身体強化の授業
「さて、生徒諸君、だいぶ自分の体の中にある魔力を体内でうまく操作できるようになっただろう?そんな君たちに、今日からの授業は身体強化を中心に行っていくぞ」
そんな蓮華先生の発言で、僕たちは入学試験の実技試験の会場に使われていたコロッセオを思わせる地面が剥き出しの演習場で授業が行われようとしていた。
「身体強化か~、碧お兄ちゃん大丈夫?ずっと卵に魔力を送り続けてるんでしょ?今回は見学する?」
空ちゃんは僕の背中に背負っている卵を見ながら心配した様子で僕に尋ねる。
「大丈夫だよ、空ちゃん。全力でやるわけじゃないし、……でも、心配してくれてありがとう」
空ちゃんが僕を心配するのも無理はない。授業中でも僕はハーピィの卵に定期的に魔力を送らなければならないため、背中に赤ん坊よりも重いスイカくらい大きな卵を抱っこ紐でしっかり固定して授業を受けている。
卵を背負っている僕を周りのクラスメイトも心配してこちらを見ており、蓮華先生も空ちゃん以上におろおろしながら不安げに僕に問いかける。
「碧君、本当に大丈夫か?心配なら見学しててもいいんだぞ。卵に魔力を送ってるんだ、無理してないか?」
「蓮華先生、大丈夫ですって。僕は家事の時にも浄化スキルを使っているので、魔力が異常なくらいに成長してるんですよ」
「……そうか。でも辛くなったらすぐに休むんだぞ」
蓮華先生はまだ何か言いたそうにしていたが、クラス全員を見渡して僕たちに身体強化の説明を始めた。
「いいか、身体強化は簡単そうに見えて難しいぞ。体に巡らせる魔力の量を間違えると体を壊す危険性があるから、少しずつ魔力を送って巡らせ、少しずつ強化して感覚を掴んでいくように。それと、強化するのは首から下までだ。過去に目に過剰な魔力を送って失明するケースもあるからな。間違っても授業以外で練習するんじゃねえぞ。失明したり、高く跳び上がって着地に失敗して足の骨を折っても私は知らないからな。」
僕の後ろで身体強化の練習に励んでいる雛、千香、凛の三人が並んで練習しており、蓮華先生に過去の失敗ケースを聞いて、千香が自分が失敗した姿を想像したのか、体を震わせて怯える。
「ひえ~、蓮華先生、何怖いこと言うんすか。つい想像しちゃったじゃないっすか」
そんな震えている千香の隣で雛と凛が心配した様子もなく少しずつ体を動かしながら身体強化の練習をしている。二人は練習するのをやめる素振りもなく千香を励ます。
「千香、びびりすぎよ。ちょっとずつやってやっていけばいいんだから心配しすぎよ」
「千香、そんなに怖がってたら練習にならないの~。むむむ、おっと、難しいの」
凛はバランスを崩して体が前に倒れそうになるも、足の裏にグッと力を入れて踏みとどまる。
「わー、身体強化ってすごいんだね。こんなに高く跳べるんだね、楽し~い」
僕の隣で以前雛たちを助けた時に見たルトのようにピョンピョンとリズムよく高く飛び跳ねながらジャンプして嬉しそうに空ちゃんが話すのを見て、僕も身体強化の練習を始めることにした。
足に少しだけ魔力を送りこんだ僕は軽くその場でジャンプしてみると確かに少しだけ高く跳んでまだ感覚が掴めておらず少しだけ後ろにふらついてしまい、僕は片手を胸に押さえて内心ドキドキする。
(あ、危なかった。もう少しで後ろに倒れるところだった、セーフ。もっと慎重にやらないと……ん?)
いつの間にか僕の後ろで両手を前に突き出して屈んで受け止めようとしていた蓮華先生がいた。
「今のはちょっと心配したぞ……ほら、碧君、私が後ろで見ててやるから、ちょっとずつ練習しようか」
「……ありがとうございます」
いつもと違って真剣な表情の蓮華先生に少し安心した僕は練習に励んでいき、それを見ていたクラスメイトたちは蓮華先生に少し感心して、練習に励んでいった。




