お留守番はトラブル多め! 4
清姫とイクスがパソコンでピザ注文に成功して、小躍りしていたその同じ頃。
食品スーパー『フェアリー・フレッシュ』
『リズムに合わせて、ボタンを押して応援してね!』
「ほうほう、最近のゲームはすごいのう。昔とは大違いじゃわい」
「……お母様」
レジ横のガチャガチャ列の端に、まるで忘れ去られたかのようにぽつんと置かれた幼児向けゲーム機。
可愛らしいカードを差し込んで遊ぶリズムゲームの筐体の前で――。
数人の幼女にじっと見られながら、画面のアイドルに合わせてリズムよくボタンを叩いているのは。
見た目は幼女、中身は八十五歳。森崎佳代子その人であった。
しかも片手には、酒のつまみがぎっしり詰まったビニール袋をぶら下げたままである。
休日でごった返すスーパーの中、堂々と女児ゲームに夢中になる母の姿に、私は思わず顔を押さえた。
先に清算を終え、お母様を探してみれば――。
まさかこんなところで、まさかこんな遊びに熱中しているなんて、誰が想像できるだろうか。
「はぁ……」
私がため息をついていると、お母様の友人らしき二人の老婆が現れる。
彼女たちはお母様の様子を見て一瞬固まったが、すぐに「佳代子さんだしなぁ」と納得顔で話しかけた。
「おや、佳代子さんじゃないか。ちょっと近くの喫茶店でお茶しないかい?」
「すまんのう、今は夏美と買い物に来とるから、また今度のう」
「佳代子、また暇な時に麻雀しようじゃないか」
「二日後なら大丈夫じゃぞ」
会話をしながらも、お母様の視線はゲーム画面に釘づけだった。
友人たちが去ると、ちょうどゲームがクライマックスに突入したらしい。
派手なBGMがキラキラと響き渡り――。
『タイミングを合わせて!』
「よっ、はっ!」
お母様はボタンを叩きながら、体までリズムに合わせて揺らす。
見ているこっちが恥ずかしくなるくらい全力だ。
(……やはり体が若返ると、精神も若返るのでしょうか。これではどちらが母親かわかりませんね。はぁ……)
私はそんなことを思いながら、お母様がゲームを終えるのを待つしかなかった。
やがて、ゲームに満足したお母様の年代物のガラケーにメールの着信音が鳴り、差出人を確認すると――
「お、清姫ちゃんからじゃ」
「えっ? あの子、メール打てるんですか? というか、やりとりしてたんですかっ!?」
清姫ちゃんがパソコンを使えるようになったと碧さんから聞いてはいましたが、メールまでできるなんて……びっくりです。
「何っ!? 碧ちゃんたちはダンジョンに行って、ルトちゃんたちが家で寂しく留守番をしているじゃと!? こうしてはいられん! 夏美っ! わしは今から碧ちゃんの家に行くからの!」
「え? ちょっと……」
お母様は私に一方的にそう言うと、私の返事も聞かずに走り去ってしまった。
 




