入学試験9
玲次との決着がつき、最後の面接に臨むべく、試験官に1人で会場まで案内されている。
観客席にいた飛騨君達は、どうやら途中で面接に呼ばれていたようだ。
(いよいよ最後だ、頑張ろう!)
心の中で気合を入れて自分を励まし、案内されるままに進んで行くと、学園長室に案内されてしまった。
「あの、ここで面接するんですか?確か、観客席で説明された時は場所が違うようですが?」
観客席で待機していた時に軽く説明を受けたが、此処ではなかったはず。
「何でも、学園長が直々に面接してくれるそうです。それと先程の模擬戦の話を聞きたいそうです。私は面接が終わるまでここで待機しておりますので」
そう言って試験官の人は学園長室の扉をノックする。
「学園長、先程言われた灰城様をお連れしました」
すると扉の向こうから返事が聞こえてくる。
『うむ、入って来てくれ』
聞こえて来た学園長の声は女性のようだ。僕は緊張しながら扉を開ける。
「失礼いたします。……え」
入室していくと正面に立っている学園長の姿に僕は驚く。
今僕の目の前に見えている学園長の姿は、どう見ても翼ちゃんと同じくらいの小学生にしか見えない。
背は僕の腰くらいの身長で、小顔で狐目を思わせる鋭い瞳、黒髪のおかっぱで整えられてた髪、朱色の花の柄が描かれた着物を着ている。
「おお、すまんの。どうじゃ、驚くじゃろう、このパーフェクトボディに、わしに惚れちゃダメじゃよ」
ケラケラと笑いながら僕をからかってくる学園長に、僕はツッコミを入れる。
「惚れませんよ!……灰城碧です、よろしくお願いいたします。」
思わず学園長にツッコミを入れてしまい心が乱されるが、冷静になって挨拶をする。
「じゃあ、さっそく始めようかの、……ほい、終了」
「……え!?」
面接開始と同時に終了する予想外の事態に僕は戸惑う。
「すまん、すまん、説明をしなければならないかの。わしは職業『仙女』という珍しいものを獲得しておっての、見た相手の魂の色を見ることが出来るんじゃよ。魂の色は基本的に白く、黒に染まっていくほど悪人というわけじゃ。お前さんは驚くことに真っ白じゃ、そんな善人を試験に落とすわけないじゃろう。筆記の方も合格ラインじゃし、面接した所で合格が決まっておるのに、堅苦しい面接をしてどうする、時間の無駄じゃ」
そう言って、学園長は机に置いてある湯呑に入ったお茶を一口すする。
「僕が今まで面接の練習をしてきた努力はいったい……」
僕は立ちながら茫然としていると。
「まあ、まあ、そう落ち込むな、ほれ、まずはそこに座れ」
小さな長方形の机に、お互い向かい合うようにソファーが置かれている。
学園長にほだされて片側のふかふかのソファーに腰掛けると、学園長は机を挟んだ向かい側のソファーに腰を下ろす。
「まだ名乗ってなかったの。わしは森崎佳代子という、孫の詠美がお世話になっておるの」
「え!?森崎さんのおばあちゃん!?でも……」
「この姿のことじゃろ、ステータスを獲得してからこの姿に若返っての、お陰でぎっくり腰に悩ませる日々から解放され、おまけに身体が軽くて力も出るんで助かっておるわい、車だって持ち上げることが出来るんじゃよ、わし」
そう言って学園長は着物の袖をまくり力こぶを作って見せる。
「たしか『仙女』でしたっけ、すごいですね、若返るなんて」
「お前さんも珍しい職業を獲得しているそうじゃないか、詠美から聞いておるよ、『女騎士』に『魔物女王』そして『聖女』どれも珍しい職業じゃ。そして新たな職業を獲得できる称号『男の娘』、男にも関わらず女性限定の職業を獲得できる実に素晴らしい能力じゃ。どうか、その力の使い方を誤る出ないぞ」
学園長からの忠告に少しの間、沈黙が流れるが、僕は話を再開する。
「それで学園長、先程起きた模擬戦の話を聞きたいんですよね」
学園長は僕の話に一瞬キョトンと首をかしげたが、思い出したようでポンッと両手を合わせる。
「あ~、そんな話になっていたの。すまんの、それはここに呼ぶための建前じゃ。本題は別にあるんじゃよ、あと、わしのことは佳代子おばあちゃんと呼んでくれ、それで、ここに来てもらった理由じゃが……」
佳代子おばあちゃんは真剣な顔で話を始める気迫の様子に、僕は息をのむのだった。