朦朧としてきて、うとうとしながら言葉を返すとぐるりと体が銀色の毛に包まれた。
確かに、気持ち良いな……
「おやすみ~、セイヤくん」
「おやすみ」
「いい夜を」
「あぁ、……おやすみ……」
心地いいまどろみへと落ちていった。
セシ「ども、セシルだよ♪」
リオ「どうも、リオネルです」
ブラ「ブラッドだ」
作「あ~んど、作者だよ~。なんか、セイヤくん今回、エセ、ツンデレになってたね~」
セシ&リオ「作者のせいだけどね」
作「ダブルで突っ込み!?」
ブラ「ヘルメイアへ直行じゃなかったな……」
作「まさかの追い討ちで前回のことをなじっちゃうのね!!??」
セシ「そう言えば、次回予告は?」
リオ「次で、お前がドラゴン召喚するで良いじゃないわけ?」
ブラ「適当だな……」
作「あれ? お~い」
セシ「じゃあ、さよならの挨拶だね♪」
リオ「そうだね」
ブラ「だな」
作「えっ、ちょ!!」
セシ&リオ&ブラ「次回も見てね☆(見れば)(見るといい)」