(旅の始まり編)世界の狭間
「……うっ、頭痛い」
何かに打ち付けられたようにがんがんする、頭を抑えながら身を起こした。
全身に鈍い痛みが走って顔をしかめる。
「っ、最低だ……」
痛みを堪えながら、辺りをざっと見回してみる。
白、白、白と、とにかく白尽くしだった。
「…………って、ここどこ!?」
どう考えても蝉が大合唱している真夏の山とは違うところ……だよな?
というか何で気を失っていたんだ?
確か山を死にそうな思いをしながら歩いていて……足滑らせて、谷へ落ちたんだったよな?
うん、そうだ大丈夫覚えている、取り合えず記憶喪失にはなっていない。
うん、大丈夫――じゃない?
ここはとにかく真っ白、連想される物といえば天国?
俺は、さっき谷から落ちた。つまりそれって……
「俺死んだ!?」
「なに言ってるのかしら? 今、ここでちゃんと息してるでしょ?」
声がした方を向くと白い翼を生やした女の子が澄ました様子で立っていた。
所謂、天使と呼ばれるものだろう。そのことに確信する、ここは天国なんだと。
「あぁ、良かった地獄じゃなくて」
「って、人の話を聞きなさいっ!!」
がつんと女の子に頭を思い切り殴られた。
ものすごく痛い……て痛い? 痛みを感じるという事はもしかして生きているのだろうか?
でも、ここって天国のはずだ……それとも、死んでも痛みは感じるって言うことだろうか。
て言うか、殴られる前から全身に鈍い痛みを感じていたし……あれ?
頭がぐちゃぐちゃしてきたので目の前の女の子にここがどこか尋ねてみる事にした。
「えっと、ここってどこ?」
「世界の狭間ね」
世界の狭間? つまり天国じゃない=俺って生きてる?
心臓に手を当ててみるとちゃんと鼓動を感じた。
さらに念のため目の前の女の子にも尋ねてみる。
「俺って生きてる?」
「さっきから生きてるって言ってるんだけど」
そういうと女の子はわざとらしく溜息を吐いた。呆れられたかな?
でも、世界の狭間ってなんだろう?
少なくとも俺のもといた世界とは違うよな……?
世界の狭間なんていう地名なんて聞いたことないし、まぁ、知らないだけかもしれないけど……。流れからして、きっと異世界の類だ。
そう結論付けて納得すると、女の子が話しかけてきた。
「ねぇ、あなたとりあえず神様とかにあってみる? ここにずっと居るのは嫌でしょ?」
「神様? 神様ってあの神様?」
「どの神様かは知らないけど、とりあえず神様よ、会う?」
神様……、神様と聞いてあまり良い響きがしないのはなぜだろうか?
理由はこういう時に神様に呼ばれるとたいてい面倒な事を押し付けられるからだろうな……。ラノベではそういう展開がべただしな~。
つうか、女の子の話からして選択肢がないような……まぁ、良い。
「じゃあ、会おうかな?」
「そう、ならつかまって」
すっと女の子が手を出してきた。掴んでと言う事なのだろうか?
そっとその手を掴む。
「じゃあ、行くわよ?」
「えっ何が?」
次の瞬間、女の子の翼が大きく広がったかと思うと一気に羽ばたいた。
俺の体もそれと同時にとび上がった――ちなみに超高速で、そして数十秒後俺の体は無事に地に降り立った。
「うっ、やばっ気持ち悪い……吐くかも」
「ちょっと我慢しなさいここは神域よ」
残念ながら、胃のほうは大丈夫ではなかった。
ちなみにさっきの体が無事と言うのは足りないパーツはないと言うことだ。
吐き気に苦しんでいると女の子は俺の背中をさすってくれるが吐き気は一向に治まらない。
なんだか、胃の中の物が踊り狂っているような感じがする。
「ほう? 丁度良いところに人間が」
気配もなしにそんな声が急に聞こえて、口を押さえながらどうにか顔を上げると黒尽くめで人相の悪い始めにヤのつく職業ぽい人が居た。
さっき、ここは神域だとか女の子が言っていたけど、最近は神域にさえヤーさんが出るなんて、確かに最近の風紀は乱れに乱れているのかもしれない、よくテレビで話してたハゲツルのカエル顔の言っていたこともあながち間違ってはいなかったらしい。
そこまで考えるとすっぱい物が喉せり上がってきた。それを慌てて飲み込む。
「あっ、神様この人が今にも吐きそうなんだけどどうにかしてくれない?」
「そうなのか? 分かった、ここで吐かれても困るからな」
そう言って、神様とか呼ばれている人がパチンと指を鳴らすと不思議な事に吐き気が治まってきた。
どう見ても、ヤクz――ヤーさん(言い直した意味あるか?)にしかみえないんだけど。吐き気も治ったし神様で良いんだよな?
「えっと、ありがとう助かったよ?」
「なぜ疑問系なのよ。それにタメ口なんて勇気あるわね」
「ありがとうございました?」
「だから、なんで疑問系なのよ……」
「まぁ、気にするな、下心も色々とあることだしな」
「下心?」
神様は頷くと空中に腰を掛けた。どうなっているのだろう?
とりあえず話があるっぽいので背筋を伸ばす。一応神様らしいし、最低限の礼儀って事で。
「まぁ、下心と言うのはだ。つまり、お前にやって欲しい事があるのだよ」
「やって欲しい事?」
「そうだ、お前にはもといた世界とは違う世界に行って来て勇者として旅をしてきてもらいたい」
「勇者として旅をする? 何のために?」
やっぱりこれは、フラグか? 来る前から大体は予想していたけど。
魔王を倒して来いとか世界が壊れそうだからどうにかしろとか面倒なことを言ってくるのだろう。
そう、思っていると流石は神様、思考を読んだのかそれを否定する。
「安心しろ、魔王を倒せとか世界を救えとかとかじゃない。勇者としてその世界に居てくれれば良いのだ」
「?」
「その違う世界と言うのは、何千年かに一度勇者を迎える必要があるのだ。勇者を迎えなければ世界がバランスを崩す、だから行って来て欲しいのだ」
神様の話からすると、やっぱりそれって世界を救えという事ではないのだろうか。神様の話からは矛盾を感じる。
「それって、やっぱり世界を救う活動とかしなきゃいけないんじゃ?」
「いや、普通は勇者が居るだけで世界のバランスは整う、よっぽどの事が無い限りな……それに、万が一の時にも備えてお前には最強と言って良いほどの力も与えよう」
「最強の力は嬉しいけど。俺の家族とかは?」
「お前が居なくなっても悲しまないように記憶を消すとするか」
「えっと……拒否権は?」
「無いな」
普通に宣言された。俺には拒否権が無いらしい。
やはり、神というのは横暴だ。
それでも納得できないと声をあげようとすると女の子が俺の肩を持つと優しくささやいた。
「やめておきなさい、機嫌を損ねると殺されるどころか魂さえ破壊されて生まれ変われなくなるわよ?」
そんなやさしい顔で、言われると怒りよりも先に絶望を感じるのだが。
急激に精神が削られていくような気がする。
「シャーロットよ、この者を異世界とへと運んで来い」
「分かりました……ほら行くわよ」
どうやら女の子はシャーロットというらしい。
そんなどうでも良いことを思いながらシャーロットに引きずられていく。
そんな状態で引っ張られていくと、急に後頭部に強い衝撃を感じた。
「ちょっと、起きなさい!」
ボーっとシャーロットに目を向ける。その後ろには大きな扉があった。
どうやら、かなり移動させられたらしい。
「なに? その扉……」
「世界の扉よ……ボーっとするのやめなさい、理不尽だとは思うけど諦めるしかないわ、異世界で良い出会いもあるかもよ?」
「……そうだなっ!! こうなったら開き直っちまえ。さぁ、行こう新世界へ!!」
確かにシャーロットの言うとおりだと思って、開き直ると少し複雑そうな顔で見つめられた。
「どうしたよ? ボーっとするのやめろって言ったのはお前だぞ?」
「いえ、ここまで急激に変化するとほっとけば良かったわと思っただけ……まぁ、新世界に行くのならそこの扉を開きなさい、蹴り入れる覚悟だったんだけど楽できたわね」
そう言って、シャーロットは扉を開きやすいようにと横へと退けてくれた。扉を開ける瞬間、シャーロットを振り返る。
「じゃあ、行ってくるな」
「行ってらっしゃい、運が良かったらまた会うかもね」
扉がガチャと開くと光があふれた。
という事でここから星矢くんの旅が始まります。
こういう書き方は久し振りなのでちょっと変かも知れませんが
多めに見てください