最上玲次サイド 1
時を少しだけ前に戻り。
夜の自室で音楽番組の聞きながらエナジードリンクを飲み先程の光景を思い出し笑いをしていた。
(必死になってレベルを上げる様を見るのは最高に滑稽だったぜ)
まさか、まだ頑張っていたとはステータスカードに細工を施してあるとも知らずによくやるぜ。
俺は、ステータスカードを発明した妹の研究室に強引に見学をするふりをして、妹に睡眠薬を混ぜた飲み物を渡し、眠らせた後にプロトタイプのステータスカードを2枚、一般のカードとすり替えることに成功した。まさかあいつの言ったことが本当だったとは。
ステータスカードにレベルが一定以上になると俺の方に経験値が流れるように細工を施してから、碧の奴に空から頼まれたふりをして渡したが、あいつは何の疑問も持たずに受け取った。その時、笑いそうになるのを顔に出さずに必死に我慢したんだったな。
すると、玄関の方から扉の開閉音が聞こえてきた。
しばらくすると階段を上がってくる足音が聞こえてきて、俺の部屋の前で足音が止まった。
「兄貴、ただいま」
俺は扉越しに聞こえてくる久しぶりの妹に挨拶を交わす。
「お帰り、ステータスカードを開発した天才発明家の妹よ。聞いてくれよ、碧のやつまだ冒険者を目指してるんだぜ。笑えるよな」
「当たり前じゃん。碧お兄ちゃんは冒険者になるのが夢なんだから」
さも当然のように妹は答えたが、俺は妹に話しを続けた。
「今日、久しぶりに様子を見に行ったが、まだ諦めていなかったから現実を教えてやったよ」
俺は愉快そうに笑う。
すると、扉越しなのに妹の雰囲気が変わった様な気がした。
「……まさか、東京に行く前にあれほど碧お兄ちゃんのこと頼んだのに、見捨てたの?」
怒気を含んだ微かな声で、俺に訪ねてくる。
「頼まれてやったじゃないか、あの弱虫に現実を見せてやっただけだ、今頃あの公園で泣いてるんじゃないか」
空はドアを強く蹴り、怒り声を露わにして叫んだ。
「兄貴に頼んだのが間違いだったよ、碧お兄ちゃんは私たちを身を挺して助けてくれたのに、兄貴は碧お兄ちゃんを助けないんだね少しは思いやりがあると思っていたのに、少しは信じてたのに馬鹿」
そう言って部屋から乱暴な足取りの足音が遠ざかって行くきっと碧のいる公園に向かったのだろう。
「ふん、空の奴も兄であるこの俺様に媚びを打っておけばいいものを、碧のやつはずっと底辺であり続けるべきだ……そう昔の俺とは違うんだ……昔とは」
俺は飲み干した缶を潰しながら呟いた。