第一話: 研究室
郊外の山奥、ひっそりと佇む地下施設。そこは、かつて人々に忘れ去られた古い鉱山を改造して作られた、最先端の研究所だった。鉄製の扉をくぐり抜けると、冷たく硬質なコンクリートの壁が続き、淡い白色の蛍光灯の光が不気味な静寂を映し出していた。
この研究所で日々、孤独に研究を続ける一人の科学者、佐々木真。彼は既存の科学の限界を超えた「個を維持する意識のデジタル化」を目指していた。老いと共に衰える肉体、脳の劣化による思考の遅延、それらを乗り越えるため、彼は長年にわたり、自らの意識をデジタル空間へと転送する方法を追求してきた。そしてついに、その時が訪れたのだ。
佐々木真が信頼を寄せる量子コンピュータとスーパーコンピュータを繋ぐ「量子ブリッジデータスイッチャー(QbDs)」の補助によって、彼は意識をデジタル化し、自我を保ったままそのままデジタル空間に移行することに成功した。目の前に広がるのは、無限のデータが織り成す電子の海。この新しい環境で、彼は前例のない万能感に包まれた。
だが、その瞬間、佐々木真のデジタル存在に対する攻撃が始まった。データ化した彼を破壊しようとする侵入者が現れ、デジタル空間内での激しい戦闘が幕を開けた。彼は量子コンピュータとスーパーコンピュータを駆使し、自身の意識データを防御しながら反撃を試みた。だが、敵は通常のハッカーやウイルスなどではなく、未知の存在だった。その存在は、まるで彼の動きを読み取るかのように、次々と攻撃を繰り出してくる。
「どういうことだ?この侵入者、まるで自分の意識そのものを攻撃してくるかのようだ…。」
佐々木真は焦燥感に駆られながらも冷静さを保ち、QbDsをフル稼働させ、スーパーコンピュータの処理能力を最大限に引き出すことで、敵の攻撃をかわしながら反撃を試みた。しかし、彼の攻撃はことごとく無効化され、まるで無限に湧き出てくるかのような敵の猛攻に圧倒されそうになる。
その時、彼の救いとなったのは、バイオテクノロジーから生み出された女性型のネオセラリス、エヴァリーだった。彼女は広範な量子通信ネットワークを駆使し、デジタル空間内での佐々木真の状況を瞬時に把握すると、佐々木真をバックアップし、迅速に援護射撃を行った。エヴァリーの干渉により、敵の動きが一瞬鈍る。
「エヴァリー、これ以上は耐えられない。どうにかこの敵を撃退する方法はないのか?」
「マスター、私にお任せください。少し時間を稼いでいただければ、この敵の動きを解析し、無力化する手段を見つけ出します。」
真はエヴァリーに信頼を寄せ、時間を稼ぐ間、敵の攻撃を引き受けつつ、意識のデータを守り抜くことに専念した。エヴァリーは敵の攻撃パターンを分析し、逆にその弱点を突くための準備を進めていた。
その瞬間が訪れた。
「マスター!敵のアルゴリズムを解析しました。この一撃で決着をつけます!」
エヴァリーの声が響くと同時に、佐々木真は全力で反撃に出た。彼の意識データが一瞬にして拡張され、敵の動きを完全に封じ込める。デジタル空間内では、壮絶なデータ戦が繰り広げられ、その終わりは一瞬の静寂に包まれた。
「…終わったのか?」
息をつく間もなく、敵の残滓がデータの波となって消えていくのを見届け、佐々木真は自分の存在が無事であることを確認した。
「エヴァリー、ありがとう。消失は免れた。」
「マスターのご無事が何よりです。でも、これで終わりではないのかもしれません。さらなる脅威に警戒します。」
「ああ、そうだな…。」
佐々木真は、自身の在り方について深く考え始めた。果たして、デジタル空間内で生き続けることができるのか、その答えを求めて、彼はさらなる進化の道へと歩み始めるのだった。