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入学試験後のお疲れ会 4~千香と凛の場合~ 

僕は詠美さんと梢さんから離れ、テーブルにある料理を食べながら楽しそうに談笑している千香と凛の元に向かった。


千香は野菜を中心としたヘルシーなサラダを食べているが、凛は大きなどんぶりに入った山盛りのご飯にニラレバなどの肉類をのせてガツガツと食べていた。


僕は二人が座るテーブルの向かい側に座り、凛の豪快な食べっぷりを見て、思わず笑顔になった。


「碧っちの料理は本当に美味しいっすよ。いつものんびりしている凛があんなに一心不乱に無言で食べるなんて」


千香の言うとおり、普段はのんびりとした凛の姿しか見ていなかったため、こんなに早く動く凛に僕は驚きを隠せなかった。


「むぐっ、ふ~~。……もう、碧君の料理がないと生きていけない身体になってしまったの。久しぶりに家族で外食に行ったんだけど、あまり美味しく感じられなかったの。碧君の美味しい手料理を定期的に食べているせいか、何か物足りない感じがするの」


早口で真剣な表情で話す凛の隣にいた千香も共感するように頷いた。


「あ~~。確かに最近、私もそう思うっす。碧君の手料理にすっかり惚れ込んでしまったっす。これはもう身も心も染められたっす」


千香は自分を両手で抱きしめて大げさに表現して僕に視線を送る。


(よし、千香がその気なら僕も)


恋愛ドラマでたまに見かける定番の方法で千香にお返しする。


「じゃあ、もっと虜にしちゃおっかな。はい、あ~んして」


僕は野菜炒めの野菜を箸で摘まんで千香の口元に近づけると、彼女は顔を赤くしながら恥ずかしそうにパクっと食べた。


「と、突然のあ~んは卑怯っす。もう、私は、とっくに虜になっているのに、これ以上どうするっすか」


「じゃあ、今度はわたしなの~。あ~ん」


千香が恥ずかしがっている間に、僕は凛に小さな焼き肉を運んだ。凛は満足そうに笑みを浮かべた。


「今度は私が碧君にやってあげる番。はい、あ~ん」


「そうっす。碧っち口を開けるっす、あ~ん」


凛がニラレバを箸で掴んで僕に口を開けるよう催促すると、千香もサンチュで巻いた焼き肉を差し出してくる。


僕は順番に食べながら思った。


(初めてあ~んしてもらったけど、ちょっと恥ずかしいけど、結構嬉しいな)


僕は照れながら二人にお礼を言って、入学試験を終えた二人を労った。


「本当に二人とも入学試験お疲れ。千香は筆記試験の時、最後のギリギリまで空ちゃんが作ってくれた対策ノートを見てたね。僕は一番後ろの席から千香が頑張っているのを見ていたよ」


「そうっすか、いや~お恥ずかしいっす。あの時は教えられたことを忘れないように必死だったから」


千香は手で頭を掻きながら苦笑いした。


「最後まで頑張ったもんね。えらい、えらい」


僕は立ち上がり、千香の頭を撫でた。


「……もう、碧っち。恥ずかしいっす」


そう言いながらも、千香は嬉しそうに頬を緩めている。


千香の頭を撫で終わった僕は、凛の筆記試験の様子について話した。


「凛はまさか筆記試験が始まるまで寝てるなんて、びっくりしたよ」


「問題ないよ~。超余裕なの~。ふ~、ジュース美味しいの~」


凛はいつもののんびりした口調に戻り、買い物前に僕に宣言していたいろんなジュースが混ざった変色飲み物を飲んで一息ついた。


「碧君はちゃんと私たち一人一人を見てくれて、ううん、向き合ってくれて、ありがとうなの~。碧君は私のこの喋り口調を気にしないけど、昔はよく『馬鹿にしてるのか!!』って怒られたんだ。……だから今でもたまに夢に出るくらい。……私は普通に喋っているのに何でって」


「そんな悩みがあったんすね、凛。気がつかなかったっす」


千香も凛の悩みを初めて聞いたようで驚いていた。


凛は涙を流しながら、涙声で続けた。


「……だから、碧君も私のこの口調が嫌いだったら、頑張って治すから嫌いにならないでって。うっ!?」


僕はすぐに席を立ち、凛を力強く抱きしめながら話した。


「……もういいよ、凛。つらかったんだね。僕はそんなことで嫌いになるはずないじゃないか。誰がなんと言おうと、君は素敵な恋人だよ。ほら笑って」


「うん、ありがとうなの。碧君が恋人でよかったの、大好きだよ」


僕の抱擁から離れた凛は、涙を浮かべつつも輝く笑顔を見せた。


「碧っち、今のは皆の評価が爆上がりっす。よっ日本一」


おだててくる千香に僕は照れつつ、みんなに注目されて恥ずかしくなる僕に、凛はまた僕の胸に顔を埋めて話す。


「碧君、もうちょっとこのままでいい~?碧君の温もりを感じたいの~」


「もちろんいいよ、好きなだけ」


僕はそう言って、しばらく凛を抱きしめて、ルトと古土さん姉妹の元に向かった。

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