合格の知らせと夏美さんからのお願い
僕は訪ねて来た夏美さんを居間のソファに案内し、彼女は腰を下ろした。僕は向かいのソファに腰を下ろし、対面する。夏美さんの両隣にはルトと雛、そして雛の膝に乗せた翼ちゃんが座っている。それに対して、僕の両側には空ちゃんと凛が座っていて、千香はソファの後ろから僕に抱き着いていた。
「待たせてしまってごめんなさいね。お母様がまだ仕事中なのに着いてくるって聞かないから椅子に縛り付けてきたわ。それにしてもルトちゃん、大きくなったわね。この短期間で異常な速度で成長するなんて将来が楽しみだわ」
「えへへ、そうだよ。お母さんのためになるには、まだまだ力を付けないといけないんだ」
夏美さんはルトを褒めると、ルトは口元を緩めながら照れたように頭を掻く。
「それで、電話の通りにみんなを家に呼びましたけど、どんな用事でしょうか?」
「まず一つ目はこれ、入学試験の結果通知よ。ちょっとだけ早いけど、ここに来ることを分かっていたし、ちょうどいいと思って持ってきたわ」
僕が夏美さんに尋ねると、夏美さんは足元にあるバッグから大きな封筒を取り出し、ルトと翼ちゃん以外の全員にそれぞれの封筒を手渡した。
僕は封筒を丁寧に開け、中身を取り出すと、結果には合格したことが書いてあり、ホッと胸を撫で下ろす。佳代子おばあちゃんの面接の時に合格と言われたが、改めてこうして封筒で合格通知が来ると無事に合格したことを実感できる。
「ふふ、碧君は母さんに直接合格していることを告げられたでしょうに。合格おめでとう」
夏美さんは、少し笑いながら封筒を真剣に見ていた僕をおかしそうに見て、お祝いをすると、ルトと翼ちゃんも拍手をしながら手を叩いて僕に祝福をしてくれる。
「母さんおめでとう」
「お兄ちゃんおめでとう」
「二人ともありがとう。さて、みんなはどうだった?」
僕は二人にお礼を言って、空ちゃんたちに結果を聞くと、みんなが揃って笑顔で通知結果を僕に見せてくれて、合格の文字がハッキリと見えた。
無事に全員が合格し、お互いに検討しあっていると夏美さんが千香に向かって喋る。
「千香ちゃんは筆記のテスト、結構ぎりぎりだったわよ。もう少し勉強を頑張りましょうね。冒険者専門の高校だけど一般授業は普通にあるから」
「はい~、頑張るっす」
僕の後ろで抱き着いて覇気のない返事をする千香に、僕は頭に手を伸ばし、ポンポンと軽く叩いて慰めて尋ねる。
「それで、二つ目は何ですか?」
夏美さんが気まずそうに自分の頬を掻きながら話す。
「あ~……、それなんだけどね。碧君、入学式の時に、新入生代表として挨拶して欲しいのよ」
「……はぁ、新入生代表挨拶ですか。……え!?僕がですか!」
僕は合格した達成感に酔いしれて、夏美さんの話を理解するのに時間がかかり、遅れて驚く。
「そうなのよ、主席の子は親族が亡くなって、入学式までに戻れそうにないらしいの。だから次に成績の良かった碧君になったのよ。お願いよ、碧君」
僕は手を合わせて切羽詰まった表情をしてお願いしてくる夏美さんに、渋々頷き了承する。
「よかったわ。断られたらどうしようかと思ったわ。ありがとう、碧君」
「事情が事情ですし仕方ないですよ。そんな話を聞いたら断れませんよ」
僕はため息をついて落ち込みたいが、目の前の夏美さんを心配させないために我慢すると、僕の内情を慰めるかのように両端にいる空ちゃんと凛が背中をさすって慰めてくれる。
「それと、碧君たちは学校に行くとして、ルトちゃんはどうするの?翼ちゃんは小学校に行くとして、ルトちゃんも一緒に学校に連れてくるの?テイムされた魔物の待機所があって、ルトちゃんも魔物だから利用できるけど、ずっと待っているのは退屈になると思うわ。広いドッグランみたいな場所と知性を持つ魔物のために小さなコンテナハウスがあるけど、それとも、詠美のいる冒険者組合に預かってもらう?」
「そうですよね。う~ん、どうしようかな」
僕はどうしようかと頭を悩ませ考えていると、話を聞いていたルトが夏美さんに向かって答える。
「それって両方じゃダメ?午前中は冒険者組合にいて、午後は母さんの帰りを待ちながら、他の魔物と遊んでようかと思ったんだけど」
「ルトちゃんがそれでいいなら、私はそれでもいいですよ。碧君、どうしますか?」
夏美さんが僕に意見を求めてくるが、僕はルトの意見を尊重して笑顔で答える。
「ルトが決めたことなんで、僕はいいと思います。暫く様子を見てダメだったら、また考えればいい話ですし」
「ありがとう、母さん」
ルトは僕に笑顔で答えると、ソファから立ち上がり、座っている僕の方に来て膝を折って僕の腹部に抱き着く。
「……ふう、これで学校側の重要な用事は終了よ。ここからは私の個人的な話、前に会った時に言ったでしょう。私も碧君と話してみたいのに、母さんが問題行動ばかり起こすからなかなかここに来られないんですもの。詠美の婿として話してみたいじゃない。だから今日は母さんの代わりに来たのよ」
前のめりになって佳代子おばあちゃんの愚痴をこぼしてくる夏美さんに、僕は同情しながら答える。
「はは、お手柔らかにお願いします」
「そうね~、何から聞きましょうか。そういえば昨日、碧君、キャラクターショーに出たんだって?」
夏美さんから出た話に千香と凛が反応する。
「何それ聞いてないっす!」
「碧君、キャラクターショーに出たの~?見に行ったんじゃなくて?」
空ちゃんはその言葉を待っていたかのように、笑みを浮かべながらスマホに専用のケーブルを差してテレビに接続しながら二人に話す。
「ふっふっふっ、大丈夫ですよ、お姉さま方。碧お兄ちゃんの活躍はちゃんとこのスマホで撮ってありますから安心してください。それでは今から上映を始めます。それではポチッとな」
「あら、それは楽しみね」
夏美さんのそんな言葉を聞きながらテレビに映し出される僕のキャラクターショーの動画を全員で見て、僕は映し出される動画を見て恥ずかしい思いをしながら耐え抜くのだった。