入学試験に向けて
(あと3日で入学試験か……)
入学試験まであと3日に迫り、レベルが上がってからのこれまでの日々を、リビングでコーヒーを飲みながらゆっくりと振り返っていた。
少し前までは独りで過ごしてきた僕の家での静かな時間は、現在では静かな時間が信じられないくらいの賑やかな騒がしくも楽しい時間になっている。
「おかちゃん、きょうはなにちゅるの?」
僕の眷属作成で誕生したかわいい娘、ゴブリンのルト。
「そうだね、まずは掃除をして……」
僕は今日の予定を考えていると。
「碧お兄ちゃん、午後からは街に買い物に行こうよ」
幼馴染で最近恋人になった最上空。
「それよりも灰城君、勉強しなくていいの?冒険者学校専門の高校でも筆記試験はちゃんとあるんだからね」
「大丈夫だよ。筆記試験は自信がある」
僕に勉強を促そうとする。妹の為に頑張っていた、晴れて恋人になった古土雛。
「碧っちは余裕そうでいいっすね、自分は筆記試験は不安でいっぱいっす」
普段は明るく元気いっぱいで恋人の三島千香。だが今は問題集とにらめっこして覇気がない。
「無駄口してないで手を動かして~、じゃあこの問題は~」
三島さんに勉強をスパルタ指導しているのは、恋人の四方木凛。
「千香お姉ちゃん頑張って、みんなで揃って入学するんでしょう」
三島さんを励ましている、古土雛の妹、古土翼。
改めてリビングから見渡してみんながいる日常に自然と笑みがこぼれる。
「どうしたの?突然笑って」
空ちゃんが笑みを浮かべた僕にそっと寄り添って訪ねてくる。
「いや、なんかこういう日々が当たり前になったなって」
僕の言葉にやれやれとあきれ顔の空ちゃんが僕の背中を叩く。
「何言ってるの碧お兄ちゃん。これからはみんなでこの日々を守っていくんだから、しっかりしてよね」
(そうだ、これからみんなでこの日々を守っていくんだ)
「ごめんね空ちゃん、みんなで守っていこうね。でもその前に三島さんをどうにかしないと」
未だに問題集とにらめっこしている三島さんが心配だ。
「しょうがない、千香お姉さまの為に私が人肌脱ぎますか」
机にうつぶせになって、諦めている三島さんに近づいていく空ちゃん。
三島さんに優しく勉強を教えている空ちゃんの様子を納得できない表情で見ている古土さん。
「最初に聞いたときは驚いたけど、ほんとに空ちゃんも飛び級で入学試験受けるんのね。未だに千香に勉強を教えている光景に慣れないわ」
「そうですよ雛お姉さま。私これでも頭いいんですよ。まあほとんど職業のお陰なんですけどね。
ペーパーテストなんて、私にとってはただのお遊びです」
「そんな飛び級出来ちゃうほどの天才でも、碧君の前ではただの恋する乙女か、幸せ者ね灰城君」
「いやぁ、なんか照れますね。」
僕が照れていると、ルトと翼ちゃんが退屈した表情でやってくる。
「ねぇ、おかあちゃん。つばさちゃんとおそであちょんでいい?」
「いいですか、お兄ちゃん」
僕の服を掴んでせがんでくる2人に頭を撫でながら許可を出す。
「もちろんいいけど、家の庭までだよ。後ろの裏山は行っちゃだめだからね」
返事を聞いた二人は一目散に外に遊びに出かけた。
※
3時間ほどの時間が経過した時。
「よし、これで千香お姉さまも筆記試験は大丈夫でしょう。私が保証します」
三島さん問題の答え合わせをした、空ちゃんが満足した表情で頷く。
「……やっと終わったっす」
勉強に力尽きた三島さんがふらつきながら僕の元にやって来て、僕のソファーに座っている膝を枕にして横になる。
「ふふっ、碧お兄ちゃんは千香お姉さまをよろしくお願いいたします。私は雛お姉さま達の家事を手伝ってきます」
空ちゃんはそう言い残し、家事をしてくれている古土さん達の応援に向かって行く。
僕は事前に用意していた冷やしたタオルで三島さんの顔を拭いてあげる。
「あ~、気持ちいいっす~」
「三島さんお疲れ様。よく頑張ったね」
「これで問題なく入学試験に望めるっす、まだちょっと不安っすけど。……そうだ!、ん~~」
仰向けに寝ている三島さんが目を閉じて唇を僕に突き出す。
(三島さんは勉強を頑張っていたし、いいか)
僕は仰向けに寝ている三島さんの唇にそっと唇を重ねる。
唇を離すと赤を真っ赤した三島さんが僕を見る。
「自分で誘っておいてなんですけど、これ死ぬほど恥ずかしいっす」
「でもこれで元気出たでしょ。頑張ろうね入学試験」
「もちろんっす。みんなで合格するっすよ。だからあともう一回だけ、ん~~」
再び目を閉じて唇を突き出してくる。
「はは~ん、そうやって千香は灰城君に甘えるんだ~」
開きっぱなしの扉の近くの壁に背を預け、僕と三島さんの様子をニヤニヤして見ている古土さん。
「千香が甘える所なんてかなりレアなの~。記念に撮っておくね~」
スマホで僕と三島さんの写真を撮る四方木さん。
「千香お姉さまも意外と乙女なんですね」
部屋に入って思ったことを感想を述べる空ちゃん。
「これがラブラブってやつだね」
「てれびどらまみちゃい」
通路から顔を出してこちらを見ている、ルトと翼ちゃん。
「空っち、意外とは余計っす、乙女っすよ自分は。それよりもみんな何処から……」
「千香が一回目のおねだりしたあたりから」
古土さんがニヤニヤした顔を辞めずに答える。
それを聞いた三島さんは両手で顔を隠し、その場で悶える。
「それ初めからじゃないっすか、恥ずかしいーーー!!」
僕の膝枕で悶えている彼女に苦笑いを浮かる。
(入学試験みんなで合格したいな)
僕はそんな事を思って入学試験に望むのだった。