入学試験後のお疲れ会 8
僕が蛇の清姫と蜂のスケさんを皆に紹介してしばらく経つと、2匹は何事もなかったかのようにお酒を飲み始めるのを見て僕は思う。
(清姫もスケさんも元々はこんな姿じゃなかった。清姫はただの蛇だったし、スケさんも小さな蜂だった。まぁ、今と同じで賢かったけど。僕がレベル10以上にレベルアップして、しばらくしてから突然、今の姿で現れて、今の皆のように驚いたっけ)
清姫はチョロチョロと舌を出して目を細めながら味わうように飲み、それ対してスケさんは2本の前足でお猪口を持ち、長い毛に覆われた舌でお酒を吸い続けていた。蜂なので表情はわからないが、先程から腹部が上下にリズムよく動いているので、ご満悦のようだ。
「でも、どうやってあのお酒をここまで気づかれずに運んできたんだ。あんなに図体で目立つ鱗をしてるのに気づかないなんて……」
梢さんはもっともな疑問を抱き、頭を悩ませる。
「……それなんですけど、清姫にはある特技があるんです」
僕が清姫に視線を向けると、話を聞いていた清姫はお酒を飲むのを止め、少し顔を上げてこちらを見た。心なしか、しょうがないなとため息をついているようだ。少し口を開けると、清姫の姿がだんだんと見えなくなり、やがて透明になる。お酒の瓶が独りでに宙に浮き、お猪口にお酒が注がれていく。
「と、透明になったっす」
千香は唖然として、今起こっている出来事にただ宙に浮いているお酒を見つめている。
やがて清姫は姿を現して再び晩酌を始める。
「……すごいわね、それじゃあ気づかないわけだわ」
雛は苦笑いをして呟くと、先程から口を開けて放心していた佳代子おばあちゃんが復活した。
「あまりの光景に止まってしまったわい、すまんのう清姫ちゃんとスケちゃん。それはわしのお酒なんじゃ。返しとくれ」
佳代子おばあちゃんが二匹に近づいてお酒に手を伸ばすと、清姫が尻尾で佳代子おばあちゃんの手の甲をピシッと叩いて抵抗をする。スケさんは我関せずというようにお酒を吸い続けている。
「痛いのじゃ。清姫ちゃん、それは元々わしのお酒じゃ。返してくれんかのう」
叩かれた手の甲を摩りながら佳代子おばあちゃんは清姫に懇願するも、清姫は尻尾を立たせて先端でお酒を指した後に先端部分だけを左右に揺らしている。まるでチッチッチッと馬鹿にしているようだ。
僕は佳代子おばあちゃんにおずおずと頭を下げて謝る。
「……あの、ごめんなさい。こうなった清姫は絶対に返しませんよ。……諦めたほうが」
詠美さんは佳代子おばあちゃんを宥めるように話す。
「そうですよお婆様。大人げないですよ。元々そのお酒は私がお婆様の罰として持ってきたお酒です。諦めてください」
「嫌じゃ嫌じゃ。わしがオークションで必死に競り落としたお酒じゃぞ。絶対に飲んでやるのじゃ。」
駄々っ子のように抵抗する佳代子おばあちゃんに、ルトと翼ちゃんがある提案をする。
「おばあちゃん。いっちょにのもうってきおひめしゃんにいえばいいでちょ」
「そうだよ、おばあちゃん。お互いにお酒が好きなら一緒に飲めばいいんじゃない」
二人の提案を聞いた僕は賛同して佳代子おばあちゃんに告げる。
「そうですよ。それなら清姫も納得しますよ。でしょ」
僕が清姫に向かって言うと、清姫は肯定するかのように頷く。
「ほら、あの子も頷いていますし。佳代子おばあちゃんも、ほら……」
僕は佳代子おばあちゃんの背中を押して2匹の前に近づける。
「すまなかったのう。じゃあ一緒に飲もうかの」
和やかなムードで終わろうとした矢先に、いつ間にか夏美さんが立っており佳代子おばあちゃんの着物の後ろの襟首を掴んで持ち上げられる。
「……お母さん、随分と楽しそうじゃないですか。家の壁をぶち壊して出て行った貴方が」
「しまった。すっかり忘れておったのじゃ」
佳代子おばあちゃんが慌てた様子で冷や汗を流す。
「じゃあ、壊した壁を治しましょうね。……ほら、行きますよ。ごめんなさいね、皆さん失礼します」
夏美さんに引きずられながら、佳代子おばあちゃんは連れていかれるのだった。
「……じゃあ、家に戻ろうか」
僕が皆に家に戻ろうかというと、今まで静観していた空ちゃんが笑い出す。
「ぷっ……、くくっ、やっぱり碧お兄ちゃんといると毎日が楽しいな」
空ちゃんはそう言って皆と家の中に入っていく様子を見て、僕は微笑みながら清姫たちに『じゃあ、中に戻るね』と挨拶を交わして家に入るのだった。