凛の秘密の目的地 2
「ここが次の目的地なの~。アミューズメント鳳」
のんびりとした口調で喋る凛が指を指した目的地に、私は凛に疑惑の目を向けながら喋る。
「アミューズメント~?、私はただの大きな倉庫にしか見えないっすけど」
道の駅の次に凛に連れてこられた場所は、外から見ればただの大きな倉庫にしか見えなかった。大きな扉には確かに『アミューズメント鳳』とアメリカの映画に出てくるような壁に描かれている落書きのようなデザインで描かれている。
「まだオープン前だから知らなくて当然なの~。この施設を作ったのはお父さんの友達で来月にオープンさせるから良かったら来てねって招待さえれたの」
「へぇー、今のご時世でアミューズメント施設を作るなんてすごいっすね」
現在のダンジョンが発生し世界で、魔物がいつダンジョンから出てくるかわからないご時世では、昔の広い敷地で営業するようなアミューズメント施設は魔物に狙われる格好の場所として過去に大きな事件が起きたために、一定の広さの制限や厳しい基準が設けられるようになっていた。
「本当はみんなと一緒に来たかったけど、ルトちゃんと翼ちゃんがキャラクターショーを楽しみにしてるの知ってたから、オープンしたらまたみんなで来たらいいの~。じゃあ、行くの。こんにちは~。うわ~、凄いの~」
「凛、どうしたん……って、何だこりゃ!?」
凛が倉庫の大きな扉を開けて中に入り、私も後に続くように倉庫の中に入ると中の広さに驚く。
中には様々な遊園地の定番の乗り物が見えており、驚くことに奥の方にジェットコースターまである
そうして二人で驚いていると40代くらいの男女二人がこちらにやってきて、男性が豪快に笑いながら話しかけてくる。
「ガッハッハ、どうだ凄いだろ。ようこそ、アミューズメント鳳へ。待ってたぜ凛ちゃん」
「いらっしゃい凛ちゃん、お友達の方も今日は楽しんで行ってね」
豪快に笑う男性の隣で、こちらに微笑んで女性が話しかけてくる。
「こんにちは、勝利さん、敏子さん、今日は招待してくれてありがとうなの~」
「こんにちは、初めまして三島千香って言うっす。今日は招待して頂きありがとうございます」
凛がのんびりと片手を上げながて挨拶を済ませる中で、私は頭を下げて二人に挨拶をする。
「おう、よろしくな。俺は鳳勝利でこっちは……」
「鳳敏子よ、よろしくね」
鳳勝利さんは、身長が二メートルほどの筋肉質で、肌は日に焼けて黒く、顔の堀が深く頭にねじり鉢巻をしており白いタンクトップを着てズボンはダメージジーンズを穿いていた。それに対して鳳敏子さんは、身長が凛と同じくらいの身長の小柄で、きめ細やかな白い肌をしており、おっとりとした凛と少し雰囲気が似ているて綺麗というより可愛い感じの人だ。
二人が並んでいるのを見ると、美女と野獣の言葉が思い浮かんだのは私だけだろうか。
「それにしても、凄い広いっすね。よく依頼できましたね。たしか空間魔法が使える冒険者に依頼すると最低五億円以上するって聞いたことがあるような」
私は過去に新聞の記事に載っていたことを思い出しながら夫婦に向かって喋ると、勝利さんが頭を触りながら、他に招待されている周囲の人々に聞かれないようにひそひそと小声で私たちに話す。
「それなんだがな、タダでやってもらったんだこれ」
私と凛は、一瞬叫びそうになるが両手で口を押さえて我慢しから小声で聞き返した。
「えっ!?タダっすか」
「羨ましいの~」
敏子さんは頬に手を当てながらにこやかに喋る。
「そうなのよ~、ちょっと前にお腹が減って行き倒れになっていた子がいて、あなたたちくらいと同じ年の女の子を助けたんだけど、その子がお礼にって、空間拡張とほとんどのアトラクションを魔法で作ってくれたのよ。今時の冒険者の子はすごいのね~」
「何でも、重い病気で病院の病室で何年も過ごしたらしいんだが、最近知人の妹を助けるために病院に来ていた冒険者に魔法で治療して貰って回復し、ステータスも獲得して舞い上がって街中をを走り回って力尽きたところで俺たちに出会ったってわけだ。全くすげー奴もいるもんだな」
勝利さんの話を聞いて治療した人物に心当たりのある二人はお互いに頷いて話す。
「碧っちすね」
「碧君しかいないの~」
二人の呟きを聞いた勝利さんは私たちに笑顔で話す。
「何だ知り合いなのか。じゃあ、お礼を言っといてくれよ。お陰で俺の夢が叶ったんだからよ。今日は楽しんで行ってくれよ。……おっと、そうだ思い出した。凛、彼氏が出来たんだってな、輝彦がしょぼくれながら電話で俺に話してきたぞ」
「……あなた、そういうデリケートな話を大声で聞いてはいけません。お仕置きです、よ!!」
大声で凛に聞いてくる勝利さんの横腹に敏子さんが軽く手の平を当てると、勝利さんが体がくの字に曲がりながら一メートルほど横に弾け飛び気絶している。
「……本当にデリカシーのない人なんですから。じゃあ、凛ちゃん、千香ちゃん今日は楽しんで行ってね。凛ちゃん、貴方が楽しみにしていたものは奥の方にあるわよ」
そう言って敏子さんは気絶している勝利さんを片手で掴んで、引きずりながら入り口の方へ去っていく。
「……敏子さん凄いっすね」
私は入り口に向かっている敏子さんを見ながら呟くと凛が答える。
「敏子さんたちはBランクの冒険者で敏子さんの職業は『格闘家』なの、そして、勝利さんは『風属性の魔法使い』で~、喧嘩したらまず敏子さんに勝てないの」
「見た目とのギャップが凄いっすね。普通は逆じゃないっすか」
「二人に会うといつもあんな感じで仲良し夫婦なの。そんな事よりも行こうよ千香、それじゃあ出発~」
凛は、私の手を取ってルンルン気分で鼻歌を口ずさんみ、私たちは、アトラクションの方に向かった。
※
「……もう疲れたっす。凛、ちょっと休みたいっす」
様々なアトラクションに乗ってクタクタになった私は、すぐ傍にあったベンチに座って息を整えると凛が隣に座って話してくる。
「仕方ないの。でも次で最後なの~。私が一番楽しみにしていた奴なの。楽しみだな~」
隣で体を揺らしながら楽しみにしている凛に、私は微笑みながら疲れた体に鞭打って立ち上がり、凛に手を差し伸べて立ち上がらせて喋る。
「そんなに楽しみなんすか。じゃあ行こうっす」
凛は瞳を輝かせながら私の手を取って答える。
「いいの~。じゃあ行こう、すぐ行こう。出発なの~」
そうして最後にたどり着いた場所を見た私は、設置されている装置を見て恐る恐る凛に尋ねる。
「凛、何なのこれ、先程から嫌な予感がビンビンするっす」
円形になっている細いフレームが幾つも重なっていてその中央にはジェットコースターの椅子が2席だけ取り付けられていた。また前方には大きな黒い機械が置かれている。まるで宇宙飛行士の訓練用の機械のように見えて先程から私は嫌な予感しかしない。
「じゃじゃーん、これが今日のメインイベントVRコースター。世界の昔にあった有名なジェットコースターの名所を再現した究極の装置なの。振動や風速、傾斜などを様々な部分を再現して本物そっくりに体験できるの」
凛は、今日一番の笑顔を私に見せながら瞳を輝かせて私に説明する。
「え~!!今日は絶叫系はないって言ったじゃないっすか。さっき乗った子供向けのジェットコースターで我慢しましょうよ」
悲鳴を上げて抗議する私に凛はニヤリと笑みを浮かべながら言う。
「私はバンジージャンプはやらないって言ったけど、ジェットコースターは言ってないの。じゃあ行くよ、ほらほら」
「嫌っす、私は此処で見学を……ちょっと待って、嫌~~!!」
そうして凛に無理あり付き合わされてVRゴーグルを被らされた私は、気絶したり起きて叫ぶを繰り返して最後を締めくくるのだった。