冒険者の道:初めの一歩
(は~。最初の冒険科の授業か、楽しみだな~)
午後になり、これから初めての冒険者になるための専門学、通称『冒険科』の授業が始まることに、僕は楽しみながら席で待っていると、ガチャガチャと音を立てながら蓮華先生が大きな木箱を抱えて教室に入ってきた。
「う~い。じゃあ、冒険科の最初の授業を始めるぞ。まずは、これをみんなに配るぞ」
蓮華先生は教卓の上に木箱を載せ、木箱からソフトボールサイズの謎の球体を配り始めた。
配られたソフトボールサイズの球体は、透明な球体のカプセルで作られており、球体の中心部には固定された小さな魔石が取り付けられている。
僕は配られた物をまじまじと見ていると、後ろの席に座っている空ちゃんが小さな声で「ああ、これか……」と小さく呟いており、空ちゃんはこれが何なのか知っているようだ。
「じゃあ、説明するぞ。これは簡易魔力発生球だ。君たちはこれまでレベルを上げるために低いダンジョンでの探索は経験してきただろうが、Cランク以上の上位のダンジョンでは目に見えない高濃度の魔力が充満している場所が所々存在している。今までは気にすることなく探索してきただろうが、上位のダンジョンではそれが命取りになるから絶対に感知できるようにしろ」
蓮華先生は黒板に白いチョークで簡単な絵を書きながら説明をしていくが、黒板には二頭身でデフォルメされた明らかに僕にそっくりなキャラが、高濃度魔力と描かれた赤いチョークで書かれている波状の円の中で地面に倒れている姿が描かれ、キャラクターの上に赤いチョークでバツをつける。
(蓮華先生、絵を描いて表現するのはいいけど、何で僕そっくりのキャラを書くんだ……ちょっと気分が悪い)
黒板に描かれた僕がデフォルメされた絵を見た千香が、黒板の僕にそっくりな絵を指さしながら蓮華先生に質問する。
「先生、それ、碧っちですか?……いいんですか、先生、将来を約束した人をそんな雑に扱って」
「違うんだ、三島。先生も心苦しいが、碧君にはダンジョンで生き残ってほしいからあえて碧君の印象に残るように碧君にそっくりな絵を描いたんだ……」
蓮華先生は千香にそう言って返答をして、僕の方に歩いて来て、僕の顔に手を添えて軽く撫でながら僕に話しかける。
「……ごめんな、碧君。少しでも印象に残るように絵を描いたとはいえ気分が悪くなったか。でも、初めての上位のダンジョンで、気が付かずに高濃度の魔力に当てられて亡くなる冒険者が多いんだ……私、嫌だぜ、結婚式も挙げずに未亡人になるのは」
初めての上位のダンジョンで高濃度の魔力だまりと知らないまま進んで行くと、気絶したり、また高濃度の魔力によって突然発生する魔物に対処できず、命を落とす冒険者が増え続けているという。
「いや、蓮華先生、空ちゃんたちにまだ認められてないでしょ」
蓮華先生が寂しそうに僕の顔に近づけて見つめていると、気まずそうに一人の女子生徒がおずおずと蓮華先生に話しかける。
「……あの、先生、灰城君と見つめ合ってないで授業を進めていただけませんか?」
「あっ!? そうだったな、悪い、それじゃあ授業を再開するぞ」
そう言って蓮華先生は授業中だった事を思い出し授業を再開した。
「いいか、この簡易魔力発生球は本体を振り続けると一定期間の間、中心にある魔石から魔力が一定に放出される。まずはそれを感知できるようにしろ。では始め」
蓮華先生が開始の合図を出し、クラスメイトが一斉に取り組む中で、僕も言われたとおりに球を振って魔力を発生させると、最近魔法が使えるようになった僕は、球体から魔力が発生しているのを感じ取ることができていた。
僕が手に持っている球体から出ている微弱な魔力は、例えるならまるでカイロのように暖かく感じる。
「おっ、やっぱり碧君は魔力を感じることができたか。ちょっと質問するが、碧君は自分の中にある魔力を感じることができるか?」
「はい、自分のヘソのあたりから魔力を感じることができます」
「じゃあ、ちょっと先に進もうか。私が今から碧君の身体にある魔力を動かすから、碧君は動いた魔力を自分で操作できるように訓練しようか。……ぐへへ、では、失礼して」
蓮華先生は座っている僕の後ろに回り、鼻息を荒げながら手を僕の両肩にいやらしく掴み、僕の魔力を操作し始める。
(……う、なんか不思議な感じだ。だんだん体がむず痒くなってきたぞ)
僕が身を揺らして身悶えていると、その姿に興奮したのか、蓮華先生がさらに興奮したように鼻息を荒くしながら僕の魔力を激しく操作し始める。
「はぁ、はぁ。ぐへへ、どうだ碧君、自分の中の魔力を弄られる気分は。ここか、ここがいいんか(バシッ!!)い、痛い!!」
蓮華先生が授業中に僕にセクハラまがいの行動をしたのを見て、凛は我慢できなかったのか、机の中にある分厚い辞典を取り出し蓮華先生の頭に向かって思いっきり叩きこんで注意すると、高レベルな蓮華先生でもさすがに痛かったのか、叩き込まれた頭の箇所を両手で押さえて蹲っている。
凛は蹲る蓮華先生に近づき、ドスの効いた冷たい声で話す。
「何、碧君にイタズラしてるの。真面目にちゃんとやるの、……わかったか」
そんな蓮華先生を見ている、僕の周りの席に座っている空ちゃんたちも先生に冷たく言い放つ。
「……蓮華先生も懲りない人っすね。そんなんじゃ私たちは先生を認めるのもあと何年かかるか」
「そうね、十年くらい経ったりして」
「しょうがないよね、こっちは真面目に授業を受けてるのに先生がそんな態度なら……やっぱり碧お兄ちゃんとの交際は認めることは……」
蓮華先生は凛の足元にしがみつき、泣きながら反省の弁を述べる。
「ちょ、それだけは、まじ勘弁してください。私が悪かったから、これからは授業中はやらないから。もう、両親にも彼氏ができたって自慢しちゃったのだからお願い~」
「だったら、今から名誉挽回するの。ちゃんとやれ」
「へい!! 喜んでやらせていただきます!!」
凛は蓮華先生に視線の圧をかけ、蓮華先生は電流を受けたように立ち上がり、空ちゃんたちに敬礼をしてまだ魔力を感じることができない生徒たちにアドバイスをしていく。
凛はやりきった表情をして頷き、自分の席に戻り、簡易魔力発生球を手に取り魔力を感知することに真剣に集中し始める。
(……あはは、凛、先生に対してだけはかなり厳しいな。お陰で助かってはいるけど)
そうして、蓮華先生が僕の魔力を動かしてくれたおかげか、自分の魔力をコントロールすることにほんの少しだが成功して、体内の魔力を授業の時間が終わるまで練習するのだった。