入学試験 最上玲次サイド4
「さあ、あなた達がどれだけ動けるか確認するわ」
コロッセオを思わせる高い壁に囲まれた地面が剥き出しの場所に連れてこられた俺様達は、観客席に人がいることに気付く。
ルーチェが俺様達の視線の先にいる人たちに疑問を抱いていると。
「今あそこにいるのは実技試験を終えた受験生たちよ。あなた達も問題行動を起こさなければ、あそこでこの光景を見ていたでしょうに」
(くそ、俺様は見せもんじゃねぇぞ。呑気にこちらを見下ろしてんじゃねぇ!!)
俺様は観客席でこちらを見下ろしている奴らに腹を立てていると、誰かが観客席の中にいる1人の人物についてヒソヒソと話し声が聞こえる。
「おい、あれって最近話題になっているゴブリンの動画で映っていた」
「……ああ、アニメのキャラクターに似てるっていうコスプレ冒険者」
「確か、進化寸前までいっていたボブゴブリンを1人で倒したっていう」
俺様は今の話し声から聞いた、話題の人物に視線を向ける。
(……あいつか、気に入らねぇな。しかし、何か見覚えがあるような気が。……気のせいか)
ルーチェが手を叩き俺様達全員の雑談を止めさせる。
「はい、無駄話はこれでお終いよ。あなた達の実力を見てくださる冒険者を紹介するわ。Aランク冒険者の藤原梢ちゃんよ。」
「ちょっと『鋼鉄拳』。ちゃんづけで呼ばないでくれる。あと、近づかないでくれる。気持ち悪い」
「もお、『鋼鉄拳』って呼ばないでほしいわ。私の事はルーチェって呼んで」
ルーチェに文句を言いながらやってくるのは、片手に長い木製の棒を持った大学生くらいの女性だった。
「何がルーチェだ。詠美の奴も大変ね。こんなのが兄貴だなんて、あたしだったら殴り飛ばしてるよ」
「兄貴じゃないわ。あたしは立派なレディよって、詠美ちゃんと知り合いなの?」
「冒険者組合で仲良くなってね。それよりこいつらが問題児達か……。おい!!最上玲次、前に出ろ」
突然名指しで俺様を呼ばれ、ビクビクしながら前に出る。
「あんたが空の兄貴か、随分とやんちゃしてたらしいな。空を困らせて恥ずかしくないのかい」
「うるせぇ!!あいつとお前は関係ねぇじゃないか、他人が口を出してくるんじゃねぇ」
藤原は俺に向かって、人差し指を振りながら答える。
「チッチッチッ。それが関係あるんだなぁ~。あたしはいずれ遠くない未来に空と同じ旦那をもつ家族になるんだから関係大有りよ」
「……同じ旦那?まさか!?灰城の事か!!あんな、ザコのどこがいいんだ……ぐっ!!」
俺様が灰城をバカにしている途中で、藤原に服の襟首を掴まれて持ち上げられる。
「……あたしの目の前で碧君の悪口は許さないよ。でも、みじめなものね。碧君はどんどん強くなっていくのに対して、あんたはみじめになって、こうして碧君に情けない姿を見せているんだもの」
藤原が告げた一言に、俺様は驚愕する。
「なに!?灰城の奴があの中にいるのか」
「何言ってんの。ほら、あそこにいるじゃない」
藤原は話題になっていたコスプレ冒険者に指を向ける。
「……あれが灰城。全然、前に会った時と見た目がちげぇじゃねぇか」
「碧君はあんたに細工された、ステータスカードの細工を取ってレベルアップしたんだよ。解らないなんて言わせないよ」
(バ、バレてる。)
俺様は全身から冷や汗を流し、何か打開策はないか思考したが何も思いつくこともなく、ヤケになった俺様は藤原が掴んでいる手を振りほどいて、観客席でこちらを見下ろしている灰城に向かって叫ぶ。
「灰城!!降りてこい!!決着をつけようぜ!!俺様とお前のな!!」
俺様は自暴自棄になって、灰城に向かって叫んだのであった。