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ルトと魔物の友達の出会いと救出劇

「え~と、ルトはどこにいるんだ」


僕たちはルトが待っている、テイムされた魔物が預けられている牧場にあるような木の柵に覆われた広い芝のある広場の入り口の辺りから、きょろきょろと周囲を見回してルトを探していた。


「ほら、碧お兄ちゃん、ルトちゃん居たよ。ほらあそこ、すごい光景だよ」


空ちゃんが指を指す方向に顔を向けると、動画を撮ってテレビ番組に投稿すれば衝撃映像間違いなしの衝撃的な光景に僕たちは驚く。


「……ルト、遊んで待ってるって言ってたけど、もうそれは遊びじゃないよ」


「はぁ~~。こんな光景が見れるなんてね。翼にも見せてやりたいわ」


「ルトちゃんすごいの~」


「すごいっすね、とりあえず携帯の動画に撮っておくっす」


ルトの前には様々な種類の魔物たちが集まっており、ルトが手で合図をすると魔物たちがまるで軍隊のように統率の取れた動きで行進し始めると、ルトが笑顔になりながら次の命令を下す。


「はい、止まって~、次は伏せからすぐにジャンプ」


ルトが軽くその場で伏せると、魔物たちも一緒に伏せており、次にルトがその場で一回ジャンプすると、魔物たちも一斉にその場で飛び跳ねている。


ルトと一緒に集団で行動する魔物たちの行動を眺めていると、先ほどまで気付かなかったが、少し離れたところにテイムした魔物の主人と思われる集団が口を開けて唖然としながらルトたちの方を眺めているので、僕は挨拶と謝罪をするために集団の一人に近づいてみると。


「……嘘だろ、俺には単純な命令しか言うことを聞かないのに、たった三十分で言うことを聞かせるなんて」


挨拶をしようとした先輩らしき一人がその場で蹲って落ち込み始めた。


「……あの、ごめんなさい、うちのルトがご迷惑をおかけして……。はじめまして、僕は今年から入学してきました一年の灰城碧です」


僕は蹲って落ち込んでいる先輩に申し訳なく思いながらも恐る恐る話しかけると、話しかけられた先輩は顔を上げ僕に視線を向けながら生気の抜けた声で答えた。


「はは、あのゴブリンの子は君の魔物なのかい?いやすごいね、たった三十分でああも魔物に指示を出せるなんて……自信なくすよ」


「……あはは、いや、本当にごめんなさい、まさか僕もこんなことになっているとは思わなくて……」


僕は手で頬を掻いて、落ち込んでいる上級生の先輩にどう言葉をかけていいか悩んでいると、僕に気づいたルトが傍に駆け寄ってくる。


「あ、母さん、もう終わったの?見てみて、こんなにたくさんの友達ができたよ。ちょっと来て、みんな~」


ルトが魔物の方に手を振りながら魔物たちを呼ぶと、一斉に魔物たちがだんだん僕の目の前に集まってくると、ルトは僕の腕にしがみつきながら僕のことを紹介し始める。


「紹介するね、この人が私の母さんなの。ほら、母さん挨拶して」


僕は、目の前にいる大小様々な種類の魔物たちの迫力に内心ちょっと肝が冷えたが、僕を見てくる魔物たちの目を見ていると、みんなとても澄んだ瞳で輝いており安心した僕は近くにいたオオカミ型の魔物に近づきひざを折って屈み、優しく頭の毛並みを撫でながらみんなに微笑みながら挨拶をする。


「こんにちは、ルトと仲良くしてくれてありがとう。これからもルトと仲良くしてあげてね。ちょっ、ちょっと、待ってくすぐったいから、や~め~て~!!」


魔物たちは僕の声に答えるかのように小さく鳴いて、僕の方にすり寄って来てもみくちゃにされ情けない声を上げると、遠くで見ていた空ちゃんが愉快そうにお腹を押さえて笑いながら僕に聞こえるように呼び掛ける。


「あはは!碧お兄ちゃん、人気者だね、羨ましい~!!」


「ちょっと、笑っちゃだめよ、空ちゃん。碧君は必死なんだから」


雛は空ちゃんに注意しながらも片手で口元を隠しながら笑っている。


「いや~、碧っちは冒険者にならなくても魔物の飼育員でも食って行けそうっすね」


「それはいい考えなの~。じゃあ名前は『碧魔物園』か『碧パ~ク』で~」


千香のちょっとした言葉に、凛が笑顔で冗談を言って和んでいる。


五分近く魔物たちにもみくちゃにされた僕は、顔が魔物たちのよだれでべとべとで生臭い匂いがしたので、浄化スキルを使い顔を綺麗にしていると、ドサッと何かが倒れる音が聞こえ、音のした方に視線を向けると、先程僕に挨拶をしていた魔物の集団にいた全身が青い羽毛のハーピィーの魔物の子が翼でお腹を押さえて苦しそうに泣きながら鳴いていた。


ハーピィーは上半身が小柄な女性の姿をして下半身が鳥の姿をしており、全身が羽毛に覆われていて人の手の部分には手がない代わりに体格より大きな翼を持っている。


「ブルーちゃんどうしたの、しっかりして!!」


「ピィ!!ピィピュィ!!……ピィ」


ハーピィーの主人のだろう女生徒が苦しんでいるハーピィーのそばに駆け寄り介抱するために触ろうとした時、ルトが待ったをかける。


「ちょっと待ってお姉さん、ブルーちゃんがお腹に何かが嚙みついているって言ってるよ」


「そうなの!!ちょっと待ってねブルーちゃん。ひぃ!?何この大きなダニは」


女子生徒は、ルトに言われたとおりにハーピィーのお腹周りの羽毛をかき分けて探すとダニを大きくしたような虫がハーピィーのお腹に寄生して血を吸っていた。


他の魔物の主人の生徒たちも集まりハーピィーに寄生している大きなダニを見て、一人の男子生徒が驚愕しながら話す。


「これ、吸血毒ダニじゃないか!!密林が生い茂るダンジョンに生息している厄介な魔物だぞ、……でも吸血毒ダニが出現するダンジョンなんてこの街には無いはずだけど……」


「何が厄介なの!!それでどう対処すればいいの!!早く教えて!!早くブルーちゃんを助けたいの」


必死に知っている男子生徒に叫んで尋ねるが、男子生徒は顔を伏せて暗い表情で話す。


「吸血毒ダニはマダニと同じように無理やり取ろうとすると、皮膚を刺している頭の部分が残ってしまい簡単には取り除くことができないんだ。そして最悪なことにこいつは敵に攻撃されると全身から強力な毒を放ち、刺された奴は下手をすると死亡するケースになる。専門的な知識を持った人じゃないと、……僕たちには何もできないよ」


「嫌、ブルーちゃん、ブルーちゃん~~~~!!」


ハーピィーのそばで名前を呼びながら泣きじゃくる女子生徒に周囲の人も暗い表情で顔を伏せている中、空ちゃんが僕の服の袖を引っ張りながら気まずそうに話す。


「碧お兄ちゃん、何暗い顔してるの?碧お兄ちゃんなら対処できるでしょ?クイーンスライムになって吸血毒ダニだけを溶かして体内の毒は浄化しちゃえばいいんだから、ほら、さっさとやる」


「ごめん、空ちゃん、場の悲しい雰囲気にすっかりクイーンスライムになれることを忘れちゃってたよ。じゃあ早速……」


僕はすぐに行動を起こし、苦しんでいるハーピィーに近づきクイーンスライムになって吸血毒ダニだけを溶かしていき浄化のスキルを使い、ハーピィー体内の毒を浄化していくと、ハーピィーは痛みがなくなったのか、起き上がって空に向かって高く飛び上がり、嬉しそうに周囲を旋回して飛んでいる。


「ふぅ~、良かった、取り除くことができて」


僕は治せたことに安心して座り込むと、ハーピィーの主人である女子生徒が僕にお礼を述べてくる。


「あの、ブルーちゃんを助けてくれてありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか」


涙を流しながらお礼を述べてくる女子生徒に僕は顔を横に振って否定する。


「いいんですよ、ルトと友達になってくれた子なんですから、お礼なんてその言葉だけで十分です」


ルトは座り込んでいる僕の背に後ろから抱きつき。


「さすが母さん、私はそんな優しい母さんが誇らしいです」


「そ、そうかな~、ルトちょっと褒めすぎだよ~、照れちゃうな~」


娘に褒められて嬉しくなった僕の前に空を飛んでいたハーピィーが地面に降り立ち『ピィ、ピィ』と鳴き声を上げて僕に話しかけると、話を聞いていたルトはその鳴き声を訳してくれる。


「えっと、ブルーちゃんがありがとうって、それでお母さんにお礼をしたいからお母さんを含めた男性陣は、いいと言うまで少し後ろを向いて欲しいって」


「う、うん、わかったよ」


(……何が起きるんだろう)


そんな疑問を思いながら僕たち男性陣は後ろを向いてしばらくしていると、ハーピィーの子がいた辺りから何かが落ちる音が聞こえてくる。


「はい、母さんや男性の方、もうこっちを向いてもいいですよ」


ルトに言われ正面を振り向くと、ハーピィーの足元には大きな卵が落ちていた。どうやらハーピィーが卵を産んだようだ。


ハーピィーは小さな鳴き声を上げながら僕に卵を転がして差し出してくる。


「母さん、ブルーちゃんがこの卵を母さんにお礼にくれるって、卵に魔力を送って温めれば雛が生まれるって」


「え!?いいの?貰っちゃって……大切な卵なんでしょ?」


僕は戸惑いながら卵を拾い上げ、戸惑っているとハーピィーの主人の女子生徒が笑顔で話す。


「受け取ってあげてください。ハーピィーが卵をあげることなんて滅多にないんですよ。最初に卵を貰うのが私じゃないのはかなり残念ですが、ブルーちゃんが決めたことですからね。大事に育ててください、もっとも、ルトちゃんを見れば心配ありませんけどね」


「わかりました、ありがたく貰いますね。ブルーちゃん、大切に育てるよ」


「やった~!!新しい家族が増える楽しみだな~」


ルトが両手を上げて嬉しそうに僕に話す。


こうしてハーピィーの卵を貰った僕は、空ちゃんたちとこれから生まれてくるハーピィーの名前を考えながら帰路についた。

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