緊張の入学式 3
私たちは担任の先生から碧お兄ちゃんを何とか引き剝がし、碧お兄ちゃんを床に寝かせて様子を見た。
「碧お兄ちゃん、大丈夫?もしも~し」
碧お兄ちゃんは白目をむいており、私が頬を軽く叩いたり、体を揺らしたりしたが起きる気配はなく、完全に気絶していた。
雛お姉さまは担任教師のジャージの上着の襟元を両手で掴んで怒鳴っている。
「ちょっと、あんた。何てことしてくれたの、碧君、気絶しちゃったじゃない!」
「そうだ、そうだ、それが担任教師のやることかよ。抗議するっす!」
「碧君を穢したな、……許さないの」
千香お姉さまも雛お姉さまの後ろに立って、担任教師に抗議しており、凛お姉さまに至っては普段ののほほんとした表情とは裏腹に、怒りの形相で視線で獲物が殺せるような鋭い目になってドスの効いた低い声で話していて、見てるこっちも怖い。
「わ、悪かったって、だってしょうがないじゃねーか、好みの合法ショタがそこにいるんだぜ。あ、お前たち、もしかして少年のコレか?だったら仲間に入れて欲しいな」
担任教師は右手の小指を立てて、悪びれもせず私たちの仲間に入りたいと言ってくるが、当然私たちは否定する。
「今のあなたの行動やその態度を見て賛成すると思いますか?私は反対です。お姉さま方もそうですよね」
「ええ、空ちゃんと同意見よ、反対」
「反対っす」
「無理」
お姉さま方も反対してくれたが、先程から凛お姉さまが本当に怖い。クラスメイトたちが集まって、私たちのやりとりを見守る中で、凛お姉さまのあたりだけクラスメイトと少し距離が空いている。
なかなかAクラスの私たちが教室から出てこずに体育館に移動しないのを心配したのか、他のクラスの担任の教師らしき人が扉を開けて中に入って来た。
「ちょっと蓮華先生、どうしたんですか?早く生徒を体育館に移動するようにって……ちょっと、どうしたんですか!気絶してる生徒がいるじゃないですか!」
担任の先生の名前は蓮華先生と言うらしい。
「あはは……、ちょ~と私が暴走しちゃって、反省してます。でも、後悔はしてない!」
蓮華先生はキリっとした表情をして、ちっとも反省した素振りを見せない。
「彼は保健室に寝かせてあげましょう。ひとまず入学式が終わってから改めて蓮華先生には事情を聴きますからね」
「うっす、了解」
他のクラスの担任の先生が碧お兄ちゃんを保健室に寝かせるように勧めるが、雛お姉さまがその話を聞いて否定する。
「あの、それは出来ないと思いますよ、碧君は新入生代表挨拶をしないといけないんです」
雛お姉さまの言葉を聞いて蓮華先生は、顔を青くして私の方に顔を向け確認するかのように見つめる。私は無言で頷く。
「…………まじ」
蓮華先生は唖然とした表情で固まり、あと十五分で入学式が始まる時間に迫った私たちは、ひとまず碧お兄ちゃんを千香お姉さまが背負って、体育館に向かうのであった。