入学試験後のお疲れ会 5~ルトと古土姉妹の場合~
僕はテレビの方に向かうと、ルトと翼ちゃんがアニメ『吸血騎士リリー』のエンディング出てくるキャラクターに合わせて一緒にダンスを踊っていた。
二人のダンスは乱れることもなく、テレビに映っているキャラクターの動きに合わせてシンクロしておりキレのあるダンスを踊っていた。最近二人は、二階でドタドタと動く音が聞こえたが、どうやらこのダンスを練習していたらしい。
そんな踊る二人の後ろで、スマホで二人の踊る姿を動画撮影しながら優しく見守っている雛の隣に僕は腰を下ろし、踊っているルトと翼ちゃんに感心して雛に話す。
「二人とも凄いキレのあるダンスだね。」
「あのアニメのダンスを踊っている動画を募集しているらしいのよ。ほら、画面の右上に」
雛はテレビに指を向けている方に視線を向けると『動画を送ってくれるお友達を募集中』と確かに書いてあった。でも、僕には気になることがあった。
「動画を送るのは別にいいんだけど、どうしてダンスがパラパラなんだ?」
ルトと翼ちゃんが僕たちがテレビを見ていない時、居間にあるテレビで見ている為、僕たちもある程度途切れ途切れにアニメを見ているが、まるで雰囲気に合っていないように思える。
『吸血騎士リリー』は現代を舞台にしたアニメで、吸血鬼と人間のハーフの少女リリーが悪の組織や魔物と戦っていく少女向けのアニメだ。
現代のダンジョンが発生した現状と合わせており、少し過激に魔物を倒すシーンが再現されていて、少しでも子供たちに魔物に慣れさせるために制作されたと言われている。ちなみに、男の子向けのアニメはこの番組の前に放送されている、『殲滅戦隊アンチディザスター』という特撮ものだ。
疑問に思って首を傾げる僕に、雛が答える。
「何でも、いざ魔物が街に出て来た時に、少しでも体を動かしておけば逃げる時に役立つかもしれないからって。ほら、今の子たちはゲームやスマホばっかりいじって全然体を動かさないから。ルトちゃんと翼と違って」
「なるほどね。それで動画はいつ送るの?」
「二人はまだ動きが完璧じゃないからって、今は最終調整しているみたいよ。……それよりも、凛のことありがとね、うちは凛のこと気づいてあげられなかった、碧君には助けられてばかりだね」
顔を下に向けて俯く彼女に僕は話す。
「そんなこと気にしないでいいよ、恋人の悩みは僕の悩みでもあるんだから、助け合っていこうこれからもずっとね」
僕はそんなこと言って雛の手をそっと手に取り、握り締めながら話す。
「……うん」
雛は顔を赤くしながら短く返事をすると、ダンスが終わったルトたちが僕たちの方にやってくるとルトは僕の膝の上に、翼ちゃんは雛の膝の上に座った。
「どうでしゅか、おかあちゃん。わたちたちのだんすは」
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもちゃんと見てくれた?」
期待したまなざしの二人に、僕と雛は軽く手を叩き、拍手をして褒める。
「二人ともすごく良かったよ。これでまだ完璧じゃないの?」
「碧君の言うとおり、もう本番の動画を撮ってもいいんじゃない?」
僕と雛は二人を褒めるが、二人はまだちょっと納得できないようで。
「あと、いっかいちたらとる」
「そうだねルトちゃん。あと一回練習したら撮る!!」
どうやらまだ練習がしたいようだ。二人の本気が伺えてと感心していると、ルトは僕の手を取って立ち上がると。
「おかあちゃんもひなおねえちゃんもいっちょにおどろう」
「そうだよ!お兄ちゃんもお姉ちゃんも一緒に踊ろうよ!」
翼ちゃんも雛の手を取って立ち上がる。
「え!?できるかな。……ねぇ」
「……ええ。見るのと実際にやるのとでは違うから、……踊れるかな」
そうして僕と雛はルトと翼ちゃんのダンスを見ながらぎこちなく踊り、詠美さんと梢さんは『いいぞもっとやれ』と言いながら酒の入ったグラスを片手に持ち、千香と凛は料理を食べながら笑って見ており、空ちゃんはそんな僕たちをスマホの動画に撮影して笑うのだった。