(フィーリア編)続・フィーリア初日
「帰って来たよ~」
その声で俺の睡眠タイム終わりを告げた。
頭がボーっとするのをブンブン頭を振ることで無理やり覚まさせる。
「今日は、みんなにプレゼントだよ」
「プレゼント?」
ニコッとセシルが頷くと背の高い男が出てきて手に持っていた荷物をセシルに渡すと一礼して消え去った。
今さっきまでいた男が消えた男にも驚いたが何よりセシルの持っている荷物の量にも驚く、半端無い。
「えっと……何それ?」
「うん? あぁ、服とか靴とか身に着けるものだね」
その中からシャツやズボンにマントとか一式取り出すとニヤニヤしながらこちらへと向かってくる。
この展開はもしかするとあれか? 普通は女の子同士で起きるイベントだと思うんだが
「じゃあ、楽しいお着替えタイムっ!」
やっぱり……というか男同士で何が楽しい。
「あぁ、分かった、着るから服貸して」
別に妙に変わった服でもなさそうだし――俺がもといた世界だったらコスプレオタクと思われるだろうが――着ても害は無いだろう。
当然、おとなしく渡してくれるかと思ったらセシルが予想外の行動に出る。
「ちょっ、おまえ!?」
人の話を聞かずにこっちの服を脱がせにかかってきた。
自分で着替えるのはいいが、人に着替えさせられるなんて幼子みたいで恥ずかしすぎる。
必死で抵抗するがセシルの手は止まらない。
「ちょっと、暴れなくてもいいじゃん、同じ男だしさぁ減るもんじゃあるまいし」
「お前からそんな言葉が出るとは以外だった」
「どこらへんが? まぁ良いや……取り合えず脱げぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「ギィァァァァァァァ」
*****数分後*****
「うぅ、俺、婿にいけねぇ」
「もう、泣く事無いじゃん、て言うか婿にいけねぇって……」
セシルが呆れたように声をかけてくるが知るか、人に着替えさせられるなんてプライドズタズタだこんちくしょう。
ちなみに俺と同じようにブラッドも着替えさせられていた。
あいつ人に服剥かれて強制的に着替えさせられたのに平気な顔してやがる、どういう神経してんだ。
「というかこっちの世界だったら、ある程度お偉いさんになったらメイドとかに服脱がされたり着替えさせられたりするもんだけどね~、て言うか少しは喜んでくれても良いじゃん。いつでも新品同然で臭くならないし破れても直ぐ直るそんでもってある程度の魔術とかだったら無効化しちゃう優れものだよ」
「うぅ、しらねぇよそんなもん……」
「俺の前にきていた服も同じ機能がついていたが……」
「魔王さんのは似合ってない!! なにあんなザッマオウって感じの服はだめだよ似合うのじゃないきゃ」
俺がセシルに着せられたのは、上は下に薄手のシャツその上に皮製の脇で止めるタイプのベスト、両手にはガントレット右の二の腕にアームレットというものをつけられた。下は普通のズボンで色は茶色、後、ブーツだ。
まぁ、ブラッドがきているのを着せられなかっただけ良かったと思う。両手には俺と同じようにガントレットをつけられていて――色は黒だ――ズボンは黒色で上のシャツも黒色だ。
ここまでは良い、でもなぜかブラッドの服はズボンもシャツもベルトやらチェーンがぐるぐると巻きついている。そして仕上げに黒のロングコート。
説明だけ聞くと怪しいが……まぁ、実際怪しい。
でも、なぜかブラッドには似合っている。
俺が着たら不審人物扱いだな、間違いなく……
「もう、とりあえず傷心状態から戻っておいでぇ~」
「分かった戻る」
いつまでも傷心状態になっていても仕方が無いので開き直る。
すると、セシルに訝しげな視線を向けられた。
あれ? この状況前にもあったような……そうかシャーロットとこの世界の扉の前で話したときもこんなんだったな。
「う~ん、なぜこんなにもあっさり戻ってきたのは謎だけど……まぁ、良いや。それよりもちょっとしたお話があるんだよね~」
セシルがそう言って一枚の紙を出した。
なにが書いてあるのかと受け取って読んでみる。
「……読めないし」
そう、すっかり忘れていたが俺はこの世界の出身じゃない、言葉が通じるので文字読めるだろうと思っていたのだが違ったようだ。
もう一回紙を睨みつけてみるがやっぱり読めない、仕方が無いので、すぐ横にいたブラッドに手渡す。
「……闘技大会について書いてあるな、これがどうした?」
「えっと、出てみるかどうかな~って」
「なるほど……すこし楽しそうだな」
ブラッドが乗り気なことを言い始めたので顔を青くする。
「ちょ、まさかブラッド出るなんて言い出さないよな?」
「だめか?」
セシルとブラッドが戦っているのを見たがあれでも2人とも全然本気を出していないように見えた。
そんな奴を出したりしたら滅茶苦茶なことになるに決まってる。
「魔王さんが出るなら僕も出ようかな~、決着ついてなかったし」
「おいおい、出なくて良いから」
ブラッドだけだったら大会を圧勝で終わるだけ――それでも十分滅茶苦茶だ――だろうが二人出たりしたら町が吹き飛ぶ。
いや比喩とかじゃなくて本気でそうなる。
俺の焦りとは裏腹にセシルは落ち着いた様子で大丈夫だよと俺の肩を叩く。
「いざとなったら、セイヤくんが命がけで止めてくれるよね僕達を」
「どこが、大丈夫だ!!」
「いっそ、お前も参加すればどうだ」
「なんでそうなるのだ、ブラッドよ」
俺がぐったりとそういうとブラッドが微かに笑った。
無表情じゃない表情って初めてみた……じゃなくて根本的に話が曲がってきてないか。
「なるほど、セイヤくんも出たいわけか」
「だから、違うって!!」
「まぁ、出てくれなくても良いけどもしかしたらうっかりで他の出場者に大怪我させちゃうかも」
「おい、それ脅してるだろ。脅してるよな!!!」
「うん」
おいおい笑顔でそこ頷くかそれも今まで見た笑顔の中で一番輝いてたぞ。
やっぱり、腹黒だなセシルは、しかも超ド級の。
「じゃあ、俺もそうしようか」
「いや、ブラッドものること無いからな……畜生でれば、良いんだろ出れば!!」
その後続く、不気味な沈黙に耐えかねて叫ぶと、2人がシンクロして頷いた。
はぁ、なんでこんなことになる。
こんな、最強2人に勝てるのかおれ?
さぁさぁ、セイヤくんに最強2人の相手をしてもらうとしますか。
でも、それはもうちょっと先の話かな?
少なくとも次の話では最強2人と戦うはめにはならないと思います。