それぞれのお買い物 3
「では、よろしくお願いします」
僕は受付の女性従業員が持っているトレーに、僕と千香が当てた宝石の原石を預けて加工してもらうように依頼をしていた。
まさか、興味本位で挑戦して買った石が見事に的中し、宝石の原石を獲得できたことに驚きを隠せない僕と千香。
「はい、確かにお預かりいたしました。受け取りは一週間後になります。……あの、お連れの方は大丈夫でしょうか?」
「あはは……」
女性従業員が千香を見ながら心配して僕に尋ねるのも無理はない。僕の隣に立っている千香は、スタッフからダイヤモンドの原石を当てたことを告げられてからずっと、口を開けて放心状態で固まっている。
僕は心配してくれているスタッフにお礼を告げて受付から離れ、未だに放心している千香の手を握って、近くのエスカレーター付近にある木製の長椅子に千香を座らせた。そして、長椅子のすぐ後ろに設置されている自販機から冷たいスポーツドリンクを購入して、千香の首筋に冷たいスポーツドリンクをピタッと付けて千香を放心状態から覚醒させる。
「ひゃ!! 冷たい!!」
冷たいスポーツドリンクを首筋に当てられた千香は、小さな悲鳴を上げながらその場で跳び上がるように椅子から立ち上がり、冷たいスポーツドリンクを当てた犯人の僕に気付き、軽く注意をしてくる。
「……もう、碧っち。そういうイタズラは駄目ッスよ。めっ!」
「ごめんね、千香。……でも、こうでもしないと千香が戻ってきそうになかったから。千香は自分でダイヤモンドを当てたこと、覚えてる?」
「……そうだったッス。私、ダイヤモンドを当てちゃったッスね。は!? あのダイヤモンドはどこッスか?」
千香は自分がダイヤモンドを持っていないことに気付き、慌てて探し始めたので、僕は千香を椅子に座らせて落ち着かせた。
「落ち着いて、千香。とりあえず、宝石は原石の状態のままだから、店の方で無料で加工してくれるよう頼んでおいたよ。それから追加料金でネックレスか指輪にするかは、次に受け取りに来た時までに考えておいてくださいって」
「そうだったッスか。無くしてなくて良かったッス。」
僕の話を聞いた千香は冷静さを取り戻し、座っている椅子の背に自分の体を預けて安心したようにホッと一息ついて、だらりとしている。
「千香はダイヤモンドはネックレスにする? それとも指輪にする?」
僕が千香に尋ねると、千香は笑顔になりながら即答する。
「それはもちろん指輪にするッス。……いつか、私と碧っちの子供ができた時に指輪を見せて、子供に言ってやるッス『このダイヤモンドはお母さんが当てた物なんだよ』って」
「いいね、千香。そういう未来が実現できるように、僕、頑張るよ」
「もちろん、私も一緒になって頑張るッスよ」
そう言って千香は立ち上がり、僕の手を引いて立ち上がらせると、
「それじゃあ、碧っちが欲しがっているハンモックを買いに行くッスよ。しゅっぱ~つ!!」
千香が元気よく笑いながら、僕の手を握りグイグイ引っ張って連れられていく姿に、周囲の人に微笑ましく見守られながら、僕たちはハンモックが売っている場所に歩いていくのであった。