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入学試験が終わった後で3

僕は佳代子おばあちゃんが僕についてどのような話すのか、周囲の音が気にならないくらい集中してテレビを見ていた。


(面接で会った時は何も言わなかったのに、きっと心配させないようにしてくれたのかな)


『では、改めまして森崎さん、件の少年についてお聞きしてもよろしいでしょうか』


テレビ越しの会談なのにもかかわらず、アナウンサーの女性は若干の緊張した表情で佳代子おばあちゃんに尋ねた。


『うむ、でもその前に言っておくが、わしは少年の名前を公表しないからの、今更遅いかもしれんが。まだ少年なんじゃ。少年にマスコミが群がらないようにするために、わしが代わりに会談に応じたわけじゃ』


「碧君、おかえりなさい。」


テレビの映像に集中していた僕の周りには、いつの間にか冒険者たちがテレビに集まっており、詠美さんは冒険者たちに場所を開けてもらいながら僕の前に現れた。


詠美さんは僕の隣まで歩いてきて、ちらりとテレビの映像を眺めながら、申し訳なさそうに謝った。


「ごめんなさい、碧君。今回はお婆様が内緒で冒険者のPR動画を作ろうとしたことがきっかけなんです。まさかこんなことになるなんて……」


「別にいいですよ。確かに最初は驚きましたけど、もう今更って感じですし。テレビで悪く言われているわけでもないですし。……ただ、佳代子おばあちゃんにこのことは教えてほしかったかな。ここに来るまでの間、訳も分からずにいろんな人から見られて怖かった。空ちゃんたちはもう来てるよね」


「ええ、皆さん30分前に来ましたよ。よっぽど疲れたんでしょうね。席に座ってからすぐにうつぶせになってしまいました。今、ルトちゃんと翼ちゃんが一生懸命マッサージしていますよ。ほら」


詠美さんは奥の席が見えるように手で冒険者たちに退くように合図を送って、空ちゃんたちが見えるようにしてくれた。


すると、ぐったりと空ちゃんたちが対して、一生懸命にマッサージをする2人の頑張る姿を見て、僕はほっこりした。スマホで写真を撮りたい衝動に駆られたが、今はテレビに再び意識を向けた、詠美さんは僕の意識を汲み取り、寄り添うようにテレビを一緒に静かに眺めた。


『そうなんですか。時間の関係上、2つの質問にさせていただきます。まず一つ目は、なぜあの動画の出来事が起こったのでしょうか?そちらにご提供していただいた資料を見る限り、入学試験の項目に入学試験者同士の模擬戦は項目に無いのですが』


アナウンサーの女性は紙の資料をパラパラめくって確認する様子を見せた。


『そのことかの、まず、入学試験の項目に入学試験者同士の模擬戦はもちろん項目には入っておらんよ。戦闘技能だけが冒険者に必要な力ではないからのう。元々は一般人や冒険者を目指す若者に向けて㏚動画を作るために、わしがテレビ局に依頼したのがきっかけじゃのう。』


『ではどのようにして起こったのでしょうか?また過去にこの動画のように似たような事態は起こりましたか?』


佳代子おばあちゃんは少しだけ笑うが、すぐに真顔に戻って、真剣に答えた。


『はっはっはっ。そのようなこと、このわしが許すと思うか。当然、問題行動を起こす前に試験官を担当する冒険者に取り押さえられるわい。今回はちと事情があるのじゃ。お主に聞くが、過去に問題を起こしてニュースになった冒険者たちは何処に行くか知っておるかの』


『え!?、……そうですね、やはり冒険者用の刑務所があるんじゃないのでしょうか』


予想外の質問に自信なさげに答える女性アナウンサー。


『予想通りの答えじゃな。ではその刑務所はどこにあるのじゃ?』


佳代子おばあちゃんの追撃の質問に、女性アナウンサーはハッとした表情になる。


『そう、ないんじゃよ、そんな場所は。牢屋に収容してもレベルの高い冒険者には牢屋を壊すなんて朝飯前じゃからな。だからわしたち冒険者組合はある場所に目を付けた』


息を飲んで緊張する女性アナウンサー。


『……ある場所と言いますと』


『おぬしも知っておると思うよ。ほら、あるじゃろう。たった一日でその周囲にいた街の人たちが全員性別が入れ替わった大事件が』


女性アナウンサーは佳代子おばあちゃんのヒントから答えを導き出す。


『……もしかして2年前に起きた名古屋の集団性別逆転事件の事でしょうか?でもあの場所は2つのダンジョンに挟まれるように出現して禁止区域に指定されて……もしかして放棄された街を』


『その通りじゃ。一般人にはダンジョンから出る魔力は危険じゃが、冒険者にはまだ完全じゃないにしろ魔力に耐性があるからのう。試験的に始まって、今回ようやく目途がついたというわけじゃ。わしが今まで街の人たちには問題の冒険者たちに気づかれぬように黙ってもらっていて迷惑をかけてしまった。この場を借りて協力してくれた街の人たちにはわしが冒険者組合の代表として正式に謝罪する。』


佳代子おばあちゃんは立ち上がり、カメラに向かって頭を下げた。


「……お婆様、立派です」


詠美さんは感動したのか、目元に涙を浮かべていた。僕はそっとポケットからハンカチを出して詠美さんの涙を拭った。


周囲の冒険者から口笛を吹かれたりからかわれたりしたが、僕は気にしなかった。


『でも、もう心配無用じゃ。これからは問題を起こした冒険者はビシバシ取り締まるからのう。安心して暮らしてほしいのじゃ』


『でも放棄した街をそのまま使っているだけなんですよね。脱走される心配はないのでしょうか?』


心配な表情で質問する女性アナウンサーに自信満々で答える佳代子おばあちゃん。


『無論それも対策済みじゃ。おぬしはあの2つのダンジョンで何の魔物が出るか知っておるか。それぞれのダンジョンにはサキュバスとインキュバスしか出てこないのじゃ。』


そう言って佳代子おばあちゃんはテレビに向かって指を向ける。


『今、エロい妄想をしているテレビの前のお前たちに言うぞ。確かにそういうダンジョンじゃが現実は違うぞ、どの物語でもサキュバスとインキュバスも異性を誘惑するように描かれておるが、実際は同性を襲うのじゃ。あの魔物たちはサキュバスなら女性に、インキュバスなら男性に変えてしまう魔法攻撃を仕掛けて自分と同じ性別にしてから襲ってくるんじゃ。しかも心も性別に引っ張られて性格も変わってしまう。街におっても2つのダンジョンから出る魔力で耐性が低いと朝起きたら性別が変わってたりのう。

そう何度も性別が変えられる度に自分が男か女かわからなくなるのじゃ』


佳代子おばあちゃんは恐怖を煽るように話す。


『ひっ!!そんな恐ろしい魔物なんですね。……でもそれと脱走と何の関係があるのでしょうか?』


一瞬悲鳴を上げた女性アナウンサーは引きつった様子で質問した。


『2つのダンジョンはぞれぞれBランク。それに挟まれる形でちょうど中央にある問題の街は、2つの魔力がぶつかって相殺されてステータスを獲得したものにとってはまだ生活できるレベルなんじゃが、低レベルの冒険者では一歩でも街から出れば気絶してしまう。当然、問題を起こした冒険者たちは大抵の者は低レベルでその街に入ったら最後。高レベルになるまで街から出られないのじゃ』


(……玲次はそんな街に行くのか。ご愁傷様)


僕は玲次に静かに黙とうを捧げ、再び佳代子おばあちゃんの話に耳を傾けた。


『そしてその街に住む高レベルの冒険者にちょうきょ、ごほん!失礼。教育されて街から自力で出られる頃には真面目な冒険者になるというわけじゃ。それで最初の質問に戻るが、どうして今回の状況になったかというと、活躍した少年の模擬戦相手がその名古屋に連れていく問題を起こした冒険者たちの1人で、街に連れていく前に実力を確認するために会場に連れて来たところ、最後の悪あがきで少年と模擬戦をやらせろと喚き散らして仕方なく少年が引き受けてくれたというわけじゃ。』


こうして最初の質問は幕を閉じ、次は僕についての質問が始まるのであった。


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