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宴会前の一幕

「では、アニキたちはこちらで待っていてください。あたしはまだ準備があるので……」


 そう言って結菜は僕たちを部屋に案内すると、僕たちに一礼をして、宴会の準備をしている物音のする方へ歩き出して行った。そして、僕たちが部屋に入っていくと……。


「おう! 待ってたぜ! 灰城の坊主とその御一行。今日はわざわざ来てもらって悪かったな。今日は楽しんでいってくれや。がっはっはっはっ!」


 獅子蕪木組の組長で結奈の父親でもある獅子蕪木辰則が、お酒を瓶を片手に持ちながら上機嫌に笑って僕たちを出迎えていた。そして、既に出来上がっている姿を目撃したルトたち三人が獅子蕪木辰則の傍に近づいていき自分たちの疑問をぶつける。


「結奈お姉ちゃんのお父さんは、もうお酒を飲んでいるの? 結奈お姉ちゃんを手伝わなくていいんですか?」


「おう! 俺はこの組の組長だからな! 堂々と構えていればいいのさ!」


 初めにルトが質問して、顔を真っ赤にさせて上機嫌な辰則さんが答えると、次は翼ちゃんが首をかしげながら質問する。


「……一番偉いから何もしないの? でも、碧お兄ちゃんの家では、お兄ちゃんも雛お姉ちゃんと一緒に料理をするよ?」


「そうだよ。母は、いつも皆に美味しいご飯を作ったり掃除したりしているよ」


 翼ちゃんとイクスの純粋な質問に、辰則さんはたじろぎながら答え。


「そ、それは、碧の坊主が家事をするのが好きなだけであって……。おい、碧の坊主と嬢ちゃんたち! 見てないで助けてくれ!」


 三人の問いかけに困った辰則さんは、傍で黙って見ていた僕たちへ、救いを求められたので助けることにした。


「翼ちゃん。僕は料理が好きだからみんなと一緒に準備するけど、普通の家庭ではお母さんが料理を準備しているんだよ」


「そうよ、翼。料理や家事をしない代わりにお父さんは仕事をして頑張ってお金を稼いでくるんだから」


 僕と雛が優しく三人に諭す。でも、その答えに更に疑問を持ったルトは。


「え? でも雛お姉ちゃんたちも母さんと一緒にダンジョンに行ってお金を稼いでるよね?」


 ルトの疑問に今度は千香、凛、空ちゃんが答える。


「それは私たちがステータスを獲得したからできることッス」


「そうなの~。でも、その代わりに、ダンジョンから魔物を外に溢れださないようにして、一般の人たちを守っていく重要な役目があるんだよ~」


「ルトちゃんたち三人に解りやすく説明すると、冒険者は一般の人たちを守るためにダンジョンに入って魔物を倒す大事な仕事なんだよ」


「へ~、そうなんだ。じゃあ……」


 そうやって、空ちゃんたちがルトたち三人の注意を逸らしている隙に、僕が辰則さんを助けて距離を取り、ホッと一息を吐いて胸の部分に片手を置いて『助かった』と呟く辰則さんに向かって僕は頭を下げた。


「すみません。あの子たちがご迷惑をおかけしまして……」


 謝る僕に対して辰則さんは自分の頭を掻きながら答え。


「……いや、別に迷惑と思っておらんが、わしがあの子たちに質問に対して教育上よくない発言をしないか心配でのう。結奈から変なことを言うなと釘を刺されておってのう。それよりも……」


 姿勢を正して正座をした辰則さんは僕に向かって頭を下げた。


「結菜を病気から助けてくれただけでもありがたいのに、また、吸血毒ダニとかいうあの小さな魔物の群れからわしらを救ってくれたことに感謝してるぜ。助けてくれてありがとよ。がっはっはっはっ!」


 辰則さんは僕にそう礼を言って豪快に笑っていると、結奈が部屋に入って来て。


「皆さん準備が出来ましたよって……親父!? 姿が見えないと思ったらこんなところにいた! 親父、アニキたちに迷惑はかけてないでしょうね」


 結奈は疑いの眼差しで辰則さんに視線を向けると、辰則さんは視線を逸らしながら答え。


「め、迷惑なんてかけてねーよな、碧の坊主」


「そうですね、全然迷惑じゃありませんでいたよ」


 僕がそう答えると、やっと納得した結奈が笑みを浮かべ。


「そうですか、それならいいんですけど……。では、宴会の準備が出来たので会場にどうぞ」


「それじゃあ、行こうじゃねえか坊主。がっはっはっはっ!」


 そう言って立ち上がった辰則さんが、隣で座っていた僕の肩を軽く叩き、上機嫌な様子で会場に向けて先に歩き出し、僕たちはそんな辰則さんの後姿を見ながらゆっくりと後を追いかけていくのであった。


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