表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/169

獅子蕪木結奈サイド~あたしの気持ち~

 アニキたちとデパートでの買い物から帰ってきたあたしは、晩御飯の準備が始まるまでの少しの間、台所近くのテーブルに座って、雛や凛が台所から来るのを静かに待っていた。


 一緒に台所のテーブルで待っている予定だった空は「碧お兄ちゃんが寝てる隙にお宝を探してくる」という謎の言葉を残し、2階にあるアニキの部屋に走って行った。


 アニキの娘のルト、イクスと雛の妹の翼はというと、居間にある大きなテレビでアニメを鑑賞するのに夢中だった。


「今日はどんなお話になるのかな? ルトちゃん?」


「えーっとね~。前のお話は、リリーが北海道に出てきたドラゴンを退治する話だったから~……」


「あっ! オープニングが始まったよ!」


 あたしは寝息が聞こえる方にチラッと視線を向けると、ソファーでアニキと千香が仲良くお互いの体を支え合うかのようにして静かに眠っていた。その寄り添う姿が羨ましいと思う自分がいた。


(……いいな~。あたしもアニキとあんな風になれるかな)


 そんなことを思いながら二人を眺めていると、台所からやって来た凛が、コーヒーの入った二つのマグカップを持ってきて、片方のコーヒーをあたしに差し出し、向かいの椅子に座った。


「はい、結奈ちん。どうぞなの~」


「ありがとう、凛。……いただきます」


 差し出されたコーヒーを飲んで、ほっと一息ついていると、


「どう? 今日は楽しかった? 友達と出かけるの、初めてだったんでしょ?」


 コーヒーの入ったマグカップを持って、遅れて台所から帰ってきた雛が、あたしを心配しながら凛の隣の椅子に座り、尋ねてきた。


「……ああ、友達と買い物に出かけるのがこんなに楽しいなんて思いもしなかった。ありがとう、あたしを買い物に誘ってくれて」


 あたしは雛と凛に頭を下げ、自分の正直な気持ちを伝えた。二人は微笑んで、


「そんなことでウチたちにお礼を言わなくてもいいわよ。結奈を買い物に誘ったのは……」


 雛があたしにそう言ってアニキと千香のいるソファーに顔を向けると、二人の寝顔を見て笑みを浮かべた。


「……アニキ」


 あたしはアニキを見て、そう呟く。


「そうだよ~、お礼を言うなら碧君に言ってほしいの~。結奈ちんは知ってる? 私たちも結奈ちんのように、碧君にピンチだったところを助けてもらったんだよ~」


「えっ!? そうなの! 詳しく!」


 突然、凛から告げられた話に興味を持ったあたしは、テーブルから身を乗り出して話を聞こうとしたが、雛が咳払いをしてあたしを落ち着かせた。


「……話してあげるから落ち着きなさい。……でも、ウチたちの話を聞いてもつまらないと思うわよ」


「それでもいいです! 聞かせてください!」


 あたしの熱意に観念した雛は、ため息をついてアニキとの出会いを話してくれた。


「はぁ~……。わかったわ。あれは~……」


 雛からアニキとの出会いの話を聞いた後のあたしは、涙を流して感動する。


「……グスッ。良かったね、雛。アニキに助けてもらって……ん!? ……ってことは、雛たちとの出会いがなければ、あたしはまだ病院に入院してたってこと!?」


 あたしは衝撃の事実に気が付くと、雛はその後の様子を想像しながら答えた。


「ん~……そうなるわね。ウチたちが碧君に出会わなければ、当然、妹の翼も入院したままだったわけだし、碧君の善意がなければ、あの病院で入院していた大勢の末期の患者も危なかったわね」


 そう、雛に言われ、自分の最悪の末路を想像してゾッとする。


「そうなの~。そんな優しい碧君だからこそ、彼の傍で一緒に歩いていきたいと思ったの~。結奈ちんもそうなんでしょ~。さっきから碧君を見てるのバレバレだよ~」


 凛に今の自分の気持ちを当てられてドキッとしたあたしは、思い切って正直に打ち明けた。


「そ、そうだよ! アニキの彼女である二人には悪いと思っているけど、あんなに何度も助けられちゃったら、好きになっちゃうじゃん!」


 あたしは雛と凛に自分の素直な気持ちを話し、否定されると思い、目を閉じて覚悟を決めるが、二人から意外な言葉が返ってくる。


「いいんじゃない。好きになっても」


 しれっと雛に言われ、あたしはあっけに取られていると、凛も手を合わせながら賛同した。


「そうだよ~。じゃあ、結奈ちんも碧ファミリーの一員だね」


 否定されると思っていたあたしは茫然と聞き返す。


「……え、いいの?」


「ウチたちは吸血毒ダニの事件が解決した時から、薄々こうなるんじゃないかって、皆と話してたのよ。結奈はウチたちと仲良くできそうだし、全然いいわよ」


「私も賛成なの~」


「よ、良かった~」


 雛と凛の話を聞いて安堵したあたしは、テーブルにうつ伏せになって顔を隠し、笑みを浮かべて喜んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ