(パニック編)やはり落下する勇者さま
「自分でやった事とはいえ驚きだね。ココまでひどく崩れるものなんだ」
崖を崩すような事をして取り合えず一時避難をしていて戻ってきたのだけれど。
あった筈の道が完全に塞がれていて、かなり酷い状況になっている。
取り合えず、みんなを発掘するのが先かな? まぁ、たぶんグチャッと潰れてお陀仏なんて事にはなってないと思う……。
今回ばかりは悪ふざけが過ぎたと少し反省かな?
みんな、発掘したら反省の意味を込めて通れるように直しておこう。
そう決めて、早速土砂で足の踏み場が悪くなっているところを歩いていく。
魔力の流れが乱れている場所を探す。
生き物の周囲は微妙に魔力の流れが乱れるから取り合えずこれで探せるはず。
少し、歩いていくと早速魔力の乱れているところを見つけた。
上に巨大な石がのっていたので簡単な魔法を唱えて崩すとしゃがみ込む。
「えっと~、セイヤくんか魔王さんかリオくんが埋まってるんだったらお返事お願いしまーす」
呼びかけても全く返事が無いので仕方なく地面を掘り始める。
これでピッケルとかツルハシとか装備してたら、発掘そのものなのにな~。
そんなものがあるはず無いので仕方なしに、軽い魔法を連続で唱えて岩を崩し、崩した岩を風で飛ばすという作業を地道にやっていく。
そろそろ、発掘できるかな~とか思っていると掘っている辺りから鈍い音が聞こえ始めた。
反射で後ろにさっと飛びのくと黒い靄のようなものが噴出して周りのものを吹き飛ばした。
そして、ぬっと手が伸びてきて自分が掘った穴の端を掴んだ。結構不気味かも、真夜中に見たら中々のインパクトがあるね。
そして、もう片方の手がまたぬっと出てきて、穴の中から這い出て来る。濃い緑色の髪が見えた。
「う~んとリオくん?」
「なんで、疑問系? まぁ、良いけど」
そう言ってリオくんが自分の服についた汚れを叩く。
土砂に埋もれてたから汚れも半端無いみたいで叩くたび大量の土ぼこりが出る。
いくら叩いても、一向に綺麗になる様子がないので諦めたらしく、リオくんがこちらに顔を向けた。
「で、これやったのお前?」
「うん、まぁ、そうだね」
「そっか……」
僕の返事は分かりきっていたみたいで特に反応もなくリオくんは空を見上げた。
ふと魔力の乱れを感じてそちらに目を向けると巨大な火柱が雲を突き破るくらいの勢いで吹き上がった。
土ぼこりで視界が悪くなる。目に土ぼこりが入ってしょぼしょぼする。
視界が悪い中人影が見えた。こちらへとゆっくりと歩いてくる。
まぁ、こんな派手なことをしたりするのは一人だけだと思うけど。
土ぼこりが、さっと風に流されて視界が開ける。
目の前に現れた姿を見て、率直な感想を述べてみる。
「魔王さん、全然服汚れてないんだね」
「掛かる土砂をすべて弾いた」
赤い瞳にかかる髪をかきあげて、相変わらずの平淡な声で返してきた。
セイヤくんが言うには、そこまで平淡じゃなくてある程度、感情を感じるって言うけど、やっぱり、僕が聞く分には平淡にしか聞こえないや。
魔王さんが再び口を開く。
「セイヤはどうした?」
「あっ……そういえば。まだ、発掘できてないや」
まだどこかに埋まってるのかなと魔力の気配を探してみるが分からない。
と言うかフィーリアでも同じこと試したんだけど、意味がなかったんだよね。
おかげで歩いて探す羽目になったし……。
また、同じように地道に探すしかないのかな~と思うと土砂崩れなんて起こさなきゃ良かったと少々後悔する。
今更、何言ったって仕方ないし探すしかないけど……。
僕が後悔の念に浸っているとリオくんがそれならと僕達に視線を向けた。
「あいつ、ここら辺にはいないぞ?」
「ふえ? なんで、リオくん分かるの?」
「一応殺し屋だから、人の気配を読むのには慣れてるし。魔力とか関係なしに分かるから間違いないよ」
それならと谷方へと目を向けた。
もしかして、流された……?
二人とも僕とおんなじ考えのようで谷のほうに目を向けている。
一応、ここら辺は高さは半端ないし、落ちたりしたら普通に天国一直線なんだけど。
「大丈夫だよね? セイヤくんだし」
そう、大丈夫に決まってる。声に出したら確信できたよ。
考えれば、セイヤくんとあった時だって馬鹿にならないほど高いところから落ちてクレーター作ってたし。
これぐらいで死ぬわけない。二人も僕の言葉に同意してくれたし。
じゃあ、問題はただひとつ。
「どうやって探しにいく~?」と僕。
「下に降りるしかないんじゃない?」とリオくん
「それしかないだろうな……」と魔王さん
「じゃあ、どうやって降りる?」と再び僕
「飛び降りるか?」とリオくん
「セシルの召喚獣を使ったほうが安全だと思うが」と魔王さん
最後の魔王さんの言葉にそれもそうかと納得して、早速召喚の為の詠唱をする。
僕の召喚獣の中で一番乗り心地が良さそうで早そうなのは聖竜?
目の前に光り輝く竜が現れて乗りやすいように背を向けてくれた。
「じゃあ、とりあえず乗って」
「ドラゴン召喚を平然とやってのけるって凄いよね」
リオくんはそう一言漏らして背に乗り、魔王さんは特に何も言わず黙って飛び乗った。
最後に僕が首筋にまたがると、翼を広げて谷底へと飛ぶよう指示を出した。
徐々にスピードを上げてい行く。
一応、去り際に土砂崩れでぐちゃぐちゃになった道を土の精霊達を呼び出して直してもらうように頼んでおいた。
召喚対象から離れちゃうと結構体力使うんだけどこれも反省として我慢するとしようかな。
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「あぁ、身動き取れない状態って結構辛い、ものなんだな」
セシルが起こした土砂崩れで流されてしまって、良いことなのか悪いことなのか途中で木の棒に引っ掛かってつるされている状態だ。
背中の手の届かないところにうまい具合に引っ掛かっているのでどうしようもすることが出来なくて、先ほどからゆらゆら揺れている。
暴れたらきっと外れると思うし、落ちても死なないと言う確信があるんだけど勇気が出ない。
さっきは、ふわふわ浮かぶ風船みたいなものを思い浮かべていたんだけど、出したらすぐに上のほうに飛んでいって乗れそうにないし。
どうしたものかな~、あいつ等が見つけてくれると良いんだけど。そう思ってうえを見上げるが誰かが来る様子もない。
はぁ~と溜め息をついた。
「そんなに溜め息をついていると幸せがどんどん逃げていくわよ?」
不意に声が聞こえて前を向くとシャーロットが目の前を浮遊していた。
本来飛ぶのに使われると思われる純白の羽は背中で折りたたまれていた。
羽がなくても飛べるのだったら必要ないような気もするのだがどうなのだろう。
「ちょっと、聞こえてるのかしら? なにボーっと人のこと見ているの?」
シャーロットに声をかけられてはっとした。
「いや、なんでもないけど」
とそこで思いついた。
身動き出来ないのだったら、シャーロットに運んでもらえば良いのではないかと早速シャーロットに提案しようとする。
「あのさ――」
「無理よ?」
なぜか言う前に断られてしまった。
せめて、最後まで聞いてくれても良いような気がするのだが。
人の様子を気にせずにシャーロットが続ける。
「だって、今両手塞がっているから、あなたを運ぶのはちょっと無理よ。これ凄く重いの」
そう言われてシャーロットの垂れ下がった両手の先を見ると、鞘に納まった剣があった。
と言っても、片手で振るような大きさなのでそこまで重そうに思えない。
いつか、シャーロットは自分を片手持ち上げてそのまま飛んだことがあるのだから、余裕があるように思えてならないのだが。
どうやら、それはシャーロットを見つめる視線にしっかり含まれていたらしい。
「あなたがどう思おうと私にとってこれは重いの。と言うことでこれをあなたにプレゼントするわ」
「え……?」
なにがどうなってそれをプレゼントすることになったのかまったく分けが分からないのだけど。
そう思っているとシャーロットが剣について説明を始めた。
「これは、神剣? 聖剣? とかそういう類のものよ、でこれは神様からあなたへのプレゼント、名前はないから勝手につけて構わないとのことよ。それじゃ、まぁ大切になさい。それじゃあ」
「えっ? ちょ!?」
無理やり剣をこちらに押し付けるとシャーロットは手を振って、いつものように数枚の羽を残して消えた。
押し付けられた剣を見つめて、やっぱりこれあまり重くないじゃんむしろ軽いぐらいじゃないかなと思っているとみしりと何処かで聞いたようないやな音が聞こえる。
「えっと……、もしかして……」
ミシミシという音はやむ様子がなくしばらく聞こえていたかと思うとポキッという音に代わって鳴り止んだ。
ていうか、ポキッて……。
次の瞬間、全身に強い風を浴びた景色が急速に流れていく。
そして、全身全霊で叫んだ。
「やっぱり、俺、落ちちゃうわけなんだなぁああああ!!!」
江入星矢。やはり17歳になってから異様に落下率が増えたと思います。
それを最後に自分の意識は真っ黒に染まった。
シャ「こんにちは、あとがき初登場のシャーロットよ」
作「どもども、シャーロットちゃん」
シャ「早速だけど、あなた江入星矢を落とすのが好きよね」
作「いやいや、それほどでも~」
シャ「褒めてはいないのだけれどね、まぁ、良いわ。次回予告よ」
作「やっぱり、落ちてしまった星矢くん、次はものすごい美女とご対面?」
シャ「今回は、多分じゃなくて断言だから安心すると良いわ。
前回は、魔王の魔王らしいところが見れると言ったのに特にそんな描写はなかったけれど」
作「はう!? それを言っちゃおしまいだよシャーロットちゃん」
シャ「ということで、今回は、ここら辺で終わりよ」
作&シャ「次回も、呼んでね~☆」