凛の秘密の目的地 1
「凛、私を何処に連れて行くんっすか? せめて行き先を教えてくださいっす」
私、三島千香は、四方木凛に目的地を告げられないまま、嬉しそうに前を歩いている凛の後をついて行く。入学試験の筆記試験の勉強を見てもらったお礼に、今日は凛のお供として連れてこられたのだ。
上機嫌に歩いている凛に、私は恐る恐る息を吞んで尋ねた。
「凛、せめて、今日の目的を教えて欲しいっす。……まさか、また絶叫系じゃないっすよね。バンジーなんて嫌っすよ」
「今日は違うの~。バンジーが良かった?」
「良くないっすよ。むしろそれを聞いて安心したっす」
過去に私と雛が凛に付き合わされて行ったバンジージャンプを思い出して身震いする。凛は、身長が百五十センチと低く、身長が百四十センチの碧っちと僅か十センチしか違わない。図書館が似合うような見た目をしてのんびり屋ではあるが、バンジージャンプやジェットコースターなどの絶叫系が大好きなのである。
三人で初めて行ったバンジージャンプで、凛が係りの人に『もう、飛んでも大丈夫です』と聞いた瞬間に飛んだ姿を見たときは、雛と二人で唖然としたのはいい思い出である。
(……まぁ、その後、凛に無理やり私たちをバンジージャンプに押し込まれて飛ぶことになり、落ちる途中で怖すぎて気絶してしまったっすけど)
そんなことを思い出しながら歩いていると、前を歩いていた凛が立ち止まって私の方に体を向けて話した。
「まず、最初の目的地は此処なの~。豊橋の道の駅~」
私は、自分が予想していた場所と違って首を傾げながら尋ねた。
「道の駅っすか?ここに何があるっす?」
「今日は此処で、サポート系の冒険者向けに道具を販売するイベントがあるの~。詠美さんに教えてもらったの~」
道の駅でイベント用に臨時に作られた駐車場のスペースには、既に多くのブースが立ち並び、様々な道具や装備品が展示されている。周囲の活気に満ちた雰囲気に、私は興味が湧いてきた。
「うわ~、凄いブースの数っすね。ところで、凛は何を見るんすか?」
「前のリュックが破けちゃったから、前よりも頑丈で大きめのリュックが欲しいの。碧君はこれからも強くなって、一度のダンジョン探索で数多くの魔物を倒しそうだから、大きいリュックじゃないと困りそうなの~」
「え!?前よりも大きいリュックっすか?でも……」
私は凛が前に背負っていたリュックを思い出す。
(後ろから見たら凛が立っていても、姿が完全に隠れる程の大型のリュックよりも更に大きな物っすか。そんなのあるんっすかね~)
そんな疑問を思いながら、私は凛と並んで歩き、辺りのブースを見渡しながら探していると、リュックとカバンが並んでいるブースを見つけて近寄った。そこで空間拡張が施されたマジックバッグの値段を見て驚く。
「うひゃ~、小さいポシェットサイズで二十万円!?やっぱり空間拡張された物は高いっすね~」
「仕方ないの、マジックバッグも確かに魅力的だけど、今は頑丈なリュックで十分なの」
現在の日本では、空間拡張された物を作成できる生産職の冒険者の数が少ないため、それ相応の値段がしてしまうのだ。そのため、空間拡張されたマジックバッグを手に入れるには高いお金を払って購入するか、ダンジョンで稀に発見される宝箱で入手するしかないのだ。
私は凛が真剣にリュックを吟味している間、暇つぶしにマジックバッグの商品棚を眺めていると、ある商品に視線が止まり、店員に尋ねた。
「店員さん、このリュック型のマジックバッグは十五万円と安いっすけど、何かあるんっすか」
不思議に思って興味本位で商品を尋ねた私に、名札に杉浦と書かれた男性店員は恥ずかしそうに手で頭を掻きながら商品を説明した。
「……ああ、それですか。お恥ずかしながら、失敗作なんです。確かにこのリュックはマジックバッグになっていて、入る量は他のマジックバッグと違って制限がなくなったんですけど、その代わりに、入れた重さの分だけ、重量が入れた物の重さを2割増しでマジックバッグが重くなっていく欠陥品で、ダメもとで置いているんです。」
店員の商品説明を聞いて、凛に必要なリュックはこれだと確信した私は、向こうで商品を物色していた凛を慌てて連れてきた。そして、凛に先程聞いた店員の説明をしだすと、凛は表情を輝かせて、即決で商品を購入した。
「でも、本当によろしいんですか。入れる量を気を付けて使わないと動けなくなりますよ」
男性店員は、まさか失敗作が売れるとは思ってなかったので、購入した凛を心配そうに尋ねた。
「問題ないの~。こんな素晴らしい商品を作ってくれてありがとうなの~」
凛が店員に満面の笑みでお礼を言ってその場を離れ、私たちは他のブースを一通り見物して、凛が次に向かう目的地に向かうために豊橋駅方面行きのバスに乗り込んだ。