飛騨君と再会
放課後になって、空ちゃんたちが蓮華先生に呼ばれ、僕は一人でルトのいる広場に向かうことにした。
「あ、灰城君、久しぶり。新入生の代表挨拶の時に灰城君が挨拶してるのを見て驚いたよ」
「あはは、僕も新入生の代表で挨拶することになるとは思わなかったよ。飛騨君、久しぶり、元気だった?」
僕は、ルトが待っている魔物の広場で迎えに行くと、入学試験の時に友達になってなかなか会えなかった飛騨君とばったり再会し、僕たちは握手を交わした。
飛騨君の隣にはオオカミの魔物がいて、よく見ると、ルトがこの広場で魔物たちと友達になった時に紹介してくれた、僕が最初に頭を撫でたオオカミだった。
「紹介するよ。この子はクーって言うんだ。最近フォレストウルフに進化して、植物を操る魔法が使えるようになったんだよ。少しの時間しか足止めできないけど、採取が専門の僕としては逃げる時に助かってるよ。ところで、入学試験の時に灰城君が言ってたゴブリンの子ってあの子?」
飛騨君が指さす方向には、まるでアクション映画のワンシーンのように、ルトがハーピィーのブルーちゃんの両足に掴まってぶら下がり、二十メートル上空を飛び回っていた。
「あはは~、風が気持ちいい~、ブルーちゃん、もっと早く~」
「ピュイ!!キュイ~~~!!」
(ちょっと、ルト!?あんなにスピードを出して大丈夫なの!?落ちたりしない!?)
ブルーちゃんはスピードを上げて加速し、二人とも楽しそうに空を満喫しているが、そんな二人を見ている僕としては、ルトが落ちたらどうしようと不安になり、ハラハラしながら見守った。
しばらくするとルトたちは満足そうに空から降りてきて、二人は満足そうに地面に笑いながら寝そべっている姿を見て、僕はホッと胸を撫で下ろした。飛騨君は『大変そうだね』と言って苦笑いをしている。
「ふ~、良かった、ルトが怪我をしなくて。あと最近になって、今うちの子と遊んでいるハーピィーの子に卵を譲ってもらったんだ。ほら、これだよ」
僕は飛騨君に見えるように体を横に向けて、背中に背負っているハーピィーの卵を見せた。
すると、飛騨君は僕の背負っている卵の大きさに驚き、まじまじと見つめながら興奮したように話す。
「え、これがハーピィーの卵!?初めて見たよ。ちょっと触らせてもらってもいい?」
「うん、もちろんいいよ」
僕が頷いて返事をすると、飛騨君は僕の背負っている卵に手を伸ばして少しだけ触ると、申し訳なさそうにすぐに離れる。その様子に僕は疑問を覚えながら首をかしげて飛騨君に尋ねる。
「もういいの?」
「ありがとう、灰城君。お陰で貴重な体験をさせてもらったよ。灰城君が育てている卵に僕の魔力が移らないとも限らないから、これだけで十分だよ」
どうやら飛騨君は魔物の卵に関する知識があるようで、卵に配慮してくれたようだ。
「そういえば、灰城君のいるクラスで入学式が始まる前に問題が起きたんだよね。大丈夫だった?Aクラスだけ入学式に遅れて入ってきたからちょっと心配だったんだ」
心配して僕に聞いてくる飛騨君に対して、僕は入学式のことを思い出しながら、若干頬を引きつらせて遠い目で答える。
「……ははは、担任の先生が僕を見て暴走しちゃってね、出会った数秒で無理やり気絶させられるほどのキスをされて、次に目が覚めた時は代表挨拶だったよ……大変だった」
「Aクラスは大変そうだね。僕はCクラスだったけど、一部の生徒以外は平和そのものだよ」
飛騨君の何とも言えない言葉に疑問を覚えた僕は、飛騨君に尋ねた。
「一部の生徒以外?何か問題があるの?」
「いや~、問題を起こしてるんじゃないんだけど、ビジュアルが怖くて。無数のスケルトンを召喚できる女子生徒がいるんだけど、常に両脇に人型のスケルトンを召喚していて、ホラー系が苦手な僕としては怖くて……」
「スケルトンか~、ちょっと見てみたいかも」
スケルトンにはさまざまなタイプがあり、人型もいれば動物型のスケルトンもいて、バリエーションに富んだ魔物だ。どのスケルトンも目の部分には不気味に光る青白い鬼火が灯り、心臓部分には魔石がある。この魔石が破壊されると、骨の部分は消えて魔石だけが残る。骨に見える部分は魔法で構成されているからだ。一体なら動きが遅くて簡単に倒せるが、集団で行動するスケルトンたちは倒す難易度が跳ね上がり、非常に危険な魔物になる。
「……見てみたいって、灰城君は度胸があるな~。その女子生徒、獅子蕪木結奈さんって言うんだけど、父親が獅子蕪木組っていうヤクザの組長なんだ。この学校に通う条件として、常にスケルトンを召喚して護衛させるようにって約束させられたって、笑いながら自己紹介の時に言ってたんだよ。でも、話しかけようとするとスケルトンたちがこちらを見つめてくるから、話しかけることは出来なくてクラスで浮いてしまったんだ」
「でも、スケルトンは見てくるだけで襲ってくることはないんでしょ?だったら、話しかけても大丈夫じゃない?」
「……そうなんだけどね。ただ、そんな話しかけられない状況が続いて、獅子蕪木さんは悲しそうに一人で席に座っているんだ。灰城君がもし獅子蕪木さんを見かけたら、声をかけてあげて欲しい」
「うん、わかった。合同授業で一緒になった時に話しかけてみるよ」
飛騨君のお願いに僕は了解して頷き、空ちゃんたちが来るまで、僕と飛騨君はルトや広場にいた魔物たちと遊びながら過ごした。