獅子蕪木組のお出迎えとイクスの寸劇
「……イクス。本当にその恰好で結奈の家に行くの?」
「うん? そうだけど?」
結奈から獅子蕪木組の人たちが無事に体調を回復したと連絡があり、改めて彼女の屋敷に招待された僕たちは、皆で結奈の家に向かっていた。しかし、イクスの奇妙な恰好について、僕は先頭を歩く娘に尋ねていた。
今のイクスは、白いテンガロンハットに黒いサングラス、小さな棒付きキャンディをくわえ、白いロングコートを肩に掛けている。
その姿に皆は苦笑いを浮かべていた。最初、翼ちゃんも真似して同じ格好をしていたが、雛にすぐに止められていた。
「行く前に結奈と電話で話してたけど……それと関係が?」
「ふふ~、すぐにわかるよ、母。よっと、到着~」
イクスとのそんなやりとりをしながら住宅街の角を曲がると、結奈の屋敷の入り口に到着した。そこで目にした光景に驚く。何故なら……
「「「ようこそいらっしゃいましたアニキ! そして、アニキのご家族の皆様! 歓迎いたします!」」」
屋敷の入り口で獅子蕪木組の人たちが左右に列を作り、一斉に頭を下げて出迎えていたのだ。
「お、お出迎えありがとうござ「よう! 兄弟! 景気はどうだい?」ちょっと、イクス!!」
僕が礼を言おうとするのを遮り、イクスが組員たちの肩を軽く叩きながら寸劇を始めた。
「へい! イクスさん。お陰様で体調は元通りでさぁ! これも、碧アニキとそのご家族様のお陰です! 深く感謝いたしますぜ」
近くにいた組員が揉み手をしながら深く感謝の言葉を伝えると、イクスは誇らしげに体を反らせた。
「そうでしょ~! そうでしょ~! もっと感謝してもいいんだよ~。むふふ~。……結奈お姉ちゃんの大切な家族なんだ。またピンチになったらボクと母が助けるさ……ね、母!」
「……まぁ、勿論助けますけど」
イクスの寸劇に巻き込まれた僕は戸惑いながらも応え、獅子蕪木組の人たちは声を揃えて合いの手を入れた。
「「「おぉ~、流石です。痺れますぜ、お二方」」」
そのやり取りが門の前で盛り上がっていると、いつの間にかやって来た結奈が申し訳なさそうに近づいてきた。
「あの~……イクス、もう満足した? 満足したならみんな家に入ってほしいんだけど……これ以上騒がれるとご近所さんに迷惑が掛かっちゃうから……」
「ごめん結奈。さぁ、イクスもう満足したでしょ。みんなと中に入ろう」
「は~い。レッツゴ~!!」
イクスはご機嫌な様子で屋敷に向かって進み出した。
「……ごめんね結菜。イクスが迷惑をかけて」
僕が平謝りすると、結奈は少し頬を引きつらせて微笑んだ。
「あははっ、いいんですよアニキ。組の連中も体調が回復した反動で、はしゃぎすぎているだけだと思いますし、ガス抜きには丁度いいです。それより、親父が待っていますので屋敷の中へどうぞ」
そうして僕たちは屋敷の中に入っていった。