入学試験後のお疲れ会 7
「……遅かったのじゃ。詠美ちゃん酷いのじゃ、よりにもよって高いものから順番に取っていくなんて」
僕と空ちゃんが居間に戻ってくると、佳代子おばあちゃんが両手を床につけて嘆いていた。
「……どうやら遅かったみたいだね」
僕は手で頬を掻きながら佳代子おばあちゃんを見た。
「そりゃあ、詠美お姉様は自分の日記を全国に放送されたんだよ。佳代子おばあちゃんの自業自得です」
そんな佳代子おばあちゃんの様子を見ながらも追い打ちをかける空ちゃん。
どうやら梢さんと詠美さんは、佳代子おばあちゃんのコレクションのお酒をほとんど飲み干してしまったらしく、二人はみんなが座っているテーブルの方に移動して談笑していた。
梢さんが手に床をついて憔悴している佳代子おばあちゃんに向かって言った。
「佳代子さん、まだ全部飲んでないよ。最後の締めにと思って、日本酒が一瓶残ってるよ」
「ええ、二番目に高かった『胡蝶の夢』が残ってますよ」
詠美さんが梢さんの言葉に同意すると、佳代子おばあちゃんは顔を上げて元気を取り戻した。
「なに!?よかったのじゃ……でも、何処にあるのじゃ?見当たらぬが?」
最後の一瓶を佳代子おばあちゃんは、辺りを見渡して血眼になって懸命に探す。
「そんなはずないよ。あたしは確かにソファーの前の小さいテーブルの上に置いたんだけど。あれ……おかしいな」
梢さんは椅子から立ち上がり、ソファーの方に行き佳代子おばあちゃんと周辺を捜索する。
「おかしいですね。確かに梢さんがそちらに置くのを私も見たのですが」
詠美さんも不思議そうに首を傾げ困惑している。それを見ていた僕は、頭の中に犯人に心当たりが浮かぶが、皆にどう説明したらいいか悩んでいると、その表情を見ていた空ちゃんが僕に尋ねる。
「碧お兄ちゃん、どうかしたの?」
「……いや、もしかしたらと思って、……でも、皆になんて説明したらいいか悩んじゃって」
僕の曖昧な返答に空ちゃんは首を傾げながら喋る。
「……そうなの?普通に説明すればいいんじゃないの?」
僕の話が聞こえた佳代子おばあちゃんは僕に近づいて来て詰め寄る。
「碧ちゃん。消えたお酒が何処にあるか心当たりがあるかの、何処じゃ」
「教えますから。でもその前に、実は皆に言うことがあって、この家にあと三匹の住民がいるんだ」
「三匹?というと事はペットですか?」
詠美さんが僕の言うことに疑問に首を傾げていると、テーブルで話を聞いていた雛が僕に問いかけた。
「でも、ペットなんて見たことないわよ」
雛の言うことに肯定するように、千香と凛も頷いている。
「あの子たちは皆を驚かせないように、普段はみんなが帰ってから姿を現すからね。多分、縁側にいるから実際に見てもらった方がいい」
「……え?でもさっきあの場所に碧お兄ちゃんと二人でいたよね。見かけなかったけど」
疑問に思ったのか空ちゃんは僕に尋ねた。
「実はあの時もいたんだよ。縁の下と屋根の上に。気を使って出てこなかったけど、あの子たちはお酒が大好きだからたくさんある美味しそうなお酒に我慢できなかったんだね。じゃあ行こうか、みんな騒がないでね」
僕たちは全員で縁側の方に行くと、あり得ない光景に僕を除いた全員が驚きのあまり口を開けて固まっている。
「ね、説明が難しいでしょ。言っても信じてもらえないだろうし」
僕の言いたいことがわかって、皆が頷いている中で千香と凛が呟いた。
「これは確かに説明できないっす」
「不思議なの~奇想天外~」
縁側で鱗が銀色で一メートルはある大きな一匹の蛇と甲殻が銀色で覆われているソフトボールと同じ大きさの蜂がいて、それぞれの前にはお猪口が置いてあり、銀色の蛇が尻尾で日本酒を巻き付けて持ち上げ、それぞれのお猪口にこぼれないようにお酒を注いでいる。
「すごい器用にやるわね。」
あまりにも蛇の器用さに感心する雛。
「鱗が銀色の蛇に甲殻が銀色の蜂?あれ魔物か?」
魔物ではないかと疑問視する梢さん。
「不思議な組み合わせですね、あの子たちから何か威厳が感じられます」
詠美さんは二匹の堂々とした風格に何かを感じ取っていた。
「わ~。大きい蛇さんと蜂さんです」
翼ちゃんは二匹に最初は驚いたものの、興味本位で近づきたいのかうずうずしていた。
「へびさんとはちしゃんは、るとといっちょにひるねをよくちてくれるの」
二匹と面識のあるルトは翼ちゃんに自慢している。
「紹介します。蛇の方が清姫さんで、蜂の方がカクさんです。あと、今はいないようですが、もう一匹の蜂がいて、スケさんがいます」
僕は皆に紹介すると、清姫はこちらに頭を下げて挨拶して、カクさんは一番前の片足を上げて皆に挨拶するのだった。