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すき焼きパーティーの前に

 皆とデパートの買い物から帰ってすぐ、僕と千香はソファーで仮眠をとり、目覚めたときには時計の針が午後七時を指していた。僕は急いで晩御飯のすき焼きの準備に取りかかった。


「よし、すき焼きの準備完了。皆、準備できたよ~って……あれ? 空ちゃんは?」


 雛、千香、結奈と一緒に晩御飯のすき焼きの準備を終え、他の皆を呼ぼうと辺りを見渡したが、空ちゃんが居間にいないことに気がついた。僕は三人に彼女の居場所を尋ねる。すると、千香と雛は知らないようだったが、結奈だけが空ちゃんの行き先を知っているようで。


「……ああ、空ならアニキの部屋にいると思いますよ。だって、アニキと千香がソファーで眠っていたときに『碧お兄ちゃんが寝てる隙にお宝を探してくる』って言って、スキップしながらアニキの部屋に向かって行きましたよ。何してるんですかね?」


 結奈が首を傾げながら、僕に彼女の居場所を教えてくれた。


「僕の部屋にいるの? じゃあ、ちょっと空ちゃんを呼んでくるねって、どうしたの? 二人とも?」


 そう言って、僕はエプロンを壁に掛け、自分の部屋に行こうとするが、雛と千香に肩を掴まれて止められた。


「ちょっと待って、碧君! ……ウチと千香が呼んでくるから」


「そうッス、碧っちはここで待ってて欲しいッス」


「そう? じゃあ、お願いって……あ、もう行っちゃった……」


 二人は僕の返事を待たずに、空ちゃんがいる僕の部屋に向かって行った。……そして、他の皆を呼んでテーブルの席について待っていると、数分後、三人が話しながらやっと二階から降りてきた。


「雛お姉様、千香お姉様。お願いですから、私が碧お兄ちゃんの部屋でやっていたことは碧お兄ちゃんには……」


「はぁ~……。言わないでおいてあげるわよ」


「空っち、碧っちの部屋をあんなに散らかして……後でちゃんと片づけるッスよ」


「……はい、ちゃんと片づけます。だから、碧お兄ちゃんには……」


 空ちゃんは雛と千香に懇願するように頼んでいる。僕は空ちゃんが部屋で何をしていたのか気になり、彼女に尋ねると、空ちゃんは僕の顔を見るなり、顔を赤くして声のトーンを高くしながら焦ったように答えた。


「あっ、あはは。……ちょっと、お宝探しをしてただけだよ」


 僕はそんな様子の空ちゃんの顔を両手で掴み、正面を向かせて視線を合わせながら尋ねる。


「……ふ~ん、で? さっき、僕の部屋を散らかしたって聞こえたんだけど? 変なイタズラとか仕掛けてないよね?」


「そ、そんなことしてないよ。それに部屋を散らかしちゃったのは、思春期の乙女なら誰でも考えることだよ。そうですよね!お姉さま方!?」


 空ちゃんは雛と千香に助けを求めるが……。


「……まぁ、確かに、好きな人の部屋にどんな物があるか調べてみたい気もするけど……」


「でも、そう考えるだけで、実際に行動を起こす人なんて滅多にいないッス。でも、あれは明らかにやり過ぎッス」


 助けを求めた二人は、空ちゃんの弁解をせず、むしろ注意をしていた。


「だ……そうだけど」


 僕は再び空ちゃんに視線を向け、少し圧をかける。


「あ、碧お兄ちゃん、部屋を散らかして、マジでごめんなさい! ……でも、お宝はちゃんと見つけました!」


 空ちゃんが謝りながら僕に一枚の写真を差し出してきた。それを見た僕は驚愕した。


「えっ!? これは僕が無くしたと思っていた両親と最後に撮った写真。ありがとう、空ちゃん。見つけてくれて。この写真に免じて部屋を元通りに片づけてくれたら不問にするよ。……次は無いからね」


 僕が声のトーンを落として少し厳しく警告すると、空ちゃんは敬礼のポーズをしながら反省の態度を示した。


「はい、もうやりません!」


 反省している空ちゃんを許し、僕は両親が映っている写真に視線を落とす。これは、小学生の頃、唯一入学式のときに校門で両親と三人で撮った貴重な一枚だ。まさか、こんな形で見つかるなんて。


 僕が両親の写真を見つめていると、雛と千香がその写真を覗き込んできた。


「この人が碧君のご両親なの?」


「ほえ~。この人たちが碧っちの両親ッスか。優しそうな人たちッスね」


 二人の言葉を聞きながら、僕は写真を見つめ、思い出しながら答える。


「うん、もう両親との思い出はあまり覚えてないけど、毎日が楽しかったことだけは覚えてる」


「そうだよ、碧お兄ちゃんのご両親は学生時代からラブラブなカップルで有名だったって、お母さんから聞いてるよ。私たちもそんなラブラブな家庭を目指して頑張っていこ~」


 空ちゃんが拳を突き上げて宣言する様子に、僕はため息をつく。


「……ラブラブな家庭を目指すのはいいけど。……まずはご飯を待っていた皆に謝ろうね。皆、空ちゃんを待っていたんだから」


 テーブルに座っているルトたちに目をやると、皆がお腹を空かせながら空ちゃんを見つめていた。


「……あはは。ごめんなさい! じゃあ、すき焼きパーティーを始めよう!」


 空ちゃんは頭を掻きながら皆に謝罪し、席に座ると、鍋の近くに置いてあった肉を鍋に投入していった。


「……もう、調子がいいんだから。雛も千香も席について食べようか」


「そうね、もう、いい加減お腹すいちゃったし、食べましょうか」


「賛成ッス。今日は食べまくるッスよ」


 そうして僕たちは席につき、皆と楽しく談笑しながらすき焼きをつついた。



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