第13話 問題冒険者の捜索1 ~そのクワ、聖剣につき~
「洞窟型のダンジョンに入るのは初めてなんですが、結構明るいですね」
もっと先が見えないほど暗く、進みにくい場所を想像していたけれど、実際に足を踏み入れてみると、壁面の苔がぼんやりと発光していて意外と視界は良好だ。
「ふふっ、最初にいらっしゃる方は皆そう仰いますよ。でも気を付けてください。ここでは一瞬の油断が命取りなんです。この洞窟のような入り組んだ場所で、数ヶ月に数名の冒険者が命を落としているのも事実ですから」
「……肝に銘じます」
「っと、早速お出ましですね」
詠美さんの警告が終わるや否や、通路の奥からその影は現れた。
アルマジロを巨大化させたような魔物――『メタルアルマジロ』だ。
「おおきいまものだにぇ~、あのせにゃかにのってみたい!」
「こらっ、ルト! 近づいちゃだめだよ!」
目を輝かせて駆け寄ろうとするルトを、僕は慌てて抱き止めて制止する。確かにちょうど良く乗れそうな背中をしているけれど、あれは遊具じゃない。
「あの魔物が、このダンジョンの代表格『メタルアルマジロ』です。例の冒険者たちは、この魔物の素材を求めて入り浸っているようですが……」
のろのろと歩くその姿からは、そこまで危険な魔物だという実感が湧かない。
「見た目はそんなに危ないようには見えませんね」
「ちいちゃいおめめがかわいいの~」
「二人とも、その油断が一番危険なんです」
詠美さんが真剣な表情で、ピッと人差し指を立てる。
「あの背中の甲殻は、名前の通り『生きた金属』です。車や航空機の装甲材にも使われるほど強固で、生半可な武器では傷一つつけられません。あの突進をまともに食らえば、人間なんてひとたまりもありませんよ」
「……なるほど。車並みの装甲が突っ込んでくるようなもの、ですか」
油断ならない相手だ。気を引き締めないと。
「わかりました。まずは僕が、あの装甲に攻撃が通じるか試してみます」
僕は前に出ると、『甲冑召喚』と『聖剣召喚』を同時発動させた。
光の粒子が集束し、深紅のドレスアーマーと、透き通るような刀身の長剣が形成される。
切っ先に魔力を集中させ、僕はメタルアルマジロとの距離を一瞬で詰めた。
「せいっ!」
横薙ぎの一閃。
「……あれ?」
カキンッ! という金属音……は、しなかった。
まるで熱したナイフでバターを切るように、僕の聖剣は鋼鉄の甲殻を抵抗なく切り裂いたのだ。
「ギィッ……!?」
メタルアルマジロは断末魔を上げる暇もなかった。一瞬の静寂の後、綺麗に両断された巨体が左右にずり落ち、ズシンと重い音を立てて絶命した。
「す、凄い……! 正真正銘の『聖剣』ですね……」
「これなら、奥に進んでも問題なさそうですね」
詠美さんがほっとしたように胸を撫で下ろす。
「あとは……ルトちゃんの攻撃が通用するかどうか、ですが……」
「わたちもがんばりゅの! このくわで、てきをたがやちてやるの!」
ルトは背負っていた「平鍬」を頭上に掲げ、やる気満々だ。……うん、可愛いけど、やっぱり絵面がシュールだ。
「で、でも、あの鍬はお家で使っている普通の農具ですよね? さすがに金属の魔物相手には……」
「そうなんですよね。ルトはあの鍬で一応スライムを倒してはいたんですけど、流石に今回は無理があるんじゃ……」
僕と詠美さんが不安視する中、通路の角から新たなメタルアルマジロが現れた。しかも今度は、仲間がやられたのを察知したのか、最初から臨戦態勢だ。体をボールのように丸め、ゴウゴウと回転音を上げながら突っ込んでくる!
「では、いってきまちゅ!」
「ちょ、危ないよ、ルト!」
僕の制止も聞かずに、ルトは元気よく駆け出した。その時だ。
「……え? 詠美さん、僕の目がおかしいんですかね。ルトの持っている鍬が、光っているような……」
「……ええ、私にも見えます。神々しいほどに発光していますね」
かつてホームセンターで1,980円で買ったただの鍬が、伝説の武具のようなオーラを纏っている。
「よいちょっと~!」
ルトは迫りくる鉄球に対し、畑を耕すような軽い掛け声と共に鍬を振り下ろした。
ドォォォンッ!!
激しい衝撃音。次の瞬間、鋼鉄の回転体は真っ二つに叩き割られ、地面にめり込んで絶命した。
「……」
「……」
僕と詠美さんは開いた口が塞がらない。そんな静寂の中、ルトは仕事を終えた鍬を、手の中でクルクルと器用に回転させる。そして――ビシッ!
幻聴の効果音が聞こえてきそうなキレのある動きで、戦隊ヒーローのような決めポーズを取った。
「どうでしゅか! るとのくわしゃばきは!」
「す、すごいよルト! 助けに入ろうと思ったけど、全然心配なかったね……」
「見ていて頼もしいどころか、末恐ろしいですよ……」
「むふ~、そうでちょ~」
胸を張ってドヤ顔を決めるルト。僕はおそるおそる尋ねてみた。
「ねぇルト。さっき鍬が光ってたけど、あれは何をしたの? そんなスキル、ステータスには無かったはずだけど」
「そうですよルトちゃん。私も気になります」
ルトはきょとんと首を傾げ、あっけらかんと言い放った。
「あれは、おかあちゃんのすきるでしゅよ。『せいけんしょうかん』ってやつでしゅ!」
「えっ、聖剣召喚?」
ルトが再び鍬を構えると、またしても鍬が「ブォン!」と輝きだした。
「おかあちゃんみたいに、なにもないところからはだせまちぇんが……もっちぇいるものを、『ぎじてき』な? せいけんにできるらちいでしゅ!」
「擬似的な……聖剣……?」
「あい! むずかちいことはよくわかりまちぇんが、『つよいこうげきがしちぇい!』っておもったらできまちた!」
感覚派だ。天才肌すぎる。
「なるほど……確かにルトちゃんの称号『灰城碧の眷属』には、『スキルの一部を行使できる』とありましたね」
「まさか、僕の『聖剣召喚』のスキルを、手持ちの武器に付与する形で発現させたってこと……? 下手したら僕より使いこなしてるんじゃ……」
「ふふ、頼もしいじゃないですか。これなら万が一、複数の魔物に囲まれても安心ですね」
「はい。いざとなったら僕が結界で詠美さんを守りますから、ルトと連携して進みましょう!」
「しゅぱーちゅ!」
最強(最恐)のボディーガードを得て、僕たちはさらにダンジョンの奥へと進んでいくのだった。




