吸血毒ダニ駆除&救助作戦 4
「う~……、やっと、終わった。……あ~、気持ち悪い」
二時間にも渡る迫りくる吸血毒ダニたちの集団の駆除に無事に成功した僕は、クイーンスライムの姿から元の人の姿に戻り、無事に終わったことに安堵するが、僕の周囲にある足元の小さな小石が吸血毒ダニに見えて仕方がない。もし、今日眠ってしまったら先程の光景を思い出しそうだ。
夜空を見上げると、月がすっかり真上に昇っており、かなりの時間が経過したことがわかる。。
「……あはは、お疲れ、碧お兄ちゃん。私が提案した作戦が上手くいってよかったよ」
空ちゃんは僕に申し訳ないと思うものの、自分の立てた作戦が上手くいってご満悦だ。
「でも、あの作戦は今後はやめた方がいいと思うの~、碧君のトラウマになっちゃう」
「そうだよ、空お姉ちゃん。今後はあの方法はダメだよ。母さん、大丈夫?」
凛とルトは、僕の顔色が悪いのを見て、空ちゃんにダメ出しをしている。そんな中、スライムの娘が呑気な声で僕たちに話す。
「次の機会があれば今度はボクがやるよ、母に無理はさせたくない。それに、一方的に蹂躙するの楽しかったしね。それより母、僕の名前を考えてくれた?」
「もちろん考えたよ。名前は『イクス』でどうかな?名前を考えた由来はスライムと僕の名前の文字の共通の『イ』とクイーンスライムの僕の姿に似てるから頭文字の『ク』、最後はスライムの『ス』でイクス。どう?気に入ってくれた?」
「イクス、イクス、イクス……うん、母、素敵な名前をありがとう。今日からボクの名前はイクス。ルトお姉ちゃん、空お姉ちゃんたちもよろしくね」
イクスは自分の名前を繰り返し呟くと、僕の腕に掴まり、ルトや空ちゃんたちに向かって無邪気な笑顔で挨拶していた。
そして、吸血毒ダニを駆除できたことを報告するために、屋敷の中に僕たちは入って行った。
※
『おおっ、灰城様。こちらに来られたということは……』
獅子蕪木組の方たちが避難している大部屋に入ると、獅子蕪木組の方たちはまだ目を覚ましていないようだ。見守っていたセバスさんが、僕に尋ねながら前に近寄って来る。
「うん、無事に吸血毒ダニの駆除を完了したよ」
僕がそう告げると、セバスさんは正座をして僕に丁寧に頭を下げてお礼を述べる。
「この度は本当にありがとうございます。きっと獅子蕪木組の方たちも灰城様に感謝することでしょう。しかし、申し訳ございませんが、ご覧の通り、獅子蕪木組の方たちはまだ目を覚ましておりませんので、後日改めてお礼をさせていただきます」
「うん、わかったよ、セバスさん。僕たちは今日はお暇するね」
『ならばせめて門の入り口までお見送りさせてもらいます』
セバスさんにお見送りされる中、長時間クイーンスライムになってだいぶ疲れた僕は、とにかく早く家に帰ってご飯が食べたい一心で、少し歩く速度を速めて入り口の方に向かった。すると、お腹が鳴り始め、ルトが心配して尋ねてくる。
「母さん、おなかが減ったなら私がコンビニで何か買ってこようか?」
「大丈夫だよ、ルト。家までは我慢できるから」
僕はそう言って我慢するが、ルトの言葉に反応するかのように再び腹の音が鳴り始める。
「もうっ、碧お兄ちゃん、無理しちゃって。じゃあ、急いで帰ろうか。」
「さっき雛たちに連絡しておいたの~。もうこんな時間だからすき焼きは無理だけど、晩御飯作って待ってるって」
どうやら凛がいつの間にか雛たちに電話で連絡をしてくれていたようだ。
「ボク、生まれて初めてのごはんだから楽しみだよ~。ね~、母、早く行こう!」
「ちょっと、待ってイクス。まだ、家の場所分からないでしょ。」
イクスはまだ家の場所が分からないのに一人で先に進もうとするので、ルトに助けを求める。
「ごめん、ルト。イクスの手を繋いで離れないようにしてくれる?」
「わかったよ、母さん。イクス、お姉ちゃんと手を繋ごうか」
「は~い」
こうして、僕たちの先頭を歩く、お姉ちゃんと手を繋いでごきげんなイクスと妹が出来て喜んでいるルトの背中を見て、雛たちが待っている自宅に向かって行った。