入学試験 最上玲次サイド3
「は~い。今引いた紙について説明するわよ。赤色の紙を引いた子は、当たりよ。向こうに着いたら、ある意味で新しい自分に目覚めることでしょう。青い色を引いた子は、赤色を引いた子の末路をじっくり見て、自分の番になるまで震えることになるわ」
「おい、何だよ!新しい自分って意味わからなーぞ!」
俺様と同じ赤色の紙を引いた男が、自称ルーチェと名乗るオネェに向かって叫ぶ。
「じゃあ説明してあげる。これからあなた達が向かうのは、2つのBランクダンジョンに挟まれた危険区域に指定された、退去せざるを得なかった廃墟の街を再利用してできた場所。言わば監獄のような場所なの」
(Bランクに挟まれて退去した街って、……まさか!?名古屋の)
「あら、気づいた子もいるみたいね。そうよ、名古屋にある2つの『色欲ダンジョン』と呼ばれている場所よ。……これがこの場所の周辺の地図よ」
そう言ってルーチェは後ろの黒板に巨大な地図を張り出す。
「色欲ダンジョン?それの何が危ないんだ?要はエッチなダンジョンってことだろ」
俺様の周囲にいる何人かは喜んでいるようだが、俺様には嫌な予感が先程からして、冷や汗をかく。
「馬鹿ねぇ、そんなわけないでしょ。この2つのダンジョンには、サキュバスとインキュバスがそれぞれいるの」
「サキュバスとインキュバス?やっぱりそういうダンジョンじゃないか」
誰かが口笛を吹いて冷やかしを入れる。
「じゃあ君は最初にサキュバスのいる色欲ダンジョンに潜りましょうね。言っとくけど、サキュバスが出す魔力の光線に当たると女性になるわよ。……身も心もね。インキュバスは逆に男になるわ。サキュバスとインキュバスは物語のように異性を誘惑するんじゃなくて、同性を誘惑するの」
ルーチェの最後の一言で場の空気が静まり返る。
「じゃあ、説明に戻るわ。赤い紙を引いたあなたたちは、サキュバスのダンジョンに潜って女性になってもらうわ。青い紙の子はインキュバスのダンジョンよ。一か月たったら、今度はそれぞれ逆のダンジョンに潜ってもらうわ」
「い、嫌だ。そんなダンジョンに潜りたくない。」
「そうだ、いくら何でも横暴すぎる」
周囲が反対の声が上がり会場は騒がしくなるが、ルーチェが教壇の机を叩くと、その衝撃音で全員を委縮し場が静寂になる。
「……横暴?何言ってんの?これは罰なのよ。今までいろんな方々に迷惑をかけたんだから当然よ。ちなみに集めた素材は、きっちりとあなたたち個人が迷惑かけた人々に現金に換金して、慰謝料として支払われるわ」
後ろで控えていた試験管の男性がルーチェに指摘する。
「ルーチェ様そろそろ先に進まないと時間が……」
「そうね、ありがとうステファニー。ちなみにあなた達も向こうに着いたらあたしが新しい名前を付けてあげるから楽しみにして頂戴」
ルーチェは腕時計で時間を確認すると、にっこりと、受験者たちにとっては気味の悪い笑顔を浮かべる。
「そろそろ次の会場に移る時間ね。次は念のためにあなたたちの実力を確認するわよ。はい、移動して」
もはや抵抗する気力もなく、ただ黙って列を作り移動する受験生たちは、次に何が始まるかという恐怖で頭がいっぱいだった。