宴会に現れた赤鬼 2
結奈と辰則さんが言い争いをしている背後に、突然黒いスケルトンが現れ、二人に拳骨を入れると、今度は結奈の容姿に似た大人の女性に姿を変え、自分が獅子蕪木家のご先祖だと名乗る獅子蕪木梅花。その突然の登場にその場にいた全員が驚く中、辰則さんが拳骨を食らった頭をさすりながら、梅花と名乗る女性に食ってかかる。
「おめぇが獅子蕪木梅花で、俺たちのご先祖様だって? ……何か証拠でもあるんだろうな?」
辰則さんは疑いの眼差しでご先祖様を問い詰めると、彼女はケロッとした表情で答えた。
『証拠か? じゃあ、あたしが決めた家訓でも言ってやろうか? 一つ、『喧嘩を売られたら、相手を地獄の果てまで追いかけて必ず止めをさせ』。一つ、『戦うときは小細工せずに正面突破』。一つ、『家族を裏切る真似はするな』。一つ、『受けた恩は絶対に十倍にして返せ』だ。……これでもまだ信じられないか?』
「……確かに獅子蕪木家の家訓で間違いねぇな。……でも、まさか自分のご先祖様と会うことになるなんて、信じられねぇぜ。はぁ~……」
辰則さんは盛大にため息を吐き、机に置いてある最後の酒瓶に手を伸ばすが、梅花さんが酒瓶を先に掠め取り、まるで風呂上がりの牛乳を飲むかのように片手で酒瓶を持ちながらお酒を飲み干す。
「んぐっ、んぐっ、プハァ~……。あたしもまさか再び現世に蘇るなんて思いもしなかったがなぁ。あっはっはっは!!」
梅花さんが豪快に笑う姿が辰則さんとそっくりで、僕は思わず見入っていると、やっと拳骨の痛みが復活した結奈が、梅花さんにおずおずと尋ねる。
「……あの、ご先祖様、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。いつからこの世界に戻って来ていたんですか?」
「いつからこの世に舞い戻ったかって? それわな~」
そう言って、梅花さんがゆっくりと僕に指を向けた。
「そこの客人が病院でお前を治療してくれた辺りからだな。でも、最初は霊魂の状態でお前の周囲でしか漂えなかったが、お前がダンジョンでレベルを上げてスケルトンを呼び出せるようになったと同時にあたしもスケルトンの姿でこの世に再び地に足をつけることが出来たってわけだ。もっとも、人の姿に戻ることが出来たのは、そこの客人の魔力を少しだけ貰っているからだな。……勝手に魔力を貰ってすまないな、客人」
梅花さんは僕に頭を下げて謝罪する。
「いいですよ、少しだけなら。でも、どうして今まで結奈たちの前に現れなかったのですか?」
「そうですよ、ご先祖様! 何で姿を見せてくれなかったんですか?」
僕と結奈が梅花さんに疑問をぶつけると、彼女は不満げに答えた。
「そんなの決まってるじゃねえか。……昔とは違い、魔物とかいう野獣が蔓延る現代で、あたしの子孫たちがどんな生き方をしているのかずっと観察していたんだが……ショックだったぜ、まさか小さいノミ野郎たちに簡単にやられちまうとは、はぁ~……情けない」
梅花さんはそう言ってため息をつく。
「ご先祖様、見ていたんでしたら助けてくださいよ……」
「はぁ~……。結菜、ちょっと来い」
結奈は軽く文句を言うと、梅花さんが彼女の腕を掴んで部屋の隅に引っ張り、ぼそぼそと内緒話をし始めた。