気絶からの目覚め
気絶から目覚めたら僕は自分の部屋に寝かされていた。
下から聞こえてくる楽しげな会話を聞きながら、僕は階段を下りて皆がいる場所に向かう。
僕が気を失った間に随分仲良くなったようだ。
「碧お兄ちゃん、さっきはごめんなさい!!つい舞い上がっちゃて、このとおり!!」
僕の前でスライディング土下座を決める。
「別にいいけど、毎回あれは嫌だからね」
その僕の言葉を聞いた空ちゃんは驚いて顔を上げた。
「えっ、それってたまにならいいの?」
僕は顔を真っ赤にして彼女の視線をそらし頬を搔きながら。
「たまになら……ね」
「やっふぅ~~!!じゃあじゃあ前に断られたアニメのコスプレはルトちゃんと一緒に!!」
空ちゃんはバネが入ったように跳び起き、小躍りして大胆に追加のお願いをしてくる。
「それは嫌だ」
「ちぇ~今ならいけると思ったんだけどな。ルトちゃんも碧お兄ちゃんとお揃いの服、着たいよね」
「おかあちゃんとおそろい!!きちゃい!!」
翼ちゃんとオセロで遊んでいたルトが空ちゃんの言葉に賛同する。
「ちょっと!!ルトを使うなんて卑怯だぞ!!ルト、僕はコスプレはちょっと……」
「全員これを見て」
空ちゃんはスマホをポケットから取り出し、僕に前に見せてきたアニメ画像を全員に見えるように掲げる。
「灰城君にそっくりね、このアニメのキャラクター、似てる」
古土さんはその画像と僕を見比べながら感想を言う。
「自分知ってるっす。これって日曜日の朝にやっている女児向けのアニメっす」
「吸血騎士リリーだよ~今かなりの大人気で~確かに灰城君に似てる~」
三島さんと四方木さんはアニメは知っていたようだ。
「翼知ってるよ。毎週欠かさず観てるもん。面白いんだよ、悪と戦う正義の味方なんだよ」
翼ちゃんはルトにこのアニメについて教える。
「ちょうなの?わたちまいにちおかあちゃんのてつだいちてたから、ちらなかった」
ルトがそのアニメに興味を示す。
「ふっふっふっ、知ってる碧お兄ちゃん。ボブゴブリンを倒した時の映像がネットに流れていたことを」
「えっ!?でも周囲には人はいなかったよ」
「車のドライブレコーダに映ってたみたいだね。ちょっと待って、あった……これ」
空ちゃんから渡されたスマホには確かに僕がボブゴブリンと戦っている映像が映っていた。幸いにも顔まではっきりと映ってはいない。
「碧お兄ちゃんもこの吸血騎士リリーと同じ様に甲冑を纏って戦うでしょ。だから……」
再びスマホを操作した空ちゃんが、あるページを表示させるとそっと僕にスマホを差し出す。
「なになに、愛知県豊橋市で起きたゴブリンのスタンピードに、吸血騎士リリーが現れ、街を救ったって……」
ネットニュースに僕が載っている事に驚き、スマホを持っている手が震える。
「……灰城君大変ね、街を救ったのに別の意味で注目を集めるなんて」
古土さんは僕の肩に手を置いて同情する。
「何か最近声かけられたり、視線を感じたりしない?」
空ちゃんの質問に、僕は最近の出来事を思い出す。
「……ある。スーパーにルトと買い物に出かけた時、やたらと小さい女の子に握手を求められたり、手を振ってきたり……そうか、このキャラだと思われてるのか」
「人のいい碧っちは、小さい子を邪険にせず、構ってあげる様子が目に浮かぶっす」
三島さんは僕の予測できる行動に、納得した様子でうなづく。
「もう戦う姿がコスプレみたいになってるから~今更じゃないかな~」
四方木さんがスマホの動画を見て、素直な感想を述べる。
「ぐふっ、だ・か・ら・諦めよ♪ルトちゃんとお・そ・ろ・い・で♪」
口角に少し涎を垂らしながら、空ちゃんが邪悪な笑みを浮かべた顔を僕に向ける。
「おかちゃんとおちょろいのふく、きちゃいな」
上目遣いでお願いしてくるルトの笑顔に僕は渋々頷くのであった。