温かな見送り
すき焼きパーティーが終わり、午後九時を過ぎた頃、帰宅する結奈を玄関の入り口まで僕は見送りに来ていた。
「アニキ、今日はありがとうございました」
結奈はそう言って僕に頭を下げ、顔を起こした時に見た彼女の笑顔は楽しそうに笑っていた。今日一日が余程楽しかったようだ。
「気を付けて帰ってね。……でも、本当に家まで送らないでいいの?」
「大丈夫ですってアニキ。あたし一人で帰れますよ。心配しすぎです。……それに、アニキがあたしを家に送ってくれた後の方が心配です」
「心配しなくても、僕は大丈夫だと思うんだけどなぁ」
暗い夜道を結奈一人で帰宅させるのが心配になって訪ねた僕だが、逆に彼女に心配されてしまう始末。そんな僕と彼女が話していた時、ルトが両手に大量の野菜が入ったビニール袋を下げて、慌ててやって来た。
ルトは先程までうとうとと船を漕いで眠っていたが、結奈が帰ると気づいて慌てて準備したらしい。
「ちょっと待って、結奈お姉ちゃん! はいこれ! 母さんと一緒に育てた栄養たっぷりの新鮮な野菜。結奈お姉ちゃんの家でまだ本調子じゃない組の人たちに食べさせてあげて」
「……ありがとな、ルト。組の皆のことまで心配してくれて。ちゃんと組の皆にこの野菜を食べさせるよ」
野菜が入ったビニール袋をルトから受け取った結奈の目元には、涙が少し浮かんでいた。
「……アニキ、今日、勇気を出してアニキに会いに来てよかったです。初めて友達も出来て、買い物をして、一緒にご飯を食べて、今日は本当にあたしにとって最高の一日でした。……あの、だから……」
結奈がもじもじと言い淀んでいるのを察した僕とルトは、彼女よりも先に笑みを浮かべて優しい声をかけた。
「……結菜が来たい時にいつでも来ていいよ。買い物やダンジョンに行くとき以外は、普段ここでみんなとのんびりしてるからね」
「私も結奈お姉さんが遊びに来てくれるのを楽しみに待ってるよ」
「!? ありがとう! アニキ、ルト! じゃあ、また遊びに来ますね。 ……っと、そうだ! 」
結奈が玄関から出ようと一歩踏み出したところで立ち止まり、僕たちの方を振り返る。
「来週に吸血毒ダニからあたしたちを助けてくれたアニキたちに、親父がぜひ組を上げてお礼がしたいそうなので楽しみにしていてください。じゃあ、おやすみなさ~い」
僕たちにそう告げた結奈は、スキップしながら帰っていき。
「うん、わかったよ。おやすみ~」
「結菜お姉さん、またね~」
そんな彼女の嬉しそうな後姿を見た僕とルトは、手を振って彼女の姿が見えなくなるまで見送った。