笑顔の昼食、からの・・・
「ふ~、ごちそうさま。すごくおいしいよ」
僕は、古土さんと三島さんが作ってくれた昼食を食べ、満腹になった腹をさすり、2人にお礼を述べる。
「ごちしょううさまです、おいちかった」
ルトも小さく体を左右に揺らしご満悦だ。
「お粗末様、よかった口に合って、料理で灰城君が育てている野菜を使わせてもらったけど、すごい中身もしっかりと身が詰まってるね。これ販売できるんじゃない」
「そうッスよ、野菜嫌いな翼ちゃんがあんなに笑顔でサラダを食べるなんて驚いたッス」
「わたしもトマト苦手だけど、初めてトマトが美味しく食べられたの~」
隣で食べていた翼ちゃんが、僕の着ている上着の袖を軽く摘まんで引っ張り、嬉しそうに僕に話す。
「翼ね、レタスとかトマトが嫌いでちょっと食べたら残そうと思ったけど、美味しくって全部食べられたんだよ」
それを聞いた僕は嬉しくなって、翼ちゃんの優しく頭を撫でると僕の反対側にいるルトもねだりはじめる。
「おかあちゃん、ルトにも」
僕が2人を両手で忙しく撫でている光景を見て、古土さん達はクスリと笑みをこぼす。
「大変ね~灰城君、傍から見たら仲のいい姉妹みたいよ」
「記念に一枚撮っておくッス」
三島さんがポケットからスマホを取り出し、カメラを僕に向けて写真を撮った。
「あとでその写真、送って欲しいの~。待ち受けにするの~」
四方木さんも欲しいと、三島さんにお願いしている。
「千香、それうちにも送って。灰城君、かっ、勘違いしないでよね。翼が映っているものを貰うんだから」
古土さんは、顔を真っ赤にしながら慌てて言い訳をし、僕に顔が見えないように視線を逸らす。
そんな古土さんの様子を見ていた三島さんが、彼女に指をさしてダメ出しをする。
「雛っち、いつからツンデレになったんッスか? それに、この数日間、毎日のように通っておいて今更ッスか、このヘタレ!」
「そうなの~。堂々と灰城君に宣言すればいいの~。女は度胸なの~」
ルトと翼ちゃんには知らない言葉があったようで、二人は首をかしげながら僕に質問をする。
「……ツンデレ? ヘタレ? お兄ちゃん、どういう意味?」
「おかあちゃん、おちえて」
「え、え~と」
僕は、つぶらな瞳でルトと翼ちゃんの二人が純粋な気持ちで自分のわからない言葉を質問している姿を見て、正直に答えていいのか悩んでいると。
「それはね、簡単に言うと、自分に素直になれなくて、好きな相手に正直に言えないことだよ」
すると突然、僕の後ろから声が聞こえ、声の持ち主の方へ体を振り向けると……。
「ハロー……、碧お兄ちゃん。私が数日いない間に、随分とにぎやかになったね……」
空ちゃんは軽く片手を上げて、さわやかな笑顔で挨拶する。しかし、その笑顔が今は怖く見える。実際に近くで見ていたルトと翼ちゃんが僕に抱きつきながら震えている。
「……さ~て、こうなった状況を当然説明してくれるよね、……碧おにいちゃん」
空ちゃんが僕の顔にゼロ距離まで笑顔で顔を近づけて聞いてくる迫力に、僕は壊れた人形のように顔を上下に揺らすのだった。