入学試験1
入学試験の当日。僕たちは試験会場にやって来ていた。
ルトと翼ちゃんは森崎さんが面倒をみてくれるそうで、入学試験が始まる前に森崎さんのいる冒険者組合に先にルトと翼ちゃんを預けてきた。
流石に家にルトと翼ちゃんだけでは危ないので森崎さんに相談した所、心よく承諾してくれた。
入学試験会場にやって来た僕たちは、試験会場の中央に存在を主張するように立つ黒い長方形の巨大な物体に視線が向かっていた。
「碧お兄ちゃんやお姉さま方も、あれやっぱり気になるよね。あれにステータスカードを押し当てると過去の討伐数とか本来表示されない項目を表示させることが出来るんだよ。もちろん私が開発した自信作だよ、ステータスボードって言うの」
ドヤ顔で自信ありげに説明する空ちゃんに納得する僕とは反対に驚いた表情で空ちゃん指を指して固まる古土さんたち。
「ちょっ、ちょっと待って空ちゃん。これ作ったの!」
古土さんは片方の手で空ちゃんの肩を掴み体を揺らし、もう片方の手でステータスボードを指さして尋ねる。
「実は凄い娘だったんすね。空っち」
普段とのギャップに、残念な娘を見るような目で空ちゃんを見つめる三島さん。
「時々灰城君の家に来ないのは、こういう物を作ってたんだ~」
四方木さんは素直に空ちゃんに関心を持っていた。
僕は古土さんたちだけに小声で話した。
「テレビでも公開されてないんだけど、空ちゃんはステータスカードを作った張本人だよ」
僕の話を聞いた古土さんたちは驚愕して口を塞ぎ、声を出さない様に必死に止める。
「驚かせてごめんなさいお姉さま方、言うのをすっかり忘れてました。てっきり碧お兄ちゃんが説明しているものだと」
「いや、僕も説明を忘れてたごめん。」
胸に手を当てて息を整え、落ち着きを取り戻した、古土さんは。
「でもお陰で納得したわ。冒険者組合で灰城君のステータスカードを説明してくれた時、普通の冒険者には知りえないことも知っていたし」
「でもその才能のお陰でこうして自分の職業を知ることが出来るんだから世の中わからないっす」
「不思議だよね~」
三島さんと四方木さんもそれぞれの感想を述べる。
「話はここまでにして、受付に並ばないと」
そうして僕たちは受付の列に向かって足を進めるのだった。
※
入学受付の順番が僕の番となり、受験票を挨拶をしながら受付の女性に渡す。
「よろしくお願いします。」
「はい、確かに受け取りました。あれ?きみってネット動画に出てた子だよね。頑張ってね、応援してるから」
応援してくれる受付の女性の声が周りに聞こえたのか周囲の視線が僕に向き、話し声が聞こえてくる。
「あれが動画に出てた吸血騎士リリーのそっくりさんか」
「うそ!?見てあの子。男性の制服着てるよ……ってことは男子!?」
「嘘だ!拙者の愛したリリーたんが……でもこれはこれで」
「うわ、綺麗~……でも何だろう女として負けてる気がする」
他にもいろんな声が聞こえてくるが、僕は気にせず周囲の声を無視して、受付のお姉さんと話す。
「ごめんなさい、こんなことになるなんて」
「いいえ気にしてません。……もう諦めましたからこの環境に」
肩を落としながら話す僕にお姉さんは苦笑いしたがすぐに元の表情に戻る。
「では、気を取り直して、ステータスカードをステータスボードに押し当ててください。今回は名前とレベルだけが表示される設定になっているので安心してくださいね」
説明を聞いた僕はステータスボードに近づきステータスカードを押し当てると名前とレベルが表示された。
灰城碧
レベル 24
残りの2日にスライムの魔石を集めるためにダンジョンに通っているうちにレベルが1つ上がっていた。
僕のレベルの高さに周囲はどよめいた。
受付のお姉さんは、軽く拍手をして僕を褒める。
「……素晴らしいですね。あなた方の年齢でのレベルの平均値はレベル12からレベル15です。君はあのネット動画の戦闘以外にも多くの戦いを乗り越えてきたのでしょう。入学してくるのが楽しみです。ではこの用紙を持って右の会場に進んでください」
「ありがとうございました」
そうお姉さんにお礼を言って、僕は次の会場に進んで行った。