入学試験後のお疲れ会 6~空ちゃんの場合~
「碧お兄ちゃん、ちょっと外に行こうか」
そんな空ちゃんの一言で、僕と空ちゃんは冷たい風が吹き、少し肌寒く感じる夜のなか、月の光と家の方から漏れる光を背にして、家の居間の方から賑やかな声がBGMのように聞こえる中、縁側に腰掛けた。
「それでどうしたの空ちゃん。何か悩み事?」
「悩み事ってわけじゃないんだけど、クソ兄貴のことが気にかかってて、私と両親が東京に行かずにクソ兄貴のことをもっと気にかけていたら、こんなことにはならなかったのかなって」
顔を下に向けて塞ぎ込んで、空ちゃんは兄の玲次のことを気にかけていた。なんだかんだ言ったって空ちゃんにとってはただ一人の兄貴なんだ。
「例え空ちゃんがここに残ったとしても、結果は変わらなかったと思うな。多分、陰に隠れていろんなところで問題を起こしてたと思うよ」
「……そうなのかな、でも、もしかしたらって考えちゃうんだ。私とクソ兄貴と碧お兄ちゃんの三人でダンジョンに挑んで行く未来があったかもしれないって」
(いつもは元気で明るい空ちゃんが、ここまで玲次のことで落ち込むなんて……そうだ!)
僕はそんなことを思いながら、空ちゃんを何とか元気にできないか模索すると、あることを思いついた。
「空ちゃん、夜空を見てて」
突然の僕の話に疑問を抱きつつ夜空を見上げる空ちゃん。
「碧お兄ちゃん?……どうしたのって、わぁ~、綺麗~」
僕は縁側から立ち上がり庭の中央に行って、夜空に向かってファイヤーボールを放ち、十分な高さまで上がったところで、今度は最近覚えたサンダーボールをファイヤーボールにぶつかるように計算して放つと、弾速の早いサンダーボールがファイヤーボールにぶつかって花火のように花を咲かせた。
「どんどんいくよ、それ!!」
僕は様々なバリエーションで夜空に魔法を放って花火を咲かせていき、魔力が尽きて疲れた僕は冷たい剥き出しの地面にも関わらず座り込んで息を整えながら休むと、笑顔に戻った空ちゃんが僕に近寄ってきて僕の横に腰掛けて話す。
「ありがとう、碧お兄ちゃん。私のためにしてくれてありがとう。おかげで元気が出たよ」
「ぜぇ……ぜぇ……、それは良かった。魔力切れになるまで頑張った甲斐があったよ」
僕は魔力切れのせいで呼吸が荒くなるが、空ちゃんに笑顔を取り戻すことができて満足する。
「でも、魔力切れになるまで魔法を空に打ち上げてよかったの?近所の迷惑にならないかな?」
空ちゃんの心配に僕は笑顔で答える。
「確かに数軒の家はあるけど、ほとんど空き家なんだ。魔物が出て来た時に対処できないからって、人の多い街に引っ越しちゃったんだよ。それとちゃんと近所に迷惑がかからないように計算したから大丈夫だよ」
「ほー、そこまで計算しておったのか、やるのう碧ちゃん」
突然、僕たち以外の声が聞こえ、声の方に視線を向けると、いつの間にか佳代子おばあちゃんが立っており、感心しながら喋る。
「でも、その子の言うとおり、魔力切れになるまで使ってはいかんぞ。気絶する可能性があって危険じゃからの」
「気をつけます。けど、なんでこちらに?」
僕の質問に、本来の目的を思い出した佳代子おばあちゃんが焦りだす。
「そうだった。こうしてはおれん。碧ちゃん、ちょっと家に上がらせてもらうぞ!!」
「はい、どうぞって……。もういないや」
僕の返事も待たずに佳代子おばあちゃんは家に向かって物凄いスピードで走っていき、しばらくすると家の中から佳代子おばあちゃんの『わしのコレクションがーーー!!』という悲鳴が聞こえてきた。
「ぷっ、……戻ろうか」
僕は佳代子おばあちゃんの悲鳴に少し笑ってしまう。
「……うん。碧お兄ちゃん。これからもよしくね」
そうして僕と空ちゃんはお互いに手を繋ぎながら家の中に戻っていった。