入学試験3
ようやく僕がいる列が呼ばれ順番が回って来た。
試験会場に向かっている僕の後ろで先程までリラックスしていた飛騨君は先程とは違いカクカクとロボットを思わせるようなぎこちない動きで緊張しているのが分かる。
次の試験会場に到着した見たものは、コロッセオを思わせるただ広く円柱の壁が周りにあるだけの何もない地面が剝き出しの広い空間だった。
上の方に視線を向けると観客席になっており僕たちの前に試験を受けていた受験生たちがこちらを見下ろし見学している。
ここまで案内していた試験管に次の試験の内容を再び説明される。
「試験は先程説明した通りですが、上位の冒険者との模擬戦ですが個人で戦うのではありません。
今いる全員で入り口に立て掛けてある木製の武器を使って戦って貰います」
説明している試験管に自信満々の男の受験生が馬鹿にされたと思われたのか試験管になめてかかる。
「いいんですね。本気を出しても。ケガしても知りませんよ。……最も私一人で十分ですから」
何処からそんな自信が出るのか試験管になめてかかる態度の受験生に僕はほどほど呆れる。
そんな周囲の場の空気を遮るように。
「随分と威勢がいい奴がいるじゃない。御託はいいからさっさと始めましょうか」
長い棒を肩に担いでこちらに歩み寄ってくる女性に視線を向けた僕は目を疑った。
「あたしが実技試験を担当する藤原梢だよ。よろしく~」
藤原さんは僕の姿を見つけると僕に小さくウィンクする。
「君たちはあたしが上位の魔物だと思って協力して挑んできなさい。それが試験内容だ、ほらまだ他の試験項目もあるんだからチャッチャッと準備する。」
両手を叩き受験生に準備を急がせる藤原さんに、僕たち受験生は木製の武器を選ぶために入り口に向かう。
僕は使い慣れている聖剣に近い長さの木製の長剣を選んだ。飛騨君はナイフの形をした小さな木製の剣を選んでいた。
この模擬戦の試験を受ける受験生は8人いるが協力してくれそうな人は飛騨君を抜いて3人くらいだろう。
他の受験生は最初になめた態度を取っていた受験生と同じようで余程自分に自信があるようでこちらを見向きもしない。
僕と飛騨君は協力してくれるであろう先程からチラチラと視線を向けてくる3人に歩み寄って声をかける。
「僕たちは協力して挑みたいんだけど協力してくれるかな?」
2人の男性の受験生は無言で頷く。緊張して声が出ない様だ。
「は、はい!もちろん協力させていただきましゅ。リリー様……ふへへ、近くで見ることができるなんて」
声をかけた3人の受験生うちの1人でこの中で唯一の女性が声を噛みながら協力してくれることを承諾してくれるが、僕はアニメキャラではない。
この子、空ちゃんと同じ雰囲気の匂いがする。
「リリー様って何?灰城君」
飛騨君の質問に僕は肩を落とし憔悴して答える。
「僕の見た目が『吸血騎士リリー』って、アニメキャラクターにそっくりみたいで色々大変なんだ」
「なんか大変なんだね。深くは聞かないよ。その落ち込みようで大体わかったから」
僕に何かを察して同情してくれる飛騨君に感謝して、作戦会議をする。
「まずはこの全員で役割分担をしよう。僕は前衛になって注意を引くよ」
「じゃあ、灰城君と反対の位置に、試験官の背後に回って隙を狙って攻撃するよ。……自信ないけど」
飛騨君は手で髪を触りながら自信なさげに答える。
僕は木製の盾と長剣を持っている男子受験者2人に目を向けて伝える。
「君たちは僕の左右からお願いしたいんだけどいいかな?」
「……構わない」
「……俺もそれでいい」
「リリー様!!私はどういたしましょうか」
鼻息を出し、やる気に満ち溢れている女性受験生。その片方の手には小さい魔石の付いた木製の杖を手に持っていた
「君は杖を持っているってことは魔法がメインなの?」
「そうです。まだファイヤーボールしか出来ませんが頑張らせていただきます」
「よし、それじゃあ、距離を取って隙を見てファイヤーボールで攻撃をお願い」
「了解しました。リリー様」
彼女は僕に元気よく敬礼をして返事をする。
僕をリリー様呼ばわりを否定したいが面倒くさいことになりそうな予感がするのでやめにする。
僕たち5人は待っている試験管の藤原さんの元に向かう。
「そっちの5人は作戦会議はもういいのかい?そして、それに参加しなかったあんたたちも」
藤原さんは僕たちを見渡して、審判役の男性に目線で合図を送る。
「それでは試験を開始いたします。始め!!」
「おいでひよっこども。あたしがその力を試してあげる」
獲物を狙う肉食獣のような鋭い目つきで僕たちに視線を向け、こうして僕の実技試験は始まった。