デパート屋上のアクシデント 3
キャラクターショーが終わり、写真撮影をして子供たちが楽しくショーの思い出を作るはずだったが、一人の酔っぱらいの登場で台無しになってしまった。
酔っぱらいの四十代くらいの男性は体が左右に揺れてまっすぐ歩くことが千鳥足になっており、アルコールの匂いを周囲に放ちながら顔を真っ赤にさせて目が座っており、子供たちと写真撮影をしている僕の方に歩きながらこちらに向かって話しかけてくる。
「……なんだ、えらい別嬪さんじゃないか……ひっく。どうだ、おじさんとお酒飲まないか」
案の定、僕のことを女性だと思われており、怯えている周囲の子供たちを守るために盾になるように前に出ようとすると、司会をしていたスタッフの女性が手で制して止めに入る。
「……貴方はここで子供たちと一緒に居てください。ここは大人の役目です」
僕は子供たちと2人の男性スタッフが酔っぱらいを止めようと説得する声が聞こえる中、成り行きを見守っていると段々と雲行きが怪しくなってくる。
「お客様。すみませんが只今キャラクターショーの写真撮影のイベントの真っ最中です。大人の方はご遠慮ください」
「休日にお酒を飲むのは結構ですが節度を守って行動してください。子供たちが怯えています」
男性スタッフが注意してから説得を試みるが酔っぱらいの男性は逆上して怒鳴り散らす。
「うるさーい!!俺を誰だと思っている。豊川冒険者組合にその人ありといわれたBランク冒険者の久々知正和だぞ。お前たちの日々の生活を守ってやってるだ。ステータスを獲得できなかった弱者が俺に指図するな、そこをどけ!!」
「これはダメだ。取り押さえるぞ。近藤」
「はい、渡辺さん」
二人の男性スタッフが取り押さえようとした酔っぱらいの男性に掴みが、酔っぱらいはいとも簡単にスタッフ二人を片手で掴んで投げ飛ばし、遠くで様子を見ていた子供たちの保護者たちの手前まで投げ飛ばしたため、悲鳴が飛び交う。
「……け、俺に逆らうからだ。さて」
再びこちらに顔を向けて歩いてくる酔っぱらいに周囲にいた怯えて震えている子供たち中の一人が震えながら僕に助けを求める。
「……ねぇ、リリー、お願い!!あの酔っぱらいをやっつけて!!」
その言葉を皮切りにその場にいた子供たちが次々と僕に助けを求め始める。
僕は保護者達の方にいた空ちゃんたちに顔を向けると、子供たちの声が聞こえたのか空ちゃんと雛は無言でうなずき、ルトと翼ちゃんは『やちゃえー』と手を上げて叫んでいる。
目の前でまだ手が震えながらも手で制して僕たちと子供を守ろうとしてくれている女性スタッフの制した手を僕は優しく下ろして、女性スタッフの前に出て、僕は振り返りながら笑顔で喋る。
「ここからは僕にまかせてください。子供たちにもお願いされたからね」
やがて酔っぱらいが僕の目の前に近寄ってくると、下品な表情をこちらに向けながら手を伸ばしてくる。
「……やっと観念したのか。おせーんだよ。最初からそうしてればいいんだ。……ぐぇ!!」
僕は油断して手を伸ばしている酔っぱらいの腕と胸倉を掴み、相手に背を向けて背負い投げを決め、思いっ切りコンクリートの地面に向けて叩きつけそのまま押さえつける。
(Bランクと言っていたのだ。冒険者ならこれぐらいやらないと効果がないはずだ)
「さぁ、今の内に離れて……うわ!?」
取り押さえて動きを封じるたはずなのに、酔っぱらいは無理あり立ち上がり僕の拘束を振りほどく。
「……痛いじゃねーか、何しやがる。こんな力が出せるんだ。お前も冒険者か、Bランクの俺を止められると思うか。俺に攻撃するなんて身の程を教えてやる」
酔っぱらいはそう言って、近くにある舞台装置を腕力で強引に引きちぎりハンマーのように振り下ろすし、結界が間に合わないと感じた僕は、後ろにいる女性スタッフと子供たちを守るために、甲冑を召喚し、腕をクロスさせて防御する。
「はっはっは!どうした!どうした!たいしたことないな、お前は」
酔っぱらいは舞台装置を無造作に振り回し僕に叩きつけ、痛みをこらえながら考えているとルトが叫びながらこちらに向かって身体強化を使い、まるで弾丸のような速さで飛び出してくる。
「あかあちゃんをいじめるなー!!」
ルトは飛び出してくる勢いをのせたまま酔っぱらいに体当たりをして突き飛ばし、僕を助けてくれる。
「ありがとう、ルト。助かったよ」
「おかあちゃんのためだもん。それであのひと、どうちゅるの?」
「何とかして気絶させたいんだけど。……どうしようか。え!?」
僕が悩んでいると突然、呼んでもないのに聖剣が勝手に現れて空中に浮かび、私を使えと言っているようだ。それを見ていた子供たちが僕に向かって叫ぶ。
「リリー、必殺技でやっつけて」
「そうだよ、おかあちゃん。やっちゅけちゃえ」
「もう、こうなったらヤケだ。悪しき魂よ、この剣で浄化しなさい。ローズスラッシュ!!」
ルトと子供たちが応援してくれる中、僕はやけくそになってリリーの必殺技を叫びながらまだ起き上がる途中の酔っぱらいに聖剣を振り下ろすと。聖剣が赤い粒子を振り撒きながら輝き出し酔っぱらいを切りつけるが肉体は切れておらず、刀身がすり抜けるように通過すると酔っぱらいは悲鳴を上げて気絶する。
何とか酔っぱらいを倒すことが出来て、ほっと息をついて胸を撫でおろす僕に、ルトは告げる。
「おかあちゃん。しょうりのぽーずは?」
僕はルトに急かされて勝利のポーズをする為に剣を掲げて決めると、周囲から歓声が聞こえた。子供たちが近寄ろうとすると、気絶した酔っぱらいの体の中から赤く輝いた球が飛び出して、聖剣の水晶の刀身に球が吸い込まれていった。
(……何だったんだあれは、でも今は子供たちがいてステータスカードを確認できないし)
僕は未だ空ちゃんでも解析することが出来ないこの名前のわからない聖剣に疑問を持つが、子供たちの前なのでステータスカードを見るのを我慢していると、子供たちが嬉しそうに駆け寄って来て人質役に選ばれていた女の子が僕に笑顔で話す。
「リリー、ありがとう。やっぱり正義の味方だね」
それを聞いていたルトが周囲に自慢するように話す。
「そうでちょう。るとのじまんのおかあちゃんなの」
周囲の子供たちにルトが自慢すると『いいな~』っといって羨ましがると、僕は子供たちと写真撮影の途中だった事を思い出すが、舞台が滅茶苦茶になっていることを思い出し、傍で見ていた女性スタッフに声をかける。
「あの……写真撮影どうしましょうか」
困った表情で尋ねる僕に、女性スタッフがおかしそうに笑いながら話す。
「ふふっ、そうですね。子供たちもあなたと写真を撮りたいでしょうし、飲食コーナーの空いているスペースでやりましょうか」
飲食スペースに移動して写真撮影を再開しようとした矢先に一人の子供が僕に話す。
「みんなで一緒に写真を撮りたいんだけどダメ?」
それを聞いた周囲の子供たちも賛同して僕にせがむと、それにこたえるように笑顔でうなずく。
こうして子供たち全員の個人撮影と集合写真を撮り、無事にイベントを終了させることができた。
後日、イベントスタッフから子供たちとの集合写真が家に郵送で送られてきて、僕は居間の窓際に写真立てに入れて飾るのだった。